Rorschach-ロールシャッハ-
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物語の内容にそっていれば、セリフアレンジ・アドリブは自由です。
大幅なセリフ改変はおやめ下さい。
※尚、本作品のジャックザリッパーは不問と致します。セリフは男性ですが、女性で演じる場合は女性のセリフに直してください。
───さぁ、答えてもらおう、この「絵」は一体何に見える?
あらすじ
19世紀のロンドン。世間を騒がせた凶悪連続殺人鬼、ジャックザリッパー。しかし、その裏で、ジャックザリッパーと肩を並べるほどの殺人鬼が暗躍していたのを、ご存知だろうか。彼の名は「ロールシャッハ」。ボロボロのスーツをまとい、頭は血塗《ちまみ》れの布で覆われ、顔を見た者はいない。彼の殺しは実に単純。紙に垂らした左右対称のインクのしみを、ターゲットに見せるだけ。何に見えるかで、殺すか殺さないかを判断するらしい…そして今日も彼は、次なる獲物を求め、闇夜を彷徨う…
※ロールシャッハテスト
投影法による人格検査の1種。インクのシミを落として作った左右対称の曖昧な図形を示し、何に見えるかを言わせて人格の特徴を診断するもの。スイスの精神医学者ロールシャッハ[Hermann R.1884〜1922]の考案
演者:4人
比率
♂2:♀1:不問1
上演時間:約50分
登場人物
ロールシャッハ(本名:アレクサンダー・ルーカス)♂
20代後半~30代。世間を騒がせている殺人鬼ジャックザリッパーと肩を並べるほどの凶悪殺人鬼。ロールシャッハテストを用いて、殺す殺さないを判断する、ある意味では気まぐれな人殺し。警察や探偵に見つからない自信がある。普段は小さな港町で医者をしてる。優しい医者だと評判。
アイリーン・ベケット ♀
ロンドンの貴族の娘。ロールシャッハに命を狙われるも、何故か殺されなかった、唯一の人(理由は本編にて)。18歳。天才ピアニスト。心優しい、聡明な人。ロールシャッハのことが気になる。
ヘンドリクセン・ロズベルグ ♂
20代後半。名探偵としてその名を馳せている。警察に頼まれ、ロールシャッハ逮捕に全力を捧げる。今回殺されなかったというアイリーンの周辺を探る。悪は許せない、真面目な性格。
ジャックザリッパー (不問)
ロンドンを恐怖のどん底に落とした連続殺人鬼。被害者のほとんどが女性。女性嫌い。ロールシャッハが邪魔。自分の真似をしていると思っている。ただ狂っている。年齢・性別不問(女性で演じる場合は、女性のセリフに直してください)
※このお話はフィクションです。実際の登場人物、名前、地域は一切関係ありません。ご了承ください。
作中のアレクサンダーは、ロールシャッハと同一人物なので、ロールシャッハの方が演じてください。
※ヘンドリクセンのM(モノローグ)は、タイプライターで日誌を描きながら読んでます。
※新聞記者のセリフは、ジャック役の方が兼ね役で、大家さんはアイリーン役の方が兼ね役で演じてください。
作中にある※←は、被せセリフです、相手に被せて言ってください
役表
ロールシャッハ(♂):
アイリーン(♀):
ヘンドリクセン(♂):
ジャック(不問):
〇セリフ〇
ロールシャッハ:いやはや、今夜は綺麗な三日月ですねえ…まるで首を落とせそうな程に鋭く光っている…おっと、失礼、挨拶がまだでしたな…こんばんは、ウィリアムズ公爵どの…なぜ貴殿を知っているのかって?そんな細かいこと、どうでもいいじゃないですか…それより、出会ったばかりですまないが…貴殿にはここで死んで頂こう…おっと、逃げようとても無駄だ、この先は人気のない工場地帯だからね…さぁ、それでは答えてもらおう…この「絵」は、一体何に見える?
舞台は19世紀のロンドン。
ベイカーストリートの一角にひっそりとあるボロアパート、その2階の角部屋から、タイプライターを叩く音が聞こえる。
一人の男が、何やら書き込んでいるようだった。
ヘンドリクセン(M):───1888年、秋、日差しはあるが、寒い日が続いている。今日、私がこの日誌に書き残そうとしているのは、とある連続殺人鬼のことである。この事件は、私、名探偵ヘンドリクセン・ロズベルグが関わった、最大の難事件であった…事の発端は、数週間前、大通りを歩いている所から始まった…───
数週間前、ロンドンのとある大通り。新聞を買うヘンドリクセン、その記事には、「殺人鬼ロールシャッハ、またも現れる」の文字
新聞記者:号外!号外だよ!!今日の新聞の一面は殺人鬼ロールシャッハ!!やつがまたも現れた!!今回の被害者はかの有名な政治家である、ウィリアムズ公爵だぁ!さぁ、買った買った!!
