Somebody, kill me... -僕の愛したカミサマ-


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こちらは声劇台本となっております。
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ネットでの生放送(ツイキャス等)のご使用に関しては自由です。
※YouTube等での音声投稿や有償での発表(舞台での使用等)に関しては作者の方に相談してください。
使用報告なしで構いませんが、なにか一言あるととても励みになります。飛んで喜びます。
物語の内容にそっていれば、セリフアレンジ・アドリブは自由です。
大幅なセリフ改変はおやめ下さい。





───俺は、カミサマを殺した…





殺し屋の男が知り合いの博士に依頼された仕事は、とある「カミサマ」を殺し、死体を持って帰ること。
だが、そこに居たのはアルビノのまだ幼い少女で…
神に懺悔するのは、どちらか…?




演者
3人

上演時間:約30〜40分

比率
♂: 1 ♀:1 不問:1


登場人物
ミカエル (♂)
殺し屋の男。ステラを殺すように言われた。子供の頃教会の前に捨てられていて、教会で孤児として育てられた。大天使ミカエルの名前をもらっているにも関わらず、名前にそぐわぬ残酷さゆえ、[天使の皮をかぶった悪魔]などと言われ、恐れられている。

ステラ (♀)
アルビノの少女、不老不死の力を持つ。色素が薄く、肌から髪の毛まで真っ白で、赤い目。容姿ゆえに、悪魔とか、神様とか言われている。見た目は幼いが、すでに何十年も前に成人している。ミカエルに出会う前までひとりぼっちだった

ジキル(ハイド)博士 (不問)
ミカエルに依頼をした張本人。ミカエルの知り合い。実はステラの不老不死と言う体質を自分のものにしたいがため、ミカエルを使い捕らえようとしていた。二重人格では無いが、表(ジキル)での顔と裏(ハイド)での顔の性格の差が激しいくらい変わる。
※途中、ジキルの表記がハイドに変わりますが、変わらずジキル役の方がハイドも演じてください
※ステラの最後のセリフが英語表記ですが、日本語の訳を()でとなりに置いてあるので、日本語、英語どちらで読んでも構いません。


役表
ミカエル:
ステラ:
ジキル(ハイド):

 


セリフ



──廃墟となった古い大きな教会の前、外は霧がかかっている、遠くからひとつの影が、教会に近づいてくる、1人の男が、その教会の階段前で立ち止まり、膝をつく…男は血まみれだった…





ミカエル:相変わらずボロボロだな、この教会は……主(しゅ)よ…今日は懺悔(ざんげ)に来ました…お許しください……俺は、「カミサマ」を殺した…





──機械と魔法が混じり合う中世ヨーロッパ。薬品と油の匂いが立ち込める不気味な研究所で、男が1人、パイプを加えて立っている。彼が見ている視線の先には、なんの生き物だか分からない肉塊の入ったホルマリン漬けが並んでいる





ミカエル:…うげ…何だこのわけのわからん肉の塊の入った瓶は…相変わらず、薄気味わりぃところだぜ、ここは

ジキル:褒め言葉として受け取っておこう、ミカエル君、その肉の塊は、魔神族(まじんぞく)の指の欠片だよ






──ミカエル、と呼ばれた先程の男が振り返ると、これまた血なのか別の汚れなのか分からない白衣を着た丸メガネのみすぼらしい姿の者が、階段から降りてくるところだった。






ジキル:いやぁ、忙しいのにずいぶん待たせてすまないね、今仕事が立て込んでしまっていてな

ミカエル:あぁ、全くだな、来てそうそう1時間も待たされるとは、いいご身分だよ…それで、今回の依頼はなんだ?

ジキル:まぁそう焦るな、それよりどうだい、紅茶でも飲まないか?

ミカエル:用がねえなら俺は帰るぜ、次の仕事があんだよ

ジキル:はぁ、まったく…君は相変わらずせっかちさんなんだから…少しは心にゆとりを持ちたまえよ、紅茶がダメなら、せめてコーヒーだけでも飲んでいかないか?

ミカエル:…1杯だけだぞ

ジキル:物わかりが良くて助かるよ、少し待っていてくれたまえ 

ミカエル:…珍しいな、紅茶派のお前が今日はコーヒーだなんて

ジキル:はは、まあ、たまにはコーヒーもいいものだろう…さあ、出来たぞ、立ってないで、座って飲みたまえ、砂糖とミルクはご自由に……さて、今回の依頼だがね…君には、「カミサマ」を殺して欲しい

ミカエル:…(コーヒーを吹き出す)……は?冗談だよな?

ジキル:私は至(いた)って真面目だが?

