Forget-me-not -約束の記憶-



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────この日を、待っていました…さあ、約束です…私を、殺してください

これは、不治の病を負った少女と、とある死神のお話。勿忘草の花が、枯れるまでのお話。





演者:2人

上演時間:約30分

演者比率
♂:1 ♀:1



登場人物
ルーナ・アンジェ♀
不治の病を負った少女。
ラングレン(略称:グレン)♂
死神の男。

※作中、ラングレンのセリフ語尾に「♪」の記号がありますが特に意味はありません、「♪」は気にせずに普通にセリフとして読んでください。


役表
ルーナ:
ラングレン:



セリフ



ルーナ(M):私の命は、この「勿忘草(わすれなぐさ)」が枯れるまで


グレン:…ふふん、ターゲット、みっーけた♪






──とある病院の一室、窓の外をベットの上から眺める少女






ルーナ:今日も、いい天気ね…はぁ…鳥はあんなに高く飛べるのに…なんで私はこんな病院のベッドの上で……まるで羽をもがれたチョウチョの気分だわ… 


ルーナ(M):私はルーナ・アンジェ、小さな頃から病弱で、体が弱く、ほかの子たちのように、外で走り回ることさえも、簡単にこなすことは出来なかった…そんなある日、お医者様から宣告された病名…不治の病だった…あと何年も生きられない、そう聞いた時は、とてもショックで、声すら出なかった…


ルーナ:…どうせなら、私の人生最大級のおかしな出来事でも目の前で起きてよ…1日中ベットの上で外を眺(なが)めるのは、もうつまらないわ…

グレン:へぇ、つまらない、か♪

ルーナ:!?





──振り返ると、真っ黒な服装の見知らぬ男が立っていた





ルーナ:あ、あなた…誰!?どこから入ったの!?ここはお医者様と看護婦さんしか入れないはず…

グレン:あー、それなら心配ご無用さ、そのお医者さまってのには、俺の事は「見えない」から

ルーナ:…え?

グレン:俺は、「死神」だからな♪





──空気が一瞬固まる





ルーナ:…えーと……あの、精神科病棟(せいしんかびょうとう)なら上の階ですよ…?

グレン:おいコラ!人を精神疾患者(せいしんしっかんしゃ)みたいに言うな!それに俺はいたって正常だが?

ルーナ:…正常な人がいきなり「俺は死神だ」なんて言わないと思うんだけど…

グレン:あー、お前、信じてねぇな?

ルーナ:当たり前でしょ、嘘もいいところよ

グレン:ふーん、そうか…じゃあ、俺が死神だって言う証拠を見せてやる、その花瓶の花をひとつよこせ

ルーナ:え、これ?





───ルーナ、ラングレンに花を渡す、すると、花はみるみるうちに枯れていく





ルーナ:!?…うそ…手に持っただけなのに、花が…枯れた…

グレン:どぉだ?これで信じたろ?♪ 

ルーナ:どんな手品を使ってるの!?私にも教えて!

グレン:意地でも信じねぇ気だなこのお嬢ちゃんは!…手品でもマジックでもなんでもねぇし、種も仕掛けもない、いい加減、現実を受け入れろ

ルーナ:…じ、じゃあ…あなた、本当に、死神さんなのね…?

グレン:だから、さっきからそう言ってんじゃねぇかよ

ルーナ:…死神さんが来たってことは…もしかして…

グレン:あぁ、お嬢ちゃんのお察しの通り…お前はもうすぐ死ぬ

ルーナ:!…そう、なんだ…

グレン:まあ、今更(いまさら)命乞(いのちご)いしても遅いけどなぁ♪

ルーナ:…そんな、命乞いなんて…しないよ…

グレン:ふーん、今回のターゲットは素直で扱いやすいな、もう少し怖がったっていいんだぜ?なんならそれらしくもっと怖がらせ※(ルーナのセリフ被せ)

ルーナ:※ねえ、死神さん…私を今すぐ殺して

グレン:……………は?

ルーナ:アナタ死神さんなんでしょ?なら、今すぐ殺してよ

グレン:…何言ってやがる…お前、死が怖くないのか?

ルーナ:怖くないかいって言われれば、怖いわ…けど…

グレン:けど?

ルーナ:…私なんて、生きててもしょうがないもん…小さな頃から体が弱すぎて友達とも遊べなくて…いっつもひとりぼっち…親にも見捨てられて、今はこの病院が私のお家みたいなものよ…もうイヤなの、1人でこの窓の外を眺(なが)めるのは……イヤなの…

グレン:……まあ、お前の言いたいことは何となく分かった…けどナ?俺にも俺のルールと言うか、「死神のルール」ってモノがあるんだよ…お前の寿命はまだ残ってるからな、残念だが、今すぐは殺せねぇ 

ルーナ:…じゃ、いつなら、殺してくれる? 