ヘンドリクセン:ひとつくれ
新聞記者:へい!毎度!
ヘンドリクセン:…殺人鬼、ロールシャッハ…心理テストを用《もち》いて人を次々殺していく、連続愉快殺人犯…全く、ジャックザリッパーといい、このロールシャッハといい…とんだ迷惑な奴らが蔓延(はびこ)ってるな…だが、俺が全員とっ捕まえて、生きて裁きを下してやる…
ヘンドリクセン(M):私は、ロンドン警視庁の友人に頼まれ、数々の事件を解決してきた探偵として、ジャックザリッパー、ロールシャッハ逮捕に全力を注いでいた…だが私の力をもってしても、簡単に捕まるような相手ではなく、被害者が増えていく一方であった…そんな中、調査を進めていくにつれ、ロールシャッハについて、新しい発見がひとつあった…
ヘンドリクセン:…唯一、ロールシャッハに殺されなかった女性…?
ヘンドリクセン(M):私はその女性のことが気になり、ロンドン中心部のとある伯爵家へと向かった
ヘンドリクセン:こんにちは、忙しいところ、面会のお時間を頂き、ありがとうございます…あなたが、アイリーン・ベケットさん…ですか?
アイリーン:ええ、そうです。初めまして、ヘンドリクセンさん、あなたの噂はお耳にしていますわ、数々の難事件を見事、解決しているそうだとか
ヘンドリクセン:う、噂だなんてそんな…俺…私はただ、犯罪を犯すやつを許せないだけです、どんな事があろうが、犯罪を犯すものには法のもとに裁かれるべきである、私の師の教えです…師の言葉を胸に、探偵として、当たり前の仕事をしている、それだけですよ
アイリーン:裁き…そうですね、それが探偵さんのお仕事ですものね…とても素晴らしいお仕事ですわ
ヘンドリクセン:ありがとうございます…ところであの、つかぬ事をお聞きしますが…あなたはもしや…
アイリーン:流石は名探偵さん、観察眼が鋭いですわね…はい、探偵さんの思っていらっしゃる通り、私は「目が見えません」…確か、あの夜…ロールシャッハ事件のことで、ここにいらしたのでしたわね
ヘンドリクセン:…はい
ヘンドリクセン(M):目が見えない、それで納得が言った。ロールシャッハテストの紙が見えなければ、やつに彼女を殺す理由は作れない。
ヘンドリクセン:それで…あなたはなぜ、あの夜、遅くに付き人も付けず1人で外出なさったのですか?その目では…1人で出歩くのは危険なはず…
アイリーン:…死にたかったんです
ヘンドリクセン:は?
アイリーン:…この目は、一生治らないと、お医者様に言われました…私はもともと目が見えなかった訳では無いんです…去年の春頃のことです…突然、目に違和感がして、その時は何とも思わなくて、ちょっと疲れただけだと思いました…けど、月日が経つにつれ、視界が狭(せば)まってきて…お医者様を呼んだ時には、既に遅すぎました…今はもう完全に、何も見えません…大好きだったピアノも…もう思うように弾けない…ピアニストとして、これまで努力してきたもの全てを奪われた気持ちになりました…そんなある時、殺人鬼の噂を聞いたんです
ヘンドリクセン:それが、ロールシャッハだったのですね…しかし…だからって…
アイリーン:ええ、そうですわね…今思えば本当に馬鹿なことをしました…目は見えずとも、鍵盤の場所は、音は、この指が、耳が、脳が覚えているというのに……でも、あの時の私は、絶望の縁に立たされていた…私にはもう、何も残ってないと思ってしまいました…それで死のうと思い、どうせ死ぬのなら殺されたいと、彼に会おうとしたんです…
ヘンドリクセン:…
アイリーン:でも、ロールシャッハに会った途端、直ぐにバレました…私が盲(めしい)だと…そうしたら彼は「残念だがお前は殺せない、死にたいと思うような奴を殺そうとは思わない、それに、お前にはきっと、こんな紙切れに描いてある絵よりも、もっと他のものが見えているだろうからな」って…
ヘンドリクセン:他のもの?
