【a long time ago...】
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ジャンル:復讐劇・シリアス
───「お前には、殺したいほど憎い相手がいるか…?」
〜あらすじ〜
1920年代、禁酒法時代と呼ばれ、法は力を持たず、街はマフィアに支配されていた頃のアメリカ。無法地帯の時代に生まれた若者、マルコムは、とある目的のため、マフィアのコルテーオファミリーの元へ訪れる。そこでドン・コルテーオに気に入られ、ファミリーの一員となる…果たして、彼の目的とは…
比率:♂2:♀0
演者:2人
上演時間:約30分
登場人物
ジョナサン・マルコム 25歳 男
(本名:ショーン・リロイ・ギブス)
ドン・コルテーオ 56歳 男
(本名:サルヴァトーレ・コルテーオ)
※コルテーオは劇中に登場する部下を兼ね役でお願いします
役表
マルコム:
コルテーオ:
〇セリフ〇
───舞台は1920年代、禁酒法時代のアメリカ。とある病院の病室、病で伏せっている男に寄り添うようにして立っている男が1人…しばらく沈黙が続いたが、ベッドに寝ている男がおもむろに口を開く…
コルテーオ:なぁ、マルコム…お前には、殺したいほど憎い相手がいるか…?
マルコム:…は?
マルコム(M):何を言ってるんだ、この人は…
コルテーオ:…私には、いる…殺したくて殺したくて仕方の無い相手が…
マルコム(M):…そんなの、俺だって…
コルテーオ:見ての通り、私の寿命も、もってあと数ヶ月だ…今なら、そいつを殺して、私も共に地獄に落ちるのも悪くは無いな、と、思う
マルコム:そんな…ご冗談を
コルテーオ:冗談なんかじゃねぇ
マルコム:っ!
コルテーオ:…もう一度聞くぞ、ジョナサン・マルコム…お前には、殺したいほど憎い相手がいるか…?
マルコム(M):…アンタには分からないだろうな、ドン・サルヴァトーレ・コルテーオ…俺が1番殺したいやつは…
マルコム:ええ、いますよ……俺の目の前に
マルコム(M):そう、アンタだよ…
───マルコム、コルテーオに銃を向ける…1発の銃声が響く……
時を遡り数ヶ月前、マフィアのコルテーオ一家の蒸留所前、1人の若者が見ている
マルコム(M):12年前の惨劇(さんげき)、あれが全ての始まりだった…両親を俺から奪った、マフィアのボス、サルヴァトーレ・コルテーオ…こいつを俺の手であの世に送る…その復讐心だけが、俺の生きる意味だった
マルコム:ここがあの、コルテーオ一家(ファミリー)の…
コルテーオ:おう、お前、見かけねぇ顔だが、うちの島になんか用か?
マルコム:…!いや、あの…
コルテーオ:…失礼、まずは名乗るべきだったな、私はここのボス、サルヴァトーレ・コルテーオだ…最近ウチの島を荒らす輩がいると聞いたもんでな…まあ、ボス自ら出向いて見張ってるわけなんだが…お前、どこぞのマフィアのもんか?
マルコム:ち、違います…俺はその…ただの郵便配達員です
コルテーオ:ほほう…ただの郵便配達員にしては、2時間くらいずっとここをうろついていたようだが?
マルコム:うっ…その…
マルコム(M):失敗した…まさかこんな所で見つかっちまうとはな…しかし、「仇」自らノコノコ出てくるとは…これはもう…ここで殺るしか…
コルテーオ:…そうか、お前…まさか…
マルコム:っ…!
マルコム(M):バレたか…?いや、もうあれから何十年も経ってるんだ…俺の顔なんか覚えてるはず…
コルテーオ:うちの商売に興味があるのか?
マルコム:…は?
コルテーオ:こんなにまじまじと熱く見つめてるんだ、そうなんだろ?な?な?!
マルコム:え、あ、いや…(汗)
コルテーオ:うちも今、人手が足りなくて猫の手も借りてぇくらいなんだ!どうだ?お前、うちに入らねぇか?
マルコム:!!…コルテーオ…ファミリーに…?
コルテーオ:おうともさ、歓迎するぜ?特に、若いやつはな
マルコム:…ちょうど、今の仕事が割に合わないなと思っていたんですよ…まさか、本当に声をかけていただけるなんて思ってませんでした
コルテーオ:…じゃ、交渉成立、だな?