グレン:うーん、そうだな……んじゃ、その花瓶の花が全部枯れる頃…そん時に、お前の生命(いのち)を取りにくる、だからそれまで勝手に死ぬんじゃねえぞ?この窮屈で退屈なベットの上でいい子で待ってたら、ちゃんと俺様が、ご褒美(ほうび)に殺しに来てやらぁ♪

ルーナ:この花が、枯れる頃………わかったわ…待ってる

グレン:ふふん、死神さんとの約束、だせ?ルーナ・アンジェ

ルーナ:え、なんで、私の名前……

グレン:死神様はお前のお医者様より、ターゲットであるお前のことをなんでも知っているのだ~

ルーナ:…ふはは…何それ

グレン:お、ようやく笑ったな

ルーナ:え、私、笑ってなかった?

グレン:全然、笑顔のえの字もなかったし、まるで石膏像みたいな顔してたぜ、お前、けど、今はちゃんと人の顔だ♪

ルーナ:石膏像みたいなって、酷いなぁ…ふふ…ねぇ、死神さん

グレン:なんだ?

ルーナ:お名前あるの?

グレン:お、俺の名前か?いいかよく聞け、俺様は世紀の大死神(だいしにがみ)、ラングレン様だぁ!まあ、グレンとでも呼んでくれ♪ 

ルーナ:グレン…待ってるから、殺しに来てくれるの

グレン:おお、クビ長〜くして待っとけ♪


ルーナ(M):そう言うと、死神さん…グレンは煙みたいにふわっと消えていった…私は、花が枯れるのを待っていた…





───数日後





ルーナ(M):グレンと会ってから、幾日(いくにち)か過ぎたある日、私は、看護婦さんが嫌味(いやみ)のように毎日毎日とりかえる花瓶の花を、ベットの上で終始(しゅうし)睨(にら)みつけていた



ルーナ:これじゃいつまで経っても枯れないじゃないの…あーあ、花、早く枯れないかな… 

グレン:んー?なんだ〜?そぉんなに俺に会いたかったか?

ルーナ:わぁ!?グレン!?い、いつの間にそこに!?

グレン:ほほ~、なぁんだなんだ、この花は見に来るたびにいつもイキイキしてるな♪…それに比べてお前と来たら、まるで石の下のダンゴムシみたいな顔しやがって

ルーナ:ダ、ダンゴムシ…?!失礼な!それに、私はあなたに会いたかったわけじゃないわ!

グレン:知ってるさ、俺じゃなくて、命を狩られんのを待ってんだよな?

ルーナ:…っ

グレン:ほんと、可愛くねぇなぁ

ルーナ:可愛くなくて結構です

グレン:あぁ~そうですかいそうですかい 

ルーナ:…可愛くなったら、殺してくれるの?

グレン:はぁ?馬鹿かてめぇは、この花が枯れる頃っつったろ

ルーナ:じ、冗談なんだけど…でも、看護婦さんが毎日毎日、このお花取り替えてるから、ちっとも枯れやしないわ…

グレン:そーかそーか~、じゃ、もうちょいかかるかもなぁ~♪

ルーナ:いちいちムカつくわね…ねぇ、この花、あなたの力で枯らしちゃダメなの?

グレン:それは俺のルールに反する

ルーナ:あなたのルールってごちゃごちゃしてて難しいわ…

グレン:お褒めの言葉ありがとう

ルーナ:褒めてないんだけど…

グレン:おや、それは失敬…んじゃ、またなぁ~

ルーナ:あ、ちょっと!!……消えた…もう、なんなのよ、あの人は…いや、あの死神さんは……ふふ、明日も、来るかな……



ルーナ(M):いつの間にか、私はグレンが病室に現れるのを楽しみにしていた、この病院で、唯一(ゆいいつ)の私の話し相手……でも、花の方は一向に枯れる様子はなかった…





───数ヶ月後、ルーナ、熱を出し寝込んでいる

 



ルーナ:はぁ…はぁ…ゲホッゲホッ…


ルーナ(M):あれから数ヶ月、グレンはあれきり、私の前に現れなかった…かわりに私は、流行病(はやりやまい)の熱病(ねつびょう)にかかってしまっていた…不治の病なうえに、熱病なんて…ついてない、そう思っていた…この時ばかりは、お医者様も看護婦さんも、私に付きっきりという訳にもいかず、病院内は流行病の患者で溢(あふ)れかえっていた…こんな辛い時は、いつもお医者様がたくさん励ましてくれた…でも、私が今、1番聞きたい声は…1番見たい姿は……


ルーナ:ゲホッ…はぁ、はぁ…グレン……ねえ、いないの…?