アイリーン:その意味はよく分かりませんでした…でも、あの時彼に会わなかったら、きっと私は、またピアノを触ろうとは思わなかったと思います…彼は、私の命の恩人です
ヘンドリクセン:…?
アイリーン:たとえ目が見えずとも、私はピアニストです…紙に文字は書けなくとも、ピアノで自分の思いを伝えることは出来ますからね
ヘンドリクセン:は、はぁ…?
ヘンドリクセン(M):あの非道な殺人鬼が、命の恩人…?その言葉に疑問を感じつつも、私はアイリーンに質問を続けた
ヘンドリクセン:こほん…ところでアイリーン、彼にあった時の事で、何か覚えていることはありませんか?例えば…匂いとか
アイリーン:…そう言えば、血の匂いに混じって、微かに消毒液の香りがしました
ヘンドリクセン:消毒液…?
アイリーン:ええ、私を見てくださったお医者様も同じような消毒液の匂いをさせていたので、たぶんそうかと…
ヘンドリクセン:なるほど…つまり、犯人は、医者か、医療関係の人物か…?あなたを見てくださったというお医者様は、今はどちらに?
アイリーン:今はたぶん、ロンドンを離れて、港町の方にいらっしゃると思います。私を見てもらったきり会っていないので、今もそこにいるか分かりませんが…
ヘンドリクセン:分かりました、ありがとうございます…あと、アイリーンさん
アイリーン:はい?
ヘンドリクセン:二度と、危険な真似はしないように、名探偵との約束ですよ?
アイリーン:!…ふふ、肝に銘(めい)じておきますわ
ヘンドリクセン(M):私はアイリーンに言われたとおり、港町へと向かった。町人(ちょうにん)に話を聞いていくと、病院は1件だけ、とても心優しいお医者様がいる、との事だった…
港町、1件だけあるという小さな病院へ、玄関を叩いて出てきたのは、瞳が黄色で、丸メガネにオールバックの焦げ茶の髪の、清潔そうな男性は現れた。白衣がとても似合う
ヘンドリクセン:こんにちは、ルーカス先生はいらっしゃいますか?
アレクサンダー:はい、私がアレクサンダー・ルーカスですが…えっと、どこかお加減でも悪いのでしょうか?
ヘンドリクセン:あ、いえ、そういう訳では…私は、私立探偵のヘンドリクセン・ロズベルグといいます
アレクサンダー:ヘンドリクセン…ああ!あの有名な!お名前は存じ上げております…けど、名探偵がなぜこのような田舎に?
ヘンドリクセン:実は、先生にお尋ねしたいことがございまして…ロンドンのアイリーン・ベケット嬢のことは覚えていますか?
アレクサンダー:アイリーン…あの伯爵家の盲目のお嬢様の事ですか?ええ、もちろん覚えていますとも…とても悔しい思いをしましたから
ヘンドリクセン:悔しい、とは?
アレクサンダー:…私の腕では、治せないところまできていた、と言えばわかって頂けるでしょうか?
ヘンドリクセン:…なるほど
アレクサンダー:医者として不甲斐ないばかりでした…もっと早くに駆けつけられていたら、お嬢様の目も…失礼、話がそれてしまいましたな、それで、彼女が何か?
ヘンドリクセン:アイリーンさんが、襲われました
アレクサンダー:!?アイリーンが襲われた!?
ヘンドリクセン:さいわい、命に別状はありません…でも、あなたに伝えてほしいと、言われまして
アレクサンダー:…そうですか…良かった…しかしなぜアイリーンが…彼女1人では、夜中、外へ出歩くのは難しいはずなのに
ヘンドリクセン:…目の事を気にして、死にたかったそうです、そしたら、いきなり襲われて…
アレクサンダー:…なるほど…馬鹿なこと…目が見えずとも、見えるものはたくさんあるというのに…で、彼女の様態(ようたい)は?
ヘンドリクセン:今は落ち着いていて、安静にしています…アレクサンダーさん、ひとつお願いが
アレクサンダー:何か?
ヘンドリクセン:アイリーンは襲われる前に、犯人の体から、消毒液の匂いが微かにしていた、と言っていました…先生と、同じ匂いがしたと…あなたの使っている消毒液の種類を見せていただけませんか?