ミカエル:ジキルセンセー、わりぃが、俺が殺せるのは人間か、ドラキュラとか狼男とかみたいな化け物だけだ、カミサマなんて、そんな存在もわからんもの、どうやって殺せってんだ

ジキル:それが、いるんだよ…カミサマ……いや、不老不死の能力を持った人間が、ね

ミカエル:…なんだ、だったら初めからそう言え、ややこしいな……というか、今「不老不死」っつったか?

ジキル:あぁ、これは親友である殺し屋の君にしか頼めないんだよ…そのカミサマを殺して、ここに「死体」を持ってきて欲しい

ミカエル:…お前、頭大丈夫か?自分で言ってる事わかってるよな?不老不死の人間だぞ?そんなのどうやって殺すんだよ

ジキル:わかっているさ、だからこそ君の出番なのだよ

ミカエル:って言われてもな…しかしまさか、不老不死の人間がこの世に存在するとはな…

ジキル:私も初めは驚いた…そんな人間が存在するなど…だが、噂は本物だった

ミカエル:噂?

ジキル:噂と言うよりは、都市伝説のようなものだな…ハルツブルクの町外れの、今はもう廃墟になったゴミ処理場に、全身真っ白な少女がいる、と…

ミカエル:…真っ白な少女、ね…カミサマと言うより、天使様だな

ジキル(ハイド):どちらでも構わない…!とにかく、その少女をここに連れてきて欲しい…生死は問わない、金ならいくらでも出す、頼むよミカエル、君しかいないんだ…!!

ミカエル:…おいおい、らしくねぇな…いつもの聡明(そうめい)で博識(はくしき)高いジキル博士はどこいったよ…まあ、お前がそんだけ何かに執着するのも珍しいからな、この話乗ってやるよ…けど、もし失敗したら?

ジキル:君に失敗はありえない、だろ?

ミカエル:…ははっ、随分(ずいぶん)信頼されてんな…了解、意地でも連れてきてやるよ

ジキル:よろしく頼むよ、ミカエル

ミカエル:じゃ、またな、ジキル博士






──ミカエル、研究所をあとにする…






ジキル(ハイド):……ははっ…あははははっ!!!ああ、ミカエル、愚かなミカエル…君には本当に期待しているよ…彼女の体を私の前に持ってくるのを…楽しみだ…実に楽しみだ!彼女の体を引き裂き、研究する瞬間が…彼女の、あの叫び声を聞くのが!!再生能力はどこまでなのか痛覚は存在するのか細胞の活性スピードはどのくらいなのか…あぁ、早く調べたい…そして、その全てを、私のものに……ミカエル、君には私のこの裏の顔を、見せることになりそうだ…ふふふ…あはははははは!!






───数日後、ハルツブルクの町外れのゴミ処理場…ミカエルが立っている






ミカエル:ゴミ処理場、てか、ゴミ屋敷じゃねえかよ…はぁ…こぉんなゴミの山の中に、どこの誰が住むってんだ…しかも、女ひとりで、だろ……もしガセネタだったらジキルのやつ今度こそ首を刎(は)ね飛ばすからな…





──ミカエル、愛用のリボルバー式銃を構え、中に入る






ミカエル:しっかし…ジキルの研究所も相当だが、ここも薄気味わりぃな…霧(スモッグ)で前が見えねぇ…






──ゴミの山の中を歩き進めるミカエル、パキッパキッという足音……






ミカエル:右の部屋はクリア、次は向こうだな……少女はおろか、野良猫の気配すらしねぇぞ……もしもーし、こんにちは~、宅配便でぇーす、「死」をお届けに参りましたぁ…ふん、なんてな…






──その時、背後からペキっという物音






ミカエル:!?誰だ、そこにいるのか?






──銃を構えなおすミカエル、隙間からネズミが出てくる






ミカエル:なんだ、ネズミか…なぁネズミよォ、この辺で女の子見なかったか?全身真っ白で、目が赤い女の子なんだが…って何ネズミに話しかけてんだ俺

ステラ:あなた、だれ?

ミカエル:!






──ミカエル、声のする方に振り返ると、全身真っ白で、赤い目の少女が立っていた、髪が太陽光に反射して美しく光る







ミカエル:……お前が、例のカミサマか…?

ステラ:…カミサマ…?なんのこと?

ミカエル:噂は本当だった、てか…

ステラ:…なんの事か分からないけど、私を殺そうとしてるんだったらやめる事ね…後悔するわよ?

ミカエル:それは、やってみねぇと、分からねぇだろ…!!!







