「きみの時間を僕にください」

作:九条顕彰

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「───俺の、最期のわがまま…きみの時間を、僕にください…」





〜story〜
学校でのいじめが原因で自殺を図るも、一命を取り留め病院に入院することになった高校生の綾瀬ことり。病院にいても、死にたいという気持ちは変わらず、ある日、屋上から飛び降りることを決意する、そこに現れたのは、ひとりの男性だった。


演者:2人

比率
♂1:♀1

上演時間:約40分




登場人物

綾瀬 ことり (あやせ ことり) ♀17歳
誕生日 11月13日
転校先の学校でのいじめに耐えきれず、自殺を図るも一命を取り留める。幼い頃に両親を亡くし、親戚の家をたらい回しにされる。少し暗い感じの眼鏡っ子。感情が乏しい訳ではなく、上手く表に表現出来ない。コミュ障。小説家になりたいという夢がある。

小野 寿成 (おの かずなり) ♂35歳
誕生日 8月9日
ことりの遠い遠い親戚。明るく、お調子者でちょっとおバカな性格だが、根は真面目。ことりと出会った後、とある病に侵され余命宣告を受けてしまう。自分の残りの時間を大切にしようとしている。インディーズではあるが歌手をしていた。今は作詞家をしている。



役表
綾瀬ことり:
小野寿成:







⚪︎本編⚪︎




ことり(M):全てが嫌になった、学校に行くことも、誰かと会って話しをすることも…自分が生きていることも…この世界も…何もかも、全部。だから、私はあの日、1度死んだ





ことり:…なんで…なんで、まだ生きてるの…私…





ことり(M):目が覚めると、見たことも無い真っ白な天井が、視界の中に広がった…全てが嫌になった…あの日私は、自殺して、全てから逃げようとした…けど、それはどうやら失敗に終わったらしい…まだ自分が生きているというのが、信じられなかった





ことり:…「お前はそうしてずっと1人で生きてろ」ってこと…?あはは…神様は簡単に死ぬことを許してくれないみたい…酷いなぁ…私はこんなにも死にたいのに…





ことり(M):それからしばらくの間、私は病院のベッドという監獄の中で、己の傷が癒えるのを待っていた…体の傷は隠せても、心の傷は隠せないというのに…









───数日後、病院の屋上にて、ベンチに座っていることり








ことり:はぁ…やっと動けるようにはなったけど…どうしようかな、これから…私にはもう、帰る場所も、行く宛もない…








───ことり、ベンチから立ち上がり、屋上の柵の方まで行く








ことり:高いなぁ…病院の屋上だから当たり前か……ここから飛べば、私、本当に小鳥になれるかな…お父さん…お母さん…今そっちに行くね








────柵をよじ登ることり、そこに、男の声がかかる









寿成:おい!?ちょっと!きみ!! 

ことり:!!

寿成:何やってるんだ!その柵は登っちゃいけないものなんだぞ!さ、早くこっちに戻ってくるんだ!

ことり:…あなたに関係ないでしょ、私が何しようが、私の勝手…他人が口出さないで

寿成:いーや、悪いが口出しさせてもらう!…それに、他人でも、関係なくもない…多分

ことり:…どういうこと?

寿成:…きみが、「綾瀬ことり」ちゃん、だよね?

ことり:っ?!…なんで、私の名前、知って…

寿成:(ため息)…やっぱり、そうなんだね

ことり:あなた…なんなの…?

寿成:うーん…「死神」?

ことり:……は?

寿成:いや、うそうそ冗談!そんな怖い顔しないでよ!…なんて言うか…きみのこと、頼まれたって言うか…さ……あーもー、まどろっこしいのは無しだ!単刀直入に言うと、綾瀬ことりちゃん、俺は君を引き取りに来た…あぁ、「保護者として」、ね

ことり:私を、引き取りに…あなた、お父さんかお母さんの兄弟?

寿成:ああ、まあ正確には、お父さんの従兄弟のいとこだけどね…きみを引き取ってた人…俺の従兄弟から連絡があってさ、どうしてもきみの事を引き取って欲しいって…それで、迎えに来た

ことり:…また、なのね…

寿成:え、「また」?