アレクサンダー:ああ、いいですとも、それなら好きなだけ見ていってください、しかし、消毒液など全て同じものしかありませんがね…
ヘンドリクセン:それもそうですな…それと、もう1つ
アレクサンダー:はい?
ヘンドリクセン:私は先程、彼女が襲われたとは言いましたが、「夜中に」なんて一言も言っていません…なぜ、夜中だと知っているんですか?
アレクサンダー:…それは、最近噂があるじゃないですか、連続殺人鬼の…それで私はてっきり、彼女が夜中に出歩いたものだと思いまして…
ヘンドリクセン:そうですか、なるほど確かに、ジャックザリッパー、ロールシャッハは夜中に犯行を行っているようですしね…許せない犯罪者ばかりだ…私が何としてでも、奴らを捕まえます
アレクサンダー:…ふふ、なんとも心強い…流石は名探偵だ、そうなることを祈ってますよ…
ヘンドリクセン(M):まだこの時は、彼がロールシャッハと断定した訳では無かった…かまをかけたのは申し訳なかったが、どんな時もどんな言葉も逃してはならない…しかしこの時ばかりは彼、アレクサンダー・ルーカス医師がロールシャッハであるという証拠がなかったので、私は事務所に引き返した…その夜の事だった…
ヘンドリクセンの住んでいるボロアパート。ドンドンドンドンと、ノック音が聞こえる。
ヘンドリクセン:…?だれだ、こんな夜に…はい、どちらさ……!?
ジャック:こーんばんわ、目障りな名探偵
ヘンドリクセン:お前…誰だ!?仮面を取って顔を見せろ!
銃を構えるヘンドリクセン、ピエロの仮面をかぶったジャックザリッパーが不気味に笑う
ジャック:ひゃははは!!そんなに怖い顔すんなよ…にしても物騒なもん持ってやがるなぁ…大丈夫、あんたのこと、殺しゃしな~いよ
ヘンドリクセン:な、なんだと…?お前、何が目的だ!?
ジャック:目的かぁ〜…おれはさぁ、ロールシャッハの大ファンなんだ…そんで、あんたがロールシャッハのこと調べてるって噂を聞いてさぁ、いても立っても居られなくてな、ついここまで来ちゃった!!んで、なんかわかったことないのぉ?
ヘンドリクセン:な、何言ってやがる…お前…ふざけてんのか!?
ジャック:俺ァ大いに真面目だぜぇ?なぁ教えてくれよ、あいつの事を…じゃねぇと…
ヘンドリクセン:…!?
ジャック:この女、殺すぞ?
ジャックが物陰から引っ張り出してきたのは、アイリーンだった、猿ぐつわをされている
アイリーン:っ!!んん!んー!!
ヘンドリクセン:っ!アイリーン!?なぜ!?
ジャック:こいつも噂で知ったのさぁ!この女、ロールシャッハに殺されなかったらしいじゃないの?まあ、目が見えてねぇんじゃ、テストも受けられねぇか!ひゃははは!!……でもぉ?アイツが殺せなくてもぉ、俺は殺せるぜぇ?……女なんか大っ嫌いだ…あいつがやらないなら、俺が代わりに、この女を殺してやらァ…!!
ヘンドリクセン:!!…貴様、まさか、ジャックザリッパーか!?
アイリーン:…!?
ジャック:そぉだよォ~?まぁ、今更知っても遅いけどな…さぁ、あいつはどこにいる?さっさと言え!じゃねぇとこの女を殺す…まあ、教えたところで、どっちもバラバラにしてやるけどなぁ!!この女をロールシャッハの前でバラして、そのあとあの目障りなロールシャッハを殺してやる!!
ヘンドリクセン:…狂ってやがる…それでもお前、人間か!?
ジャック:なんとでも言え、俺は俺のやりてえ事をやるだけだ!!!
アイリーン:んんん!!
ヘンドリクセン:アイリーン!今助ける!!
ヘンドリクセン、銃を発射しようとする。しかし、ジャックザリッパーがアイリーンを盾にしているゆえ、当てることが出来ない。
ヘンドリクセン:っ…クソっ…これじゃ弾が彼女に当たってしまう…
ジャック:ひゃははは!!どうしたどうした!!ちょー有名な名探偵様も、人質《ひとじち》がいちゃあまともに殺(や)りあえねえか!!