──ミカエル、お構い無しに銃を発砲、全弾命中し、倒れるステラ、ミカエル、ステラに近づく





ステラ:うっ…ぐ…

ミカエル:…悪いなお嬢ちゃん、だが、これも依頼(しごと)なんだ、あんたを連れていく

ステラ:うぅ………ほんと、馬鹿な人間…

ミカエル:!?








──ミカエル、何かの力で吹き飛び、ゴミの山に突き飛ばされる






ミカエル:ぐっ!!がはっ…くそ…あのやろぉ、魔法を……






──ステラ、起き上がる、打たれた箇所から銃弾が出てくる






ステラ:ふん、仕事か何か知らないけど、こんな銃で私の事を殺せるわけないじゃない、それと、私は野郎じゃなくて、「レディ」よ、ボウヤ

ミカエル:チッ…何がレディだ…レディはもっとおしとやかじゃねぇとなぁ!!







──ミカエル、リボルバーに弾を装填し、起き上がり再度発砲







ミカエル:それに俺はお前みたいな子供(ガキ)にボウヤって呼ばれる歳じゃねぇんだよ、お嬢ちゃん!!

ステラ:はぁ…学ばないボウヤね…いいわ、女性(レディ)に対する接し方を教えてあげる…シルフ、私の声に応えて…「──疾風(ウィンド)…!」






──また風を起こすステラ、吹き飛ばされるミカエル





ミカエル:うぉ!!?

ステラ:穿(うが)て「竜巻(サイクロン)」!…これでトドメよ…「斬撃(スラッシュ)!!」

ミカエル:!?




──突如、竜巻が現れ、ミカエルに襲いかかる、風が斬撃のようにミカエルに傷をつける、倒れるミカエル



ミカエル:ぐあああっ!!…ぐっ……く、そ…こんな、とこで…

ステラ:…ねぇ、死んじゃった…?……ほんと、人の命って脆(もろ)い……







──目を覚ますミカエル、身体には手当したあとが…





ミカエル:…っ……ここは…

ステラ:あ、起きた?ボウヤ

ミカエル:っ!?てめえこのガキっ…っ…痛ってぇ……って、なんで包帯が…

ステラ:なんでって、手当してあげたの、こんな所で死なれて腐敗臭(ふはいしゅう)ぷんぷんさせるのはゴメンだから、少しは感謝しなさいよね…にしてもあなた、以外と丈夫なのね、あれだけの攻撃を受けてこの程度で済むなんて…それともただ運がいいのかしら?

ミカエル:まぁ…命の危険にされされたことは1度や2度の話じゃねぇしな…あの程度で死んでたら、こんな仕事なんぞ出来やしねぇ

ステラ:仕事、ねぇ…こんな危ないもの持ってるってことは…あなた、殺し屋さんなの?

ミカエル:まあな……ん、あれ、俺の銃は…

ステラ:あぁ、危ないから預かっといた…お子ちゃまにこんなおもちゃ持たせたらダメってママに言われなかった?

ミカエル:てめぇ…いちいち癇(かん)に障るやつだな…とにかく銃を返せ!それに、お前の方がお子ちゃまじゃねぇか!…ってて…

ステラ:ほーら、すぐ騒ぐ、だからお子ちゃまとかボウヤって言われるのよ、それに、そんなに暴れたらまた傷開くよ?…と言うか、私の方があなたより歳上だし

ミカエル:は?何言ってんだ?その形(なり)でか?

ステラ:単細胞ねあなた、さっき見たでしょ、銃で撃たれた傷が治ったとこ、私は不老不死なのよ?歳が上でもおかしくないでしょ?

ミカエル:……

ステラ:…何よ

ミカエル:いや、別に……ちなみに今いくつだよ?

ステラ:レディに歳聞くなんて、失礼なボウヤだこと…まあいいわ、言っても減るもんじゃないし…私は今年で100歳になるわ

ミカエル:ひ、ひゃく…嘘だろ…見た目は子供なのにな…

ステラ:見た目で判断すると痛い目見るわよ

ミカエル:ぐっ…ごもっともです…

ステラ:もういいわ、とりあえず、出口までは送るから、動けるんならさっさと出てって

ミカエル:そうはいかねえ、俺にはまだ仕事が残ってるんだよ

ステラ:ふん、不老不死の私を殺すって?

ミカエル:…

ステラ:やっぱり、そうだったのね…殺せないのに殺してどうするのよ?……私だって…

ミカエル:あ?

ステラ:…私だって!……死ねるもんなら死にたいわよ…今すぐにでも…でも、本物の神様は、それを許してくださらない…これは私の罰だから

ミカエル:…あんたはなんで、不老不死になったんだ?

ステラ:…ステラ…

ミカエル:は?