ことり:…もう、うんざりよ、何もかも…全部大っ嫌い…お父さんの遺産目当てで集(たか)ってくる親戚の大人も、今の学校も…自分も…みんな大っ嫌い…もう終わりにしたいのよ、こんな人生…だから、ほっといて

寿成:イヤだ

ことり:…なんで…

寿成:だって、ほっといたら死んじゃうだろ?俺はきみを死なせたくない、それに俺は、きみの親の金なんて一切興味ないよ、そりゃまあ、生活が楽かと言われればそうじゃないけどさ…きみの事を聞いた時…同情とかかもしれないけどさ、何となく、ほっといちゃいけないと思ったんだ……俺も、昔…似たような暮らし送ったから

ことり:…!

寿成:はぁ〜…結構暗い感じの子って聞いてはいたけど、まさかここまでとはね…さて、そろそろそこから降りて、こっちに戻って来てくれないかな?まあ、きみが拒否しても無理やり戻すつもりではいるし、引き取ると決めた以上、ここできみに死なれたら困るからね…これからは、俺がきみの「家族」だ

ことり:…家族…

寿成:うん

ことり:…あなたを、信じていいの?

寿成:うーん…信じるかどうかはきみ次第だけど…まあ、信じて欲しいかな?きみはどう思うか分からないけど…でもこれだけは言える、俺はこれから先、きみの手を放したりしない、絶対に

ことり:!

寿成:さ、一緒に帰ろ、俺たちの家に…




 


────ことりに手を伸ばす寿成







ことり:…







────柵から降り、寿成の手をとることり







寿成:…よかったぁ…戻ってこなかったらどうしようかと思った

ことり:…あの、なんて呼べば…

寿成:あ、自己紹介がまだだったか、俺は、小野寿成(おのかずなり)って言うんだ!まあ、俺、こんな性格だし、生活とか、色々苦労かけることもあるかもだけど、これからよろしくな、ことりちゃん

ことり:…よろしく、お願いします




ことり(M):それから私は、この…小野寿成(おのかずなり)さんの家へ、養子という形で行くことになった…それから、数ヶ月後…









───マンションの一室、リビングのテーブルで突っ伏して寝ている寿成









ことり:…寿成さん…

寿成:…ん〜…

ことり:寿成さん、起きてください、こんなところで寝たら風邪引きますよ

寿成:んぁぁ…あと5分…ぐー…

ことり:!ダメですって、風邪引きますから起きてください、寿成さん………起きろぉぉ!!!

寿成:ふぁ!?はぃっ!!?

ことり:おはようございます。

寿成:あ、あぁ、おはよう…?

ことり:はぁ…また、徹夜ですか…

寿成:あ、あはは…いやぁ、なんか、うまい言葉が全然見つからなくてさ…最近バイト先でも色々あって寝不足で…ちょっと調子悪いみたいだ

ことり:…作詞家、というのも大変ですね…

寿成:ああ、まあな…でも、これもことりちゃんと2人で暮らすためだし、がんばってお仕事するよ!ちゃんと食い扶持は稼がないとね!

ことり:…あの…

寿成:?どうした?

ことり:…折り入って、寿成さんに相談したいことがあって…

寿成:お?何かな?俺でよければなんでも聞くよ

ことり:…あの、ですね…私も、バイトを、したいと思ってます…少しでも、寿成さんの力になりたいと思って…

寿成:!

ことり:…学校の事も…事情を知って、転校までさせてもらって…それに、寿成さんも、作詞家やりながら、コンビニとかで働いてて…その…私だけ何もしないで学校から帰って、家にいるのは…心苦しくて…

寿成:…いやいや、ことりちゃんは掃除とか料理とか、家のこと色々してくれてるじゃないか、それだけでも本当に助かってるし、嬉しいんだよ…でも、そうだね…ことりちゃんがやりたいって言うなら、俺は止めないよ、何事も経験って言うからね

ことり:…寿成さん…ありがとうございます

寿成:まあ、どんなバイトやるかにもよるけどね、何やるかは決まってるの?

ことり:…家の近くの本屋さん…アルバイトの求人募集をしていたので、できればそこがいいなって…受かるかわからないですけど…

寿成:本屋か…うん、いいと思う!がんばって!…そう言えば、ことりちゃん、暇さえあれば本読んでるよね?好きなの?

ことり:…はい…将来は、小説家になりたいと、思ってます…

寿成:小説家!へぇ、そうなんだ!いや、夢があるのはいいことだよ!その夢が叶うように、保護者として、応援し続けるね!