ヘンドリクセン:このっ、卑怯者が…!!
ジャック:卑怯で結構!!さぁ、さっさと吐け!!あいつはどこにいやがる!?俺は短気なんだよ!なんならお前もここで※
ロールシャッハ:※こんばんは、ジャッキー
後ろを振り返るジャックザリッパー、いつの間にか、ロールシャッハが背後に立っていた、途端、回し蹴りをされ、吹っ飛ぶ
ジャック:!?ぐはぁ!!
ロールシャッハ:…はぁ、全く、相変わらず品のない話し方だ…今日はこの名探偵をテストしに来たというのに…まさか、君に出くわしてしまうとはね…さて、いつぞやのお嬢様、さっさと逃げなさい、邪魔です
アイリーン:…あの…
ロールシャッハ:聞こえなかったか、邪魔だと言ったんだ
ジャック:ってぇ…痛ぇんだよクソ野郎!!今日こそ殺してやる!!!
ロールシャッハ:やれやれ…負け犬の遠吠えとはこのことか
ヘンドリクセン:血まみれの、白頭巾…お前…ロール、シャッハ…
ロールシャッハ:そこの腰を抜かした名探偵、ここで死にたくなければ、そこのお嬢様を連れて早く逃げなさい…気が変わった…今日は、ジャッキー、君をテストする事にしよう
ジャック:ひゃははははははは!!おもしれぇじゃねえの!やれるもんならやってみな!!俺に追いつければな!!
ロールシャッハ:…窓から逃げるとは…元気な小猿だな…追いつくさ、必ずね
ジャック、窓から飛び降りる。それを追いかけるロールシャッハ
2人の姿を見届けると、アイリーンに駆け寄るヘンドリクセン
ヘンドリクセン:アイリーン!怪我は?
アイリーン:だ、大丈夫です…
ヘンドリクセン:よかった…それより、こんなところにいては危険だ…またやつが戻ってくるかもしれない…屋敷まで送ろう
アイリーン:私は平気です、それよりも、早くあの二人を追いかけてください
ヘンドリクセン:いや、しかしっ※
アイリーン:※いいから行ってください!…私は、ここで待っていますから…必ず、あの二人を、捕まえてください…!貴方にしか頼めません…私は本当に大丈夫ですから、お願いです!行って!!
ヘンドリクセン:!!…わかった…大家さんに伝えておく…いいかい、大人しく、安静にしているんだぞ!
駆け出すヘンドリクセン、アイリーン、少し潤んだ目をしている
アイリーン:…ロールシャッハ…正体は、あなただったんですね、先生…
真夜中、スモッグのかかる夜のロンドン、路地という路地を走り回るジャック、そして、ビックベンの見えるウェストミンスター橋で足を止める
ジャック:よっと!おーおー、今日もビッグベンがスモッグで輝いてるなぁ…ってか、なぁんだァ?あのやろー全然追いついてねぇじゃんよ…やっぱオッサンは、足腰が弱いってか?ひゃははは!!
ロールシャッハ:ざーんねんハズレ、私は後ろだよ、ジャッキー
ジャック:!?
後ろを振り返ると、血塗れの布を被った人物が目の前に立っていた、またもや蹴りを喰らいそうになり、避けるジャック
ジャック:っとぉ!残念だなぁ、このジャックザリッパー様が2度も同じ手食らうかよ!!
ロールシャッハ:ふん、小猿が…ちょこまかと小賢(こざか)しい
ジャック:くくく…さぁて、どういたぶってやろうか…このナイフで全身小刻みにしようか?それとも、首をビックベンの頂上に飾ってやろうか?
ロールシャッハ:誠に遺憾だが、ここで死ぬのは君の方だよ、ジャックザリッパー…さぁ、私の問いに答えてもらおうか
ジャック:その答えを聞く前に、てめえは死ぬのさァァ!!
ジャック、ロールシャッハに襲いかかる。ロールシャッハ、避けていくも、ナイフが何発か当たってしまう
血を流すロールシャッハ
ロールシャッハ:くっ…
ジャック:ひゃーっはははは!!やっぱ、オッサンは動きが鈍いなあ…?そんなんじゃ、直ぐに手足もバラバラになっちゃうぞぉ?
ロールシャッハ:…は、ほざいてろ…!