ステラ:私の名前よ、あんたじゃなくて、ステラって呼んで

ミカエル:なんだよ急に

ステラ:んじゃ、あなたは私にずっとボウヤって呼ばれたいの?

ミカエル:…っ…俺はミカエルだ…

ステラ:ミカエル…大天使ミカエルの、ミカエル?

ミカエル:そうだよ、悪いかよ

ステラ:…ふふふ、あっはははは!殺し屋の大天使…ふふふ、笑える…しかもその強面(こわもて)で?あはは、冗談キツイ(笑)

ミカエル:っ!…悪うございましたね、顔に似合わない名前で!

ステラ:ふふ、ごめんなさい…あぁ、久しぶりに大笑いしたわ…人と話すのも…ほんと、何十年ぶりかしら…

ミカエル:そんなに人と会ってないのか? 

ステラ:…たとえ仲良くなっても、みぃんな、私の前からすぐいなくなってしまうもの…私は普通の人の寿命には抗(あらが)えないから…

ミカエル:…

ステラ:…どうして、私が不老不死なったのか、だったわね

ミカエル:あ、あぁ…

ステラ:答えは…分からない

ミカエル:は?

ステラ:私にも分からないの…気がついたら、この力が備(そな)わっていたの…おかげで、たくさんの死を見てきたわ…目の前で…親友に両親……恋人も…どうやったらみんなの所に行けるのか、どうすれば死ねるのか…死ぬ、と言われることは色々やったわ、毒、首吊り、銃、飛び降り……でも、結局どうやっても、死ぬことが出来なかった…死ぬことを許されなかった……もしかしたら、神様が私に罰をお与(あた)えになられたんじゃないか……そう思うことにしたわ…

ミカエル:……

ステラ:…ねぇ、あなたのことを教えて、こういう形になっちゃったけど、人と話すの久しぶりなのよ、だからお願い

ミカエル:俺の…?

ステラ:ミカエルはどうして殺し屋になったの?

ミカエル:…俺は、元々孤児だったんだ…赤ん坊の頃、教会の前に置き去りにされていた所を、シスターに拾われた、らしい…俺はその教会で育てられた

ステラ:…なのに、なぜ殺し屋に…?

ミカエル:…俺も、全てを奪われたんだ

ステラ:…

ミカエル:もう10年も前だ…教会に強盗団が忍び込んで、司教(しきょう)様も、シスターも、全員殺された…当時の俺はまだまだ力もない、弱いガキでさ、シスターに言われて懺悔室(ざんげしつ)の影に隠れてて…助かったのは俺一人だけだった…俺は、俺の唯一の居場所を奪ったそいつらを許せなくて、かたきを討とうと殺し屋になった…そして、その強盗団のアジトを突き止め潜入し、皆殺しにした…それから、バケモンや悪人相手の殺し屋を生業(なりわい)にしてる

ステラ:…そう、なの……あなたのやってることが、正義の味方なのか、悪党なのか、分からないわ…

ミカエル:…それもひとつの正義で、悪なんだろうな…もしも、さっき言った強盗団が誰かの正義だったとしたら、どうする?…そんなの誰にもわからない…正義と悪のさじ加減なんて、誰でもない、自分が決めることだ……時には、正義のために正義を殺さなきゃならないことがある…けど、その正義は「悪」に成り代わる…

ステラ:…難しいこと言うのね…

ミカエル:昔、俺に銃を教えてくれた師匠が言ってた言葉さ、別に忘れてもいい…

ステラ:…この銃、その人のもの、なのね

ミカエル:あぁ…まあ形見って言ったらそうなっちまうな

ステラ:そう…でも返さないわよ、撃たれそうで怖いもの

ミカエル:ふん、よ~くご存知のようで…

ステラ:…ほんと、そっくり…(小声)

ミカエル:?なんか言ったか?

ステラ:なんでもないわ…それで、あなたはなんて言われてここに来たの?私がここにいることは、誰にも知られてないはず…

ミカエル:あぁ…俺の知り合いのセンセーに言われてな、不老不死の少女の死体をもってこいとかなんとか…

ステラ:…その人、頭大丈夫?

ミカエル:…ふはっ…

ステラ:なによ、なんかおかしなこと言った?

ミカエル:いや、俺と同じこと言ったなぁと思ってな(笑)

ステラ:だって、普通そう思うでしょ?

ミカエル:まあ確かに、不老不死の人間の死体なんて、持って帰れるわけねぇのになぁ

ステラ:…その人、センセーって言ったわね?なんかの病院の人なの?