マルコム:はい、よろしくお願いします、コルテーオさん…俺はジョナサン・マルコムと言います
マルコム(M):この出会いは偶然か必然か…俺は両親の仇であるコルテーオファミリーの下で働くことになった…そう、全ては、12年前の復讐のため…サルヴァトーレ・コルテーオを、殺すため…
───それから日は経ち…
コルテーオ:おい、マルコム、「ブツ」の出来はどうだ?
マルコム:上々…と言いたいところですが、品質的にはやはり、ルチアーノのとこよりは劣るかと…
コルテーオ:そうか…全く目障りなやつだぜ…それよりマルコム、今日もアレ、頼まれてくれるか?
マルコム:…あぁ、いつもの「お届け」ですね…場所はどこです?
コルテーオ:2ブロック先の例のボロアパートだ、「届けもん」はそこですやすや眠ってる
マルコム:了解しました
マルコム:「届けもの」…これはいわゆる、人を殺せという意味だ…俺は短期間でサルヴァトーレの信頼を勝ち取り、今では奴にとって邪魔な存在を始末する仕事、裏取引、薬の売買など、大きな仕事は全て俺に任せられている…俺がサルヴァトーレにとって、1番の敵だということも知らずに…
コルテーオ:ふぅ…それにしても、この頃景気がすこぶる悪くて嫌になる…そろそろ新しい商売でも始めるか…ゲホゲホ…
マルコム:…ボス、余計なお世話かもしれませんが、葉巻、やめた方がいいんじゃないですか?最近やけに咳がひどいと、部下の間で噂になってますよ
コルテーオ:本当に余計なお世話だ…好きなもんをそう簡単にやめられるわけねぇだろ
マルコム:まあ、そうですけど…
コルテーオ:これは俺の唯一の癒しなんだよ、ほら、お前も一本吸ってみろ!人生変わるぞ?がははは!!
マルコム:…前にも言いましたが、俺は煙は苦手なんです
コルテーオ:ああ、そう言えばそうだったな…しかし、お前は相変わらずクールだねぇ…いつからそんなつまらん男になったんだ?
マルコム:元からです
コルテーオ:そうか、そりゃすまん
マルコム:…「届けもの」に行ってきます
コルテーオ:ああ、待てマルコム
マルコム:?
───コルテーオ、マルコムに葉巻を1本投げ渡す
マルコム:…だから、吸わないって
コルテーオ:そうじゃない、お守りだ、とっとけ
マルコム:お守り?
コルテーオ:ああ、どこにいても、私がそばにいる、ってな(笑)
マルコム:…気持ち悪い
コルテーオ:なっ…ボスの優しさを無下にするとは…辛辣な部下だ(泣)
マルコム:…まあ、有難く頂いておきます
コルテーオ:おう!そうしとけ!
マルコム(M):…俺がこれを嫌いな理由は、他にもあるけどな…
───銃声が響く、目の前には見知らぬ男の死体…マルコムが「届けもの」の仕事を終える
マルコム:…はぁ…
マルコム(M):俺はいつまで、あいつの下で働くんだ…別に、今やつを殺してもいいはずじゃないか…殺して、逃げりゃいいだけなのに…なのに、なんで…
─回想─
コルテーオ:よく来てくれたマルコム!お前は今日から、私の息子も同然!困った時はなんでも私に頼ってくれていいぞ!がははは!!
───
マルコム:…ふっ…毒されたか…あんな奴に…
───マルコム、胸ポケットに入っている葉巻を取り出す
マルコム:…
─回想─
コルテーオ:この葉巻はな、でかい仕事が上手くいった後に吸うって決めてんだ、どうだ?お前も吸うか?って、煙は嫌いだったんだな、すまんすまん
──
マルコム:ああ、嫌いだよ、大嫌いだよ…この葉巻も…お前もな…サルヴァトーレ…
──その時、サルヴァトーレの部下が入ってくる
部下:マルコムさん!大変だ!!
マルコム:騒がしいぞ…どうした?
部下:ボスが…サルヴァトーレさんが、倒れちまった!!
マルコム:…なに?
部下:今病院に搬送中で…って、マルコムさん!?どこ行くんです!?
マルコム:病院に決まってんだろ!何グズグズしてる!行くぞ!!
部下:は、はい!
マルコム(M):あの野郎…俺が殺る前に死ぬとか…許さねぇからな…!
──マルコム、サルヴァトーレが搬送された病院へ…サルヴァトーレの病室へ勢いよく入るマルコム
マルコム:っ…!