ジャック:ああ…ほんと、目障りな上にすげームカつく…でも、殺人鬼のあんたの中にも、真っ赤な血が流れてんだなぁ〜、もっと切り刻みたくなってきた…
ロールシャッハ:ふふふ…
ジャック:何がおかしい?
ロールシャッハ:お前に私は殺せない
ジャック:はぁ?そんな傷だらけで何言ってんの?調子乗んなクソ野郎がぁぁあ!!!
ロールシャッハ:さぁ、そろそろ答えてもらおうか、ジャッキー?この「絵」は、一体何に見える?
ジャック:んなもん、決まってる!!てめえの死んだ面(つら)だ!!!今それと同じようにぐちゃぐちゃにしてやる!!!!!!
ロールシャッハ:残念、失格だ…期待外れだったよ
ジャック:ほざけカス!!!
言うなり、ロールシャッハの腹に一撃を食らわせるジャックザリッパー、しかし、ロールシャッハも、彼の腹にナイフを刺す、双方相打ちの状態。
ジャック:っ…かはっ…
ロールシャッハ:ぐっ…
ジャック:っ…へっ…相打ちだなぁロールシャッハ…けど、俺はこんなんじゃ死な、な……っ…??
身体が崩れ落ちるように倒れるジャックザリッパー、暗闇にロールシャッハの笑みが浮かぶ
ロールシャッハ:はは…言ったろう…死ぬのは君だと…私の、勝ちだ…
ジャック:う…ぁ……身体が、動かね…お前、一体何した…
ロールシャッハ:私はこれでも、医学の知識があってね……このナイフに、毒を仕込んでおいたんだよ…まさか、飛んで火に入る夏の虫、になるとはね…
ジャック:ぐぅ…ちぎしょ…てめえ…許さ……
ロールシャッハ:これで最後だ…心配するな、ちゃんと1発で仕留めてやろう…君の罪の数の弾を撃ち込んだ後にな…さてと、君の罪は、一体幾つだったかな?
ロールシャッハ、拳銃を構える
ジャック:っ…!ま、まて……まってく※
ロールシャッハ:※負け犬の遠吠えは、もう聞き飽きたよ…さよなら、ジャッキー
遠くから何発か銃声が聞こえる。
ヘンドリクセン:!?銃声…こっちか!!
その音を頼りに、橋へ向かってきたヘンドリクセン
彼が見たのは、血の海に横たわるジャックザリッパーと、自分の血と返り血を浴び、異様な雰囲気を出しているロールシャッハだった
ヘンドリクセン:…っ!?…こ、これは…
ロールシャッハ:…やぁ、名探偵…少し遅かったね…この殺人鬼は、君が捕まえる前に、自らの血の海の中で溺(おぼ)れてしまったようだ…
ヘンドリクセン:…なぜ…何故なんだ、ロールシャッハ…なぜそうまでして彼女のことを…
ロールシャッハ:なぜ、か…そうだね……あのお嬢様への罪滅ぼし…とでも言っておこうか…
ヘンドリクセン:…あなたは、やはり※
ロールシャッハ:※それ以上は言わない方が、身のためだよ、名探偵…っ……
ヘンドリクセン:!あんた、怪我を…
ロールシャッハ:…ふふ、言っておくが、私はタダでは捕まらないからね?
ヘンドリクセン:…は?何を言って…
ロールシャッハ:今日は少し、お遊びが過ぎたようだ…君へのテストは…また、今度にしよう…必ずまた、君のところへ訪れる…その時まで…さらばだ、名探偵…
ヘンドリクセン:!?…まさか、あの傷で川に飛び込むなんて…この高さでは…もう、助からないだろう…結局、俺は…殺人鬼を2人も見殺しにしてしまった、のか…何が名探偵だ、何が、何が生きて罪を償わせる、だ……ちくしょう……
そう言うと、橋から川へと落ちるロールシャッハ。
慌てて橋に駆け寄るヘンドリクセンだったが、スモッグが濃く、彼を見つけることは出来なかった…残ったのは、橋のど真ん中で死んでいる、殺人鬼のみだった
ヘンドリクセン(M):…その後、ロールシャッハの姿を見たものはいない…川からは彼の死体が上がらず、彼がまだ生きているのか、死んでいるのか、それすらも分からなかった…連続殺人鬼は、両者相討ちで死亡、ということで終焉を迎えた…しかし私は、その後も単独でロールシャッハの調査を進めていった…そこでわかったことがあった、彼が、無差別に人を殺していなかったということ、彼が殺していたのは汚職(おしょく)に手を染めた政治家や、裏で戦争の兵器売買を営んでいた貴族ばかりだった…そして、あの港町へ行き、アレクサンダー・ルーカス医師の所をたずねたが、町人から話を聞くと、彼はあの日から、この病院には帰っていない、という…
場所は移り、ベケット伯爵邸。アイリーンが、項垂れるように椅子に座っている。そのそばに、ヘンドリクセンが立っている
ヘンドリクセン:…こんにちは、アイリーン…この所、元気がないと、メイドさんが言っていたよ…理由は、聞かずとも分かるが
アイリーン:…流石、名探偵さんね……本当に、お馬鹿な先生ですね…こんな私のために、命をかけるなんて…
ヘンドリクセン:…目が見えずとも、あなたは素晴らしい女性だ、生きているだけで素晴らしいんだ、偉いんだ、だから、病に負けずにどうか生きていて欲しい…たぶん、ロールシャッハ…いや…アレクサンダー・ルーカス医師は、君に、それに気づいて欲しかったんじゃないかな?