ことり:あ、ありがとう、ございます…

寿成:はは、でも、そうか、小説家かぁ…いいなぁ…俺も、ジャンルは違うけど物書きみたいなものだから、負けないように頑張らないとなぁ……けど、ことりちゃんからこんな話を聞ける日が来るなんて、すごく嬉しいな…俺、少しは信用してもらえてるって事だよな

ことり:っ!

寿成:いつか、ことりちゃんが書いた小説、読ませてね!俺が第1読者!

ことり:はっ、はい、頑張ります…

寿成:…あと、そろそろ敬語はやめて欲しいかなぁ?一応俺たち、「家族」だろ?気楽に話しかけてくれていいんだよ?

ことり:は、はい…

寿成:「はい」?

ことり:っ…う、うん…

寿成:ははは!本当に可愛いなぁ、ことりちゃんは!

ことり:…セクハラで訴えます…

寿成:ええ!?なんでぇ!?

ことり:…ふふっ…

寿成:…!

ことり:寿成さんが悪いんですよ、私のこと、そうやってからかうから

寿成:…初めて、笑ってくれたね

ことり:…!

寿成:ははは、今日は嬉しいことづくしだなぁ、ことりちゃんの笑顔が見れたり、将来の話が聞けたり…今日は雪でも降るのかな、なーんて!

ことり:ふふ、大袈裟です……でも、私も…こうやって誰かと笑って、お話出来る日が来るなんて、思ってませんでした…今までお世話になったところの人達は、ほとんど会話もしてくれなかったから…

寿成:!…そう、なんだ…

ことり:…幼い頃に両親を交通事故で亡くして…色んな親戚をたらい回しにされて…通り過ぎざまに聞こえるのは、父と母の悪口、次の引き取り先の話…私の陰口…そんなのばかりで…人とろくに話も出来なくて……だから、今、寿成さんの所に来れて、私は幸せです…寿成さんに出会えて、よかったです

寿成:…そっか…そう言って貰えて嬉しいよ…俺も、ことりちゃんが今よりもっと笑顔でいられるように、笑顔で話せるように…もっと頑張るね…ことりちゃんには、笑顔が1番似合ってるから

ことり:っ!

寿成:?どした?

ことり:い、いえ、なんでもありません…あ、私、洗濯物干してきますっ!

寿成:お、おう、行ってらっしゃい!…ありゃ照れ隠しだな、はは、ほんと可愛いやつ…あの敬語ぐせはいつ取れるんだろうなぁ…いつかタメ口使わせてやる…さて、俺もこれ、さっさと書き終わらせないと…と、その前に、一服…と






────寿成、椅子から立ち上がろうとして、たちくらみを起こす







寿成:…っ……な、なんだ、今のたちくらみ…ここんとこ寝れてないからかな…そういや最近偏頭痛も酷いし…やっぱり、少し寝とくかな…






ことり(M):これがのちに、私たちの運命の歯車を狂わせるなんて、思いもしなかった…あの後、私はバイトの面接に受かり、本屋でアルバイトを始めた…大好きな本に囲まれて、バイト先の人も優しい人ばかりで、家に帰れば、寿成さんが居て…毎日が楽しかった…話し下手な私でも、こんなに人と話せることが出来るんだ、ちゃんと接客出来るんだ、と、できることが増えるのが嬉しかった…でも、その幸せは長く続く訳がなく…「その時」は、突然やってきた…







───バイトから帰ったことり







ことり:ただいま

寿成:あ、おかえり、ことりちゃん、バイトお疲れ様

ことり:お疲れ様…です

寿成:ん〜?「です」は要らないぞぉ?

ことり:うう…私だって…敬語、使わないようにとは思ってる…です…

寿成:あはは!そうかそうか!

ことり:あ、私もご飯の支度…て、手伝う…

寿成:あ、じゃあお願いしようかな?んじゃ、ことりちゃんには野菜切ってもらおうかな?今日はカレーだよ

ことり:はい…あ、うん…

寿成:言い直した(笑)

ことり:むぅ…

寿成:まぁ、徐々にでいいよ、焦らずいこう…まだまだ、時間はあるしね

ことり:…うん

寿成:さてと!じゃ、鍋とか用意しとくから、先に着替えておいで、ことりちゃん

ことり:はい








───着替えるため、自室に向かおうと寿成に背を向けることり、すると、背後から鍋が床にガシャーンと落ちる音、思わず振り返ることり







ことり:わっ!?な、なに、今の音…寿成さん、大丈夫………?!