コルテーオ:…おう、マルコム、どうした、そんな湿気たツラして
マルコム:…さっき部下の知らせで…あんたが倒れたって…
コルテーオ:そうか…はは、情けねぇなぁ…
マルコム:…何が、あったんですか…?
コルテーオ:…肺ガン、だとよォ…もう身体中に転移して、治る見込みがないそうだ…医者が言うには、もってあと数ヶ月らしい
マルコム:…そんな…
コルテーオ:夢ならよかったんだがな、ははは!
マルコム:…なんで、そんな笑ってられんですか…
コルテーオ:…悪い、今日はもう1人にしてくれ
マルコム:…わかりました…護衛を外につけときます……じゃあ、おやすみなさい、ボス
──マルコム、退場
コルテーオ:…長年やってきたことの報い、ってやつか…それとも、過去の過ちに対するツケを払えってか…はん、とうとう私も、神に懺悔する日が来ちまうとはな…ほんと、笑えないねぇ…
──一方、マルコム、自室にて
マルコム:……
マルコム(M):このまま待ってれば、あいつは病気で勝手に死ぬ…俺の願いは叶う、それでいいじゃねぇか……けど、俺は今まで、アイツを殺すためだけに…あいつに復讐するためだけに生きてきた…殺るなら今しかねぇ……でも、そのあとは…?アイツを殺して、そのあとはどうする…?俺は、どうなる…?
マルコム:…別に、どうもしねぇさ…そうだ…アイツを殺して…両親のかたきを討つ…ただそれだけだ…病気なんかで死なれてたまるか…俺のこの手で殺してやる…俺の手で殺さなきゃ、意味ねぇんだ…
──サルヴァトーレの病室、マルコム、銃を隠し持って入ってくる
コルテーオ:…よぉ、マルコム、なんだ、今日はお前が護衛係か?
マルコム:…まあ、そんなとこです
マルコム(M):機は熟した
コルテーオ:ほー、上役のお前がわざわざ来るなんざ、うちのファミリーも落ちぶれたな
マルコム:そんな…たまたま俺が空いてただけですよ、まだアンタのファミリーは落ちぶれちゃいません、それに…
コルテーオ:それに?なんだ?
マルコム:…いえ、なんでもありません
マルコム(M):サルヴァトーレ・コルテーオ…今ここであんたを、殺す…
──マルコム、隠し持っている銃に手をかける、その時
コルテーオ:なぁ、マルコム…お前には、殺したいほど憎い相手がいるか…?
マルコム:…は?
マルコム(M):何を言ってるんだ、この人は…
コルテーオ:…私にはいる…殺したくて殺したくて仕方無いほど、憎い相手が…
マルコム:ボス…?
コルテーオ:見ての通り、私の寿命も、もってあと数ヶ月だ…今ならそいつを殺して共に地獄に落ちるのも悪くは無いな、と、思う
マルコム:そんな…ご冗談を…
コルテーオ:冗談なんかじゃねぇ
マルコム:っ!
コルテーオ:…もう一度聞くぞ、ジョナサン・マルコム…お前には、殺したいほど憎い相手がいるか…?
マルコム(M):…アンタにはきっと、一生分からないだろうな、ドン・サルヴァトーレ・コルテーオ…
マルコム:ええ、いますよ……俺の目の前に
──マルコム、サルヴァトーレに銃を向ける
コルテーオ:…!
マルコム:そう、アンタだよ…驚いたか?そりゃそうだろうな…1番信頼してそばに置いていた忠実が部下が、お前のことをずっと殺したいと思ってたなんてな…飛んだ笑い話だぜ、灯台もと暗しってこういうことだな?
コルテーオ:…お前は、ずっと俺の事を…
マルコム:あぁ、そうさ…あの日あんたに声をかけられる前からずっと、あんたを殺したいと…あんたに復讐することだけを考えて生きてきた
コルテーオ:…何故だ…?
マルコム:…覚えてないのか?12年前のこと
コルテーオ:12年前…?
マルコム:あぁ、人殺しすぎてどれか分からねえってか?…ギブス家、って言えば思い出すか?
コルテーオ:ギブス…?…まさか…
マルコム:ようやく思い出したか?