ミカエル:いや、センセーと言うより、博士、かな?色んな研究してんだよ

ステラ:そう…そのセンセーは、他には、なんか言ってた?

ミカエル:いや、特には…なんだよ急に…

ステラ:その人なら、私の事、なんか分かるんじゃないかなって思って

ミカエル:…それって…

ステラ:私を、連れてって

ミカエル:…本気か?あいつは、たとえ女子供が実験体でも容赦しないやつだぜ?

ステラ:大丈夫、私は死なないもの、痛いのも慣れてる、怖くないわ…それにあなたも、私に向かって銃を撃ったじゃない

ミカエル:あれは…仕事だから割り切ってるというか…てか、お前、痛みとかあるんだな

ステラ:不老不死だからって万能じゃないわ、ちゃんと痛覚だってあるし、撃たれたら死ぬ程痛いわ、死なないけど

ミカエル:…なんか、すまん…

ステラ:同情とかで謝ってるんならやめて、そんなのいらないから

ミカエル:…そんなつもりは…

ステラ:よし、じゃ、行きましょ!

ミカエル:っていきなり過ぎねえか…なんか調子狂うな…はぁ、分かったよ…でも、そのままだと目立ちすぎるな…

ステラ:え?…あぁ…髪のこと?

ミカエル:まあ髪の毛もだけど…しゃあねぇ…俺のコートと帽子を貸すから、俺の後ろに引っ付いてるんだぞ?

ステラ:うわ…おっきい…男臭(おとこくさ)…

ミカエル:うるせえ、我慢しろ

ステラ:…ふふふ

ミカエル:なんだよ

ステラ:何だか、ちょっと悪いことしてる気分

ミカエル:嬉しそうに言う言葉かそれ…

ステラ:久しぶりに楽しいんだもの!ワクワクするわ!

ミカエル:ワクワクって…お前、1人でずっとここに?

ステラ:えぇ、ここが廃屋になる前は、別の場所にいたけどね

ミカエル:別の場所?

ステラ:この国の政府の人間のとこ…監禁されてたの、実験体として…で、逃げ出してここにいる

ミカエル:…それ、いつの話だ?

ステラ:安心して、あなたが生まれるずーっと前だから、その時の関係者は死んでるか、もうヨボヨボのジジイよ

ミカエル:レディのクセに口悪(くちわる)…

ステラ:何か言ったかしら?

ミカエル:なんでもございません

ステラ:じゃ、行きましょうか

ミカエル:あ、おい待て、せめて銃を返せ!…痛っ…クソ…あの女…銃が戻ってきたら腹いせに1発撃ってやる…






──町中を歩く2人







ステラ:ふぁぁ…最近の服はこんな派手にヒラヒラしたり、キラキラしたり、お腹をギューってしめるようなのしかないの?…私はこのワンピースで充分よ…

ミカエル:ああ、なんたってお前は100歳のおばあちゃ、(──ステラ、セリフを遮るように)

ステラ:それ以上言ったらみじん切りにしてハンバーグにしてやるわよ

ミカエル:怖い怖い、目が据(す)わってるよ、レディ

ステラ:あなたが余計なこと言うからでしょ

ミカエル:悪うございました…なぁ、買ってやろうか?

ステラ:え?

ミカエル:欲しいんだろ、服

ステラ:っ…別に、あんなもの着なくてもいいし、お母さんの形見のワンピースがあれば充分だし!

ミカエル:…それ、母親の形見なのか?

ステラ:そうよ…もうボロボロだけどね、私の結婚式用にって、お母さんが作ってくれたの…あと、このロザリオも、お母さんの形見





──ステラ、黒く光るロザリオを見せる





ステラ:このロザリオは、ひいおばあちゃんから受け継いでるものでね…私が『本当に助けたい愛する人』に渡してって、死ぬ前にお母さんが言ってた…私がこれを貰ったあと、お母さんは戦争で死んでしまって……恋人にあげたかったけど…入れ違いで戦争に行ってしまって、それきり……

ミカエル:…そうか…

ステラ:もう過ぎたことよ

ミカエル:……

ステラ:…あ、あのキャンディ、美味しそう!

ミカエル:ん?…ちょっと待ってろ

ステラ:?

ミカエル:ほらよ

ステラ:!わ、私、子供じゃないわ!

ミカエル:あそ、じゃ、このペロペロキャンディ、俺が食っちまうからな?

ステラ:うっ…も、貰ってあげてもいいけど…

ミカエル:はは、素直じゃねぇな、ほら、大事に食え

ステラ:…ありがと…

ミカエル:は?なんだって~?よく聞こえないなぁ?

ステラ:っ!あ・り・が・とぉ!!