寿成:うっ…






──倒れている寿成







ことり:か、寿成さん…?寿成さん!?





ことり(M):──気づかなかった、気づくことが出来なかった…なんで私はいつも、大事なことを見落としてばかりいるんだろう…楽しさにかまけて、見えていなかったのかもしれない…二度と、大切な人を失いたくないと、そう、思っていたのに…その病は既に、寿成さんの寿命を食い散らかしていた…








───病院にて…入院することになった寿成、お見舞いに来たことり








寿成:…いやぁ…ごめんね、ことりちゃん…まさか、入院なんてことになるなんてさ

ことり:…寿成さん…

寿成:あ、でも、早く良くなって、また家に帰れるようにするから!だから安心して!ね?

ことり:…本当に?

寿成:え?

ことり:本当に、良くなりますか?

寿成:…あぁ、医者が言うには、ただの過労だってさ…だから、しばらく入院すれば良くなるだろうって

ことり:…

寿成:…ことりちゃん?

ことり:寿成さんは、嘘つきですね

寿成:…え?

ことり:私、お医者様に問いただしました…先生は、私みたいな子供に言うようなことでは無いって仰ってたけど…でも、知りたかったんです…寿成さんの病状が、どこまで進んでいるのか

寿成:っ!

ことり:…それで…もう、余命も宣言されている、と…

寿成:ことりちゃん…

ことり:なんで、今まで黙ってたんですか…なんで、こんなになるまで、放っておいたんですか?

寿成:…

ことり:…答えてください、寿成さん

寿成:…はは…ことりちゃんには敵わないなぁ……今から話すことは、全部、ホントの事だよ…この病気のことを知ったのは、3か月前だったかな…ことりちゃんがようやく、打ち解けてくれて、2人で笑いあったり、将来の話とかしてくれてさ…本物のお父さんよりは劣るけど…本当に、きみの父親になれたような気がして…嬉しくて…

ことり:…

寿成:…そんな時…体に違和感を覚えた、普段はないような立ちくらみや、視界が真っ白になることが多くなって…怖くて、病院に行った…どうせ、働きすぎて疲れてるだけだろうって、休めば治るって医者に言われるだろうって、軽く考えてた…

ことり:…はい…

寿成:けど結果は、俺が考えていたものとは全然…大きくかけ離れてて……遅すぎたんだ…もう手の施しようがない、って言われたよ…その時に、余命も宣告された…医者からは、延命治療は可能でも、完治まではいかないだろうって…なら、残りわずかな時間、ことりちゃんと少しでも長く、一緒に居られたらって考えたんだ…それで、病気の痛みとか、薬で誤魔化してた…ことりちゃんを、1人にしたくなかった…また1人ぼっちにしてしまうのか、と思うと、すごく、怖かった…

ことり:…寿成さん…

寿成:…もう少しで、ことりちゃんも高校を卒業する…せめてそれまでは、と思ったけど…あはは…無理がたたったのかな?…この体も、あとどれ位もつか分からない……隠すつもりはなかったんだけど、どうしても、言えなかった…ごめんな…こんなことになって…本当にごめん…

ことり:…

寿成:…あーあ…ことりちゃんの成人式姿とか、見たかったなぁ

ことり:…そんなこと、言わないでください…寿成さんは、悪くないです…

寿成:…ことりちゃん…

ことり:…でも、私、怒ってますから

寿成:えっ

ことり:当たり前じゃないですか、こんな大事な事、家族の私に黙っていたなんて、絶対に許しません

寿成:ご、ごめんなさい…ことりちゃん、怒ると怖いからな…(独り言)

ことり:何か、おっしゃいました?

寿成:い、いいえ、なんでもございませんっ!俺が悪かった!本当にごめん!

ことり:許しません

寿成:こ、ことりちゃぁん…(泣)

ことり:何を考えてるんですか、私のためを思うのであれば、もっと早く言って欲しかったです、謝る前に

寿成:うぅ…ごもっともです…

ことり:…たった1人の、家族なんですよ…私にとっても…寿成さんにとっても…

寿成:…!

ことり:寿成さんは会った時からそうでした、私のため、私のためって…ずっと笑顔で、頑張って…色んなこと隠して…

寿成:…

ことり:寿成さんも、たまにはわがまま言っていいんですよ…私たち、家族なんだから…私ばっかり、色んな物貰うのは、嫌です…

寿成:ことりちゃん…

ことり:私も…寿成さんのために、何かしたいです…

寿成:…そうか…そうだよな…俺たち、家族、だよな…

ことり:…

寿成:…んじゃあ、ことりちゃん

ことり:はい

寿成:俺の、最期のわがまま、きいてくれる?