コルテーオ:…ジョナサン・ギブス…12年前に、私が殺した部下だ…
マルコム:…そうだ…俺の本名はショーン・リロイ・ギブス、12年前、お前に殺されたジョナサン・ギブスの息子だ
コルテーオ:…まさか、こんなにでかくなってたとはな…あの頃はひょろひょろのクソガキだったのに
マルコム:…あの日、お前に両親を殺され、挙句俺は…お前に暴行された…俺たち家族は病院に運ばれて…俺だけが助かった…忘れたとは言わせねぇぞ
コルテーオ:…忘れられるわけがねぇ…あの日のことは、今でもしっかり覚えてるさ…そうか…お前が…本当に、でかくなったな
マルコム:…親父がアンタの下で働いてるのは知ってた…けど、なんでだ…なんで殺されなきゃいけなかった?
コルテーオ:…お前の親父はな、二重スパイだったんだよ…うちの島のことを警察にリークしてやがった…しかも、金をもらってな…それで、やむなく殺した…まあ、今のお前には言い訳にしか聞こえないかもしれんがな
マルコム:…そうだな
コルテーオ:それで、どうするつもりだ?
マルコム:…アンタを今ここで殺す
コルテーオ:…そうか…
マルコム:やけに素直だな…もっと暴れるかと思ってた
コルテーオ:生憎、私はそんなことで暴れるほど小さい男じゃないんでね…それにいつかは来るだろうと思っていた…お前じゃなくても、お前のようなやつが私の前に現れるだろうと…謝っても謝りきれない過ちを…俺は何度も犯したからな…こうなる覚悟はとっくに出来ていたさ
マルコム:…
コルテーオ:…どうした、ほら早く撃てよ…まさか、引き金の引き方を忘れたか?仕方の無いバカ息子だ…前にも教えただろう、いいか、相手にしっかり向けて、人差し指に力を入れるんだ…分かってるな?
マルコム:知ってるよ…
コルテーオ:…怖いか?
マルコム:!?
コルテーオ:私を殺して、そのあとの事を考えているんだろう?
マルコム:…
コルテーオ:図星か…
マルコム:っ…別に、どうでもいい…!お前を殺して、俺は逃げるだけだ!
コルテーオ:そうか、ならさっさと殺せ
マルコム:…
コルテーオ:本当に、仕方の無い阿呆だな
──銃声が響く、コルテーオがかくしもっていた銃を発砲、病院内がざわめき出す
マルコム:!?
コルテーオ:さぁ、これでもうあとには引けねぇぞ…10分もすれば警察が来るだろう…殺るならさっさと殺れ、バカ息子
マルコム:…さよならだ、クソ親父
コルテーオ:あぁ、達者でな…地獄で待ってるぜ
───マルコム、コルテーオを射殺
マルコム:…っ……は、はは…ははははははははは!!殺した!殺したんだ!!俺の手で!!あはは!!父さん、母さん、ついにやったよ!俺は復讐を果たしたんだ!!……なのに…なんでだよ……なんでこんなに苦しいんだよ…なんでこんなに虚しいんだよ……なんで、こいつは笑ってんだよ…笑うなよ、そんな幸せそうな顔で死んでんじゃねえよ…そんな顔こっちに向けてくんじゃねぇよっ…ちくしょう……ちくしょう!!!……あ…
───マルコム、胸ポケットの葉巻に気づく
マルコム:…アイツの、葉巻…
──回想──
コルテーオ:そいつはお守りだ!大事にしまっとけ!いつでも私が見守ってるからな
──回想終わり──
マルコム:…
───マルコム、葉巻の先を食いちぎり、その反対側の葉巻の先に火をつけ吸う
マルコム:…っ…ゲホッゲホッ……はあ…やっぱり、これは好きになれねぇや……煙が目にしみやがるぜ… (←だんだん泣き演技)
マルコム:……あんたを殺して、このまま逃げようと思ったけど、やっぱりやめた…俺も今じゃ、アンタのマフィアの一員…アンタの息子だ…責任は、最後までとるぜ…じゃあな、クソ親父……地獄で会おうぜ…
───もう1発の銃声、誰かの倒れる音…病室には、二つの死体がならんだ…
コルテーオ(M):…人を憎んで、恨んで、復讐したとしても、あとに残るのは限りない後悔と、空っぽの心だけ…人は感情のある生き物だからこそ、誰かを恨んだり憎んだり妬んだりしてしまう…その先には何も無いとも知らずに…だから、人は残酷でいて、美しい生き物なんだろう……さて、最期にもう一度だけ聞こうか…「お前には、殺したいほど憎い相手がいるか…?」
─終わり─
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