ミカエル:音量考えろよ、耳がキンキンする

ステラ:むうう

ミカエル:冗談だよ、はい、キャンディどうぞ?

ステラ:…いただくわ…

ミカエル:結構子供っぽいとこもあんのな、お前(笑)

ステラ:ふん…







──研究所前までたどり着く






ステラ:…うわぁ…何ここ…気味悪い……

ミカエル:お前もそう思うか?

ステラ:お化けが出てきそう…

ミカエル:お化けなぁ…ここにあんのはお化けだけじゃすまねぇぞ…?

ステラ:っ!怖がらせないでよ!

ミカエル:怖くないんじゃなかったのか?

ステラ:んな…こ、こわっ、怖くないわよ、こんなとこ!

ミカエル:ははは!んじゃ、お前を引き渡せば、俺は依頼完了だから、ここでお別れだな…何か分かるといいな、自分のこと

ステラ:…うん……ねぇ

ミカエル:あ?

ステラ:これ、返すわ

ミカエル:あ、銃…

ステラ:ここまで、ありがとう…

ミカエル:なんだよ急に…

ステラ:あなたのお陰で久しぶりに色々楽しかったし、それに…色々思い出せたわ、本当にありがとう

ミカエル:だからなんなんだよ…気持ち悪いな

ステラ:なによ、感謝してるんじゃないの

ミカエル:でも…なんでそんな急に…

ステラ:気にしないの!あ、ねぇ…これ、受け取ってくれない?

ミカエル:は?…これ…

ステラ:ロザリオ

ミカエル:いや、でもなんで…お前の母親の形見なんだろ?

ステラ:…あなた…似てるの、私の恋人、だった人に…今はもう居ないけど…何だか、彼が帰ってきてくれたみたいで、すごく嬉しかった…だからこそ、あなたにこれを受け取ってほしいの、お願い

ミカエル:…

ステラ:ミカエル、受け取って

ミカエル:…はぁ…仕方ねぇな、じゃ、預かっとく、返して欲しくなったら言えよ

ステラ:…うん、ありがとう

ミカエル:…何か腑に落ちねぇけど…とりあえず中に入るか…






──研究所内に入る2人






ミカエル:おいジキル!俺だ!ミカエルだ!約束通り連れてきたぞ!

ステラ:…ジキル?

ジキル:やぁ!遅かったじゃないか、ミカエル、待っていたよ、首が伸びすぎてちぎれるかと思ったくらいに

ミカエル:あーそりゃすまんな、死体じゃねえけど、ちゃんと連れてきたぞ

ジキル:ああ…彼女がそうなんだね…流石だよ、ミカエル、本当にありがとう…さぁ君への報酬はあちらの部屋だ、来たまえ

ミカエル:おう……じゃ、後でな

ステラ:…うん






──別室へいく2人






ステラ:…ジキル…まさか、とは思ったけど、あなただったのね…私を探していたのは…でも何故…?私の知っているジキルと、姿が全く違う…?






──ミカエル、書庫のような部屋に入る







ミカエル:…んで、報酬は?さっさと貰って帰りたいんだが…まさか、ここにある本とかいうんじゃねぇだろうな?

ジキル:ははっ、まさか…君への報酬は、これだ!!






──ジキル、魔法でミカエルを鎖につなぐ







ミカエル:!?ぐっ…!おい、ジキル!!なんの真似だ!?

ジキル(ハイド):ふふふ…この時をずっと待っていたよ…彼女に再び会う、この瞬間を…!!!

ミカエル:っ!?…てめぇ…何もんだ…ジキルじゃねぇな!!?

ハイド:いいや、私は本物のジキルだ、そして、ハイドでもある…私は1人ではない

ミカエル:はぁ?何わけのわかんねえ事言ってやがる…本当に壊れちまったか、ジキル!!!

ハイド:いいや、これがほんとの私の姿だよ、ミカエル…私はハイド、ジキルは仮の姿さ…元・政府軍研究課所属の、ね…君のおかげでやっと彼女を私の元に取り戻せた!感謝するよ、ミカエル!

ミカエル:政府軍…まさか…俺を騙したのか…!?

ハイド:騙したなんて人聞きの悪い…しかしこうでもしないと、君は動いてくれないだろ?ずる賢いこのハイドよりも、非力で可哀想なジキルの頼みなら、君は聞いてくれるだろう?

ミカエル:てめぇ…ぶっ殺す…!!!

ハイド:おお、怖い怖い!まるで飢えた猛獣のようだ!だが、君はそこから動けない、それにこの部屋は魔法で音が漏れないようになってる…一体どうする気だ?誰も助けてくれないぞ?