ことり:……はい

寿成:…きみが高校を卒業したら、俺は…きみの「保護者」から、「旦那さん」になりたい

ことり:…え?

寿成:…まあ、それまで、俺の体力が持てばだけどさ!

ことり:え…それって、つまり…

寿成:俺、こんなだらしない性格だし、それに、この病気のせいで、きみの手を煩わせるかもしれない、迷惑かけるかもしれない…若しかすると、一生叶わないわがままになるかもしれない…だけど、どうしても、この気持ちだけは抑えられないんだ

ことり:あ、あのっ、寿成さ※

寿成:※ずっと前から、きみの事が好きでした

ことり:っ!

寿成:…これが、最期の、わがまま………僕の残りの時間分だけでいい、きみの時間を、僕にください

ことり:…

寿成:ダメ、かな?

ことり:……

寿成:…ま、まあ、ことりちゃんも若いしね、他に好きな子がいるなら諦めるけ※

ことり:※そんな人いません

寿成:お、おう…即答…そ、そうなんだ…

ことり:…時間は、有限です…

寿成:…へ?

ことり:誰かが言ってました…時間は有限、だから、一日、いちにちを悔いの残らないように過ごさないといけない、と

寿成:う、うん…

ことり:…悔いのないように、泣いた分だけ笑顔で過ごせるように…私も、寿成さんの時間、もらっても、いいですか?

寿成:…え?

ことり:だからっ!…寿成さんの悔いが残らないように…私も、寿成さんの時間が欲しいです…寿成さんの、最期の一分一秒まで、一緒に、泣いたり笑ったり怒ったり…したい、です

寿成:………ぷっ(吹き出す)

ことり:えっ?

寿成:…ぶふっ…あははははは!!

ことり:!?な、なんで笑うんですか?!

寿成:あははっ、いや、ごめん、ついね…ことりちゃんらしい返答の仕方だなと思ってさ

ことり:な、なんなんですかそれ…まさか、さっきの、冗談、なんですか…せっかく勇気持って告白したつもり…なのに…

寿成:ふふ…笑ってごめんね…でも、あれは、冗談なんかじゃない

ことり:…!

寿成:俺は本気だよ、ことり

ことり:っ…名前っ、呼び捨て…

寿成:当たり前じゃないの、これから「夫婦」になるんだからさ、まぁ、まだ先の話だけどね

ことり:…

寿成:で、さ、その…さっきのは、「イエス」ってことで、いいんだよね?

ことり:…はい

寿成:…っあああ、なんかホッとしたぁ…嫌って言われたらどうしようかと思った…

ことり:嫌なんて、言わない…よ…

寿成:お、タメ口、頑張ってるな(笑)

ことり:う、うるさい!です!

寿成:あははははは!

ことり:…私の時間、あげるんだから…幸せにしてくれなきゃ、怒るから

寿成:わお、ここまで来て怒られるのは嫌だなあ…まあ、幸せに出来るように、努力するよ

ことり:…うん







──── 一瞬シーンとする病室…叶わないことと知りながらの告白に、ことりの目には涙がたまる、徐々に泣いていく2人







寿成:…なぁ、ことり

ことり:…なに?

寿成:…成人式、一緒に写真、撮ろうな

ことり:!…うん





ことり(M):…うそつき





寿成:…旅行もさ、たくさんしよう!色んなとこ出かけよう!なんなら海外でもいいぞ!あとは、そうだな、カラオケ行ったり、一緒に散歩行ったり、ゲームしたり…あと………俺たちが、歳とって、しわしわになっても…ずっと…2人で手をつないで、外を歩けるような…そんな夫婦でいような…

ことり:……うん…





ことり(M):叶わないと、わかっているのに…なんで、この人は…






ことり:…約束だよ、寿成さん…

寿成:…!