───しんとする病室





ルーナ:…うぅ…身体中が痛い…熱で喉が焼けそう…私、もうすぐ死ぬのかな…………いやだ……こんな真っ白な部屋で、ひとりぼっちで死ぬのは…寂(さみ)しい、寂しいよ……なんで、こんな時に傍(そば)にいてくれないの……約束、どうしたの………もしかして、もう、忘れちゃったの?…私のことも、約束も…ねぇ……返事してよ…死ぬ前に、あなたの声が聞きたい…あなたの姿が見たいの……ねえ、グレン…!

グレン:よォ~、ずいぶん久しぶりだなぁ、お嬢ちゃん♪

ルーナ:…!

グレン:いやぁ~もう、参っちまうよ、例の流行病(はやりやまい)?だったか?そのせいで俺の仕事が増えちまってよ~、もうてんやわんや、ほんと、残業代払えって感じ~♪

ルーナ:…グレン…

グレン:んだよ、そんな泣きそうな顔しなくてもいいだろうが、もっと喜べ!約束通り、お前を「殺しに」来てやったのによォ♪

ルーナ:……え?

グレン:…見てみろよ、花瓶…花、枯れちまったな…看護婦さんが世話しないからか?

ルーナ:あっ…

グレン:だーから言ったろ?いい子で待ってたら、殺してやるってな

ルーナ:…約束…覚えててくれたんだ…

グレン:俺様は1度した約束は破らない主義なのだ~♪

ルーナ:…もう、忘れられたのかと、思ってた

グレン:はぁ?聞き捨てならねぇなそいつは、俺がいつ何を忘れたって?

ルーナ:だって…ずっと顔見せてくれないし…忘れられてるんじゃないかって、心配になって……

グレン:へぇ~…その忘れられてるってのは、約束の事か?それとも…お前自身のことか?

ルーナ:!…ど、どっちも…

グレン:ふはっ、あはははは!ほんと、可愛いやつだな♪そぉんな心配しなくても、俺は約束もお前のことも忘れたことなんて1度もねぇよ♪

ルーナ:…っ……(ルーナ、泣く)

グレン:おいおい、何泣いてんだ、可愛い顔が台無しだぜ、お嬢ちゃん?

ルーナ:っ……ばかっ…グレンの、ばか…

グレン:あはは、俺を罵(ののし)るくらい元気なら、もうちょい生きてみるか?

ルーナ:なっ…!

グレン:冗談だ、安心しろ、その苦しさから解放してやる





───グレン、手を頭上にかざし、大鎌を出現させるズシッと重い音を立て、持ち上げる






グレン:さぁ、今日がお前の命日(めいにち)だ、ルーナ・アンジェ…最期に言い残す言葉はあるか?

ルーナ:…グレン…ちゃんと、約束守ってくれて…ありがとう……私を、殺して…

グレン:…最後の言葉、しかと受け取った……この苦しみから解放してやろう…ルーナ、またどっかで会おうぜ、来世でな♪

ルーナ:ふふ…キザな……ことば、ね………





───グレン、大鎌をルーナに向けて振り下ろす、ルーナの病室に響きわたる、心肺停止のピーーーという音…





グレン:ルーナ・アンジェ…アンジェ…天使、ねぇ…お前は天使というより、むしろ小悪魔みたいなやつだったよ……ほんと、ここまで殺すことに心が揺らいだやつ、他にいなかったぜ…来世では、こんな会い方したくねぇな……お前がこの数ヶ月、少しでも生きたいと思えたなら、俺は嬉しいぜ……さよなら、天使(アンジェ)様




ルーナ(M):これは、不治の病を背負ってしまった少女と、優しい死神さんのお話。私を救ってくれた、ヒーローさんのお話。



グレン:さぁ、今日もお仕事と行きますかぁ♪いいかぁ、お前ら、よく聞け、俺様は世紀の大死神、ラングレン様だぁ♪…なぁ、死ぬのは怖いだろ?そうだよなぁ、普通はそうだ…でもそんな俺にも怖いものがあるんだ…勿忘草(わすれなぐさ)って花だ…その花を見るとな、思い出しちまうんだよ、とあるお嬢ちゃんのことを…そのお嬢ちゃんの部屋に、最期に花瓶に飾(かざ)られてた枯れた花が、勿忘草だったんだよなぁ…勿忘草の花言葉、知ってるか?「私を忘れないで」…だとよ…おっといかん、無駄話はここまでにするか!んじゃ、おまえの魂、いただくとしようかな♪…お前が生きたいと思えたその時に、な…?





-終わり-


九条 顕彰・台本置き場

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