ミカエル:っ!くそっ!外れろ!!!

ハイド:ふん、そうやって、いつまでももがきまくっているがいいさ、大丈夫!いつか、君の骨も拾ってあげるよ…私が覚えてたらね!!!あはははははははははは!!!







──ジキル(ハイド)、部屋を出る







ミカエル:ぐっ!!外れろ!!っくそ!忌々しい鎖がっ……なんで、こんなことに……っ!ステラがあぶねえ…頼む、気づいてくれ!!逃げろ、ステラ!!逃げるんだ!!ステラ!!!






──ジキル、ステラの前へ

  





ジキル(ハイド):やぁ、お待たせして申し訳ない…君が、不老不死の少女だね?随分(ずいぶん)探したよ

ステラ:初めまして博士……なんて、言うわけないでしょ、ハイド博士…バレバレよ

ハイド:おやおや、バレてしまっていたとは…私の変装もまだまだですな

ステラ:まさか、あなたがまだ生きていたなんて…あの時の政府の人間は、みんな一人残らず死んだと思っていたのに…

ハイド:私も、逃げ出した君をまた鳥かごへ入れられるなんて思ってもみなかったよ、ステラ

ステラ:あら、2度も捕まえられると思ってるのかしら?…けどあなた、あの頃と姿が違うわよね?整形でもしたの?

ハイド:あぁ、あの頃の姿はとうの昔に「捨ててしまった」よ

ステラ:捨てた…?あなた、一体何をしたの?

ハイド:君が逃げ出したあとに、私はある発明したのさ…自(みずか)らの記憶だけを他人の脳に移し替える機械を!!この発明によって、私は数十年間、身体を取り替えながら生きてきた!!…しかし、この機械にも限界もあってね…脳への負担やダメージが大きく、徐々に脳の細胞が壊死(えし)し、そのうちにその毒が身体にも回り、身体も腐り死んでしまう

ステラ:…つまり、長い間、身体を維持(いじ)できないってこと?

ハイド:そのとおり!この身体も、あと何週間の命だ…そんな時、私はふと、君のことを思い出した…君の能力さえ手に入れれば、私が死ぬことはない、永遠に生き続けられる、とね!!!

ステラ:馬鹿みたい…痛みも知らず永遠に生きたこともないくせに、不老不死を手に入れたいですって? 貴方は間違っているわ!

ハイド:君の能力さえ手に入れれば!私は、永遠に研究を続けることが出来る!そして、私を学者の恥さらしだと言い、馬鹿にし蔑んできた学者や賢者共に知らしめてやるんだ、私という、不滅の存在を!!

ステラ:…分かってない…あなたはなんにも分かってないわ!そんなことしてみなさい、今度はあなたが私と同じ目にあうわよ!!

ハイド:なんとでも言えばいい!!私は、お前が欲しい、お前の能力が、身体が欲しい…ただそれだけだ!!!







──ハイド、指パッチンをすると、ステラが鎖に繋がれる






ステラ:!?なに、この鎖っ…

ハイド:さぁ、私に身体を渡せ、ステラ

ステラ:…渡さない…あなたにだけは、絶対渡さないわ!







──別室にて、いっこうに鎖を解けないでいるミカエル








ミカエル:ぐあああ!!ちぎれろぉぉお!!!…っ…はぁ…はぁ…なんだよ、こいつ…クソ!早く外れろ!!……ステラ、すまない…あんな奴に…俺は……ん?…包帯が外れて………なんだ、これ…傷…もうなくなってる…?








──カシャン、と何かが落ちる音。下を見ると、ステラのくれたロザリオが…







ミカエル:…ステラの、ロザリオ…こいつのせいか?…まさか……いや、だとしたら………っ!ステラ!!!








──その頃、ステラ、ハイドと戦闘 








ステラ:っ…はぁ…はぁ…

ハイド:はぁ…はは…なかなかやるじゃないか…君に傷はつけまいと思っていたが…不老不死なら、ちょっとくらい大丈夫だろう…闇夜の閃光よ、我に力を!!

ステラ:っ!!

ハイド:「電撃(ライジング)!!」

ステラ:「壁(ウォール)!」

ハイド:ふっ…なかなかやるな、だが、完全にはよけれなかったようだね?






──ハイドの放った電撃がステラの脇腹に命中し、流血するステラ







ステラ:…っ…くっ…

ハイド:…ん…?おかしいな…君の能力はすぐに発動するはず…

ステラ:…ふふ…だ、から…言ったじゃない…あんたみたいな外道に…この力は、渡さないって…!!

ハイド:っ!……お前…まさか、能力をどこかに隠したのか!?教えろ、どこにやった!!?