ことり(M):泣きながら、そっと、彼の手を繋いだ…私たちの気持ちを察するかのように、窓の外には雪が降っていた…叶わない約束…それでもきっと、これが、彼の心の支えになる…そう、信じて…






ことり:…約束だから、ね…離しちゃ、嫌だからね…

寿成:……そうだな…約束だ……あぁ、もっと、生きたかったなぁ…








ことり(M):…これが、彼の声を聞いた、最後だった…あの後、容態が急変した彼は、緊急治療室へと運ばれた…完全に面会謝絶、顔を見ることさえも、声を聞くことさえも、許されなかった…次に会うことが出来たのは、彼が危篤状態だと知らせが来た時だった…私は彼の死に目に間に合うことが出来ず、病院に着いた時にはもう、彼は息をしていなかった…2月末、高校卒業も間近の頃だった







───寿成の病室へ走ることり







ことり:っ!…はぁ、はぁ…はぁ……か、寿成、さん?…そんな…寿成さん!返事してよ!…寿成さん…






───寿成の手をとることり







ことり:…まだ、手、あったかい…そう言えば、人って、死んでからでも数分間だけ、声が聞こえてるって言うよね…まだ、私の声、聞こえてるかな?






────涙を流しつつ、話しはじめることり







ことり:……寿成さん、ごめんなさい…私、寿成さんのわがまま…叶えられなくて…最期の一分一秒まで一緒にいるって、約束したのに…直接会うことは出来なかったけどさ…私、毎日病室の前には来てたんだ…どうしても、寿成さんに会いたくて、寿成さんの声が聞きたくて…毎日毎日、学校終わったあととか、バイト終わったあとにさ…でも、やっぱりダメだって、お医者様に言われて…悔しかった…この壁の向こうであなたが苦しんでるのに、私は何も出来なくて…ねえ、なんで、あんなこと言ったの…守れないってわかってて、なんで…







────ことり、嗚咽しながら泣く







ことり:…ごめんなさい…辛いのは私だけじゃない…寿成さんだって…辛かったよね…苦しかったよね…私、わがまま過ぎたよね…ひどいのは私の方だ……私は、寿成さんを幸せに出来たのかな…私さ、嬉しかったんだよ、「きみの時間を僕にください」って言われた時…私もずっと寿成さんの事が好きだったから…でも、寿成さんは家族だから、こんな感情は捨てなくちゃと思ってた…あの時、寿成さんからプロポーズされて…本当に嬉しかった…せめて、こうなる前にもう一度だけ、あなたと手を繋ぎたかった……私、もう少しで、高校、卒業するんだ…一緒に、写真、撮りたかったね……ごめんね…







────寿成の目から涙がこぼれ落ちる、遠くから、寿成がことりを呼ぶ声が聞こえた気がした







寿成:(ことり)
※ここは言っても言わなくても大丈夫です、役者様にお任せします



ことり:っ!…寿成さん…泣いてる…?もしかして、私の声、届いた…?





-回想シーン-

寿成: (いつか、ことりちゃんが書いた小説、読ませてね!俺が第1読者!)




ことり:…そう言えば、そんなこと言ってたよね……私、頑張る…胸を張って自慢できるくらい、いい小説かけるように、頑張るね……ありがとう…さよなら…私の1番、大好きな人








───小さく咽び泣くことり、あたりはシーンとなる…暗転






ことり(M):その後、高校を卒業した私は、バイト先である本屋へそのまま就職、働きながら小説を書き始めた…寿成さんとの思い出、過ごした日々、隠し続けた想いを、胸に秘めて







───寿成の遺影の前、線香を灯すことり、遺影の寿成に話しかけることり








ことり:寿成さん、おはようございます…あれから2年が経ちました…なんか、あっという間ですね…あなたが亡くなって、心に少しだけ隙間ができたような感じがして、少しだけさみしいです…そう言えば、私、20歳になりました!今日は成人式です!振り袖借りるの、すごい緊張しました…どうですかね?似合いますかね?…ふふ、寿成さんだったら、「ことりちゃんは可愛いからなんでも似合う!」って言いそうですね……帰ったら、一緒に写真、撮りましょうね、約束、しましたからね…じゃあ、行ってきます








───玄関に向かおうとすることり、思い出したように寿成の遺影に振り返る








ことり:あ!言い忘れてた!あのですね、実は、やっと小説、1本書き終わったんです!出版社に持って行こうかすごく迷っているんですけど…やっぱり、初めに、寿成さんに読んで欲しくて…って、何言ってるんだ私…とにかく、もし発売されるってなったら、また報告しますね!小説のタイトルはですね…ふふ、寿成さんが私に言った、あのセリフです



寿成:「きみの時間を僕にください」







終わり

九条 顕彰・台本置き場

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