アイリーン:…はい…今になって、あの言葉の意味がようやくわかったような気がします…弱い自分に負けそうになった私を、彼は叱ってくださったのですね…でも、何故かしら…そんな辛辣で不器用な言葉でも、すごく嬉しかった…生きていいと言われているようで…嬉しかったんです
ヘンドリクセン:…だから、彼を命の恩人…と?
アイリーン:…ええ…
ヘンドリクセン:……そう言えば、彼の部屋からこんなものが見つかったよ
アイリーン:?…これは…なんですか?…丸い…レコード?
ヘンドリクセン:そうだ…君、昔ピアノで賞をとったそうじゃないか、将来は天才ピアニストとして名を馳せるんじゃないかとまで言われていたと聞いたよ…その時のコンサートで円盤を売っていたとか
アイリーン:ええ、確かに売っていましたが…!!…まさか、これは…
ヘンドリクセン:そう、君の演奏のレコードだ…几帳面な性格だったのか、カバーもまるで新品のように綺麗だ…でも、町人の話では、先生はいつも、このレコードを聞いていたと言っていたよ…世界で1番綺麗な音を出すピアニストだと…
アイリーン:っ!…うぅ…先生…せんせい……
ヘンドリクセン(M):彼女は泣きながら大事そうに、そのレコードを抱えていた。私からして見れば、なんとも不愉快で未消化な事件になってしまったが…これが、この事件の詳細である。彼は悪なのか、正義だったのか…今となっては知るものはいない……
ヘンドリクセン:記録日誌、ヘンドリクセン・ロズベルグ…と…ふぅ……
大家がノックして入ってくる
大家:ヘンリー、入るわよ、あんたにお届けものだよ
ヘンドリクセン:あ、大家さん、ありがとうございます
大家:あら、なんだい、この資料…あんた、まだあの事件のこと引きずってんのかい?
ヘンドリクセン:あはは、はい…
大家:終わっちまったことはしょうがないだろ!そんなもんさっさと忘れて、次の事件を解決しに行きなさいな、名探偵!
ヘンドリクセン:…そうですね、いつまでも引きずってちゃ、ダメですよね…頑張りますよ、大家さん
大家:うんうん、それに、これまで滞納(たいのう)してる家賃もしっかり払ってもらわないとだからね?
ヘンドリクセン:うぐっ…す、すみません…来月には、必ず…
大家:ははは!冗談だって!そんな顔しなさんな!追い出しゃしないよ!ま、期待してるよ!そうだ、今お茶をいれるから、下に降りといで、パイも作ってあるよ
ヘンドリクセン:はぁーい、すぐに行きます!…俺宛に小包なんて珍しいな…差出人の名前は、無し…なんだかやけに軽いけど…何が入ってるんだ?
言いながら、小包を開けるヘンドリクセン、その中身は、血塗れの布と、ロールシャッハテストで使われる、左右対称の絵だった…
ヘンドリクセン:…!?…この、血まみれの布…それに…この絵は……ま、まさか…!…大家さん!!これ、誰が持ってきました!?いつもの郵便屋さんですか!?
ヘンドリクセン(M):追記(ついき)、この事件は終わりじゃなく、まだ始まったばかりなのかもしれない…
ロールシャッハ:さぁ、答えてもらおう、君には、この「絵」は、一体何に見える?
-終わり-
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