ステラ:ばーか!あんたなんかに教えるわけないじゃない…!あんたはここで、私と共に死ぬのよ!いい加減諦めなさい!このマッドサイエンティスト!!

ハイド:くっ…この…言わせておけばいい気になりやがって!!この世を壊せ「天災(テンペスト)」!!!

ステラ:!!

ハイド:不老不死ではない今のお前に、もう用はない、とっとと死ねぇぇ!!!

ミカエル:ステラァァァ!!!

ステラ:きゃぁぁっ!!






──ミカエル、ステラを庇い、瓦礫の下敷きになる







ステラ:…っ!ミ、ミカ…エル…

ハイド:…チッ、飛んだ邪魔が入りやがった…もうちょっとで殺せたのに…ふん、さぁ、もう助けてくれる王子様は居ないぜ、偽りのお姫様…今度こそ本当に、死ね

ステラ:っ!!







──ハイドがステラに向かい、魔法を放とうとした瞬間、後方から銃声がする








ハイド:……あ…え……っなんだこれ…私が、この私が…撃たれた…だと?

ステラ:あんたの誤算は、後ろのバカを放ったらかしにしてたことよ…

ミカエル:…痛えじゃねえか、ジキル

ハイド:ぐふっ…な、ぜ…ころした、はず……

ミカエル:御生憎様(おあいにくさま)、俺は人より頑丈だからな…ちょっとやそっとじゃ死なねえんだよ、タコが

ハイド:…は、ははは…あははははっ…私としたことが……こんな、クズに…殺され…





──再度、銃声





ハイド:ぐあぁぁっ!!

ミカエル:…もう喋んな、その声、聞いてるだけでも反吐(へど)が出る

ステラ:…っ…

ミカエル:!ステラ!!

ステラ:…ミカ…ごめんなさい…私…

ミカエル:っもういい、喋んな!大丈夫だよな、こんな傷、すぐ治る、だろ?

ステラ:…ううん…私の力はすでに全部…あなたへと渡ったはず……もう二度と、私の傷が癒(い)えることはないわ…

ミカエル:…なんで…なんで、俺なんかに…

ステラ:…ふふ、あなたを、信頼したから…って言ったら、笑うかしら…

ミカエル:…っはは…冗談…キツイぜ…

ステラ:あはは…っ…ミカエル…あなたは、私の力で、不老不死になってしまった……永遠を生きることって、とても辛いことなの…とても、苦しくて、痛い…そこには無(む)しかない…まぁ、死んでるのも、同然ね…それでも、この私の力と…共に生きてくれる?

ミカエル:…あぁ…生きてやるよ…お前が生きた分、俺が変わりに、生きてやるよ…俺もこの「罰」を、背負ってやるよ…

ステラ:…嬉しい……そうだ、約束して…この、ロザリオはミカが、『本当に助けたい、愛する人に渡して』……約束、よ…

ミカエル:あぁ…約束する…だからステラ、──

ステラ:最期に

ミカエル:!

ステラ:…最期に…私のお願い、聞いてくれる…? 

ミカエル:…なんだ?

ステラ:…「It is released from this suffering…」 (この苦しみから解放して…) (←耳打ちするように、ボソッと、読むのは日本語、英語、どちらでも構いません)

ミカエル:!!……分かった…

ステラ:…あなたの腕の中で死ねて、私、幸せよ…最期に逢えたのが、あなたでよかった…そして、ごめんなさい…「罰」を、背負わせてしまって…ごめんなさい…

ミカエル:ステラ…

ステラ:…ありがとう…さよなら…

ミカエル:…さよなら、ステラ…良い夢を…








──1発の銃声が鳴り響く、カラスの群れが鳴きながら空へ飛んでいく……








ミカエル:…っ…ステラ……








──廃墟となった古い大きな教会の前、外は霧がかかっている、遠くからひとつの影が、教会に近づいてくる、1人の男が、その教会の階段前で立ち止まり、膝をつく…男は血まみれだった…懺悔をした男は、1人、教会の中へ入っていった……10数年後、1人の強面の男が、教会の前でパイプを加え、立っている







ミカエル:…おい…てめぇ…こんな所に何しにきやがった?…不老不死の男の噂?そんな出任(でまか)せ信じてここまで来たのか…残念だったな、ここには、俺一人しか住んでねぇよ…こんなボロボロの教会に近寄ってくるやつなんざ、肝試しに来るバカどもくらいだ…分かったらさっさと帰れ!じゃあな!………これ以上、誰かが目の前で死んでいくのは、もう、見たくねぇんだよ…









-終わり-



九条 顕彰・台本置き場

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