言ノ葉マテリアル

言ノ葉マテリアル
作:九条顕彰


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「あなたを助けるために、俺は未来から来ました!」


あらすじ
高校生にして小説家デビューを果たした片山カナ。彼女の作品は出る度に評価され、芥川賞までとるほどまでになるが、当の本人は気まぐれなひねくれ者で、人と関わることが嫌いだった。それから2年後、20歳になった片山の新作小説の発表があと1週間後と迫っていたある日、彼女の元に、未来からやってきたという、とある青年がやってくる。



比率:♂1:♀1

上演時間:40分〜45分



登場人物

片山カナ 20歳 ♀
ひねくれ者の小説家。人と関わることが大嫌い。

松原カズヤ 19歳 ♂
片山の小説のファンだという青年。未来からやってきた。



役表
片山:
松原:







〇セリフ




片山(M):近未来、きっとそう遠くないはずの未来…私はその頃、何をしてるんだろう、どんな人間になっているんだろう…またいつもと変わらずに、机にかじりついて1人で小説でも書いているんだろうか…なんて、歩きながら軽く考えていた



松原:突然すみません!あの、片山カナさんですよね!?



片山(M):この青年と、出会うまでは…




松原(M):「言の葉マテリアル」




片山:……え?えっと…確かに、片山カナは私だけど…君、だれ?

松原:あ!自己紹介遅れてすみません!俺、松原カズヤって言います!

片山:あ、うん、そうか…まあ君の名前とかはどうでもいいんだけど…

松原:そんなことより!

片山:そんなこと!?

松原:本当に、あの小説家の、片山カナさんなんですよね!?

片山:いや、君、しつこいな…さっきからそう言ってるじゃないの、私が片山カナだって…本当になんなの?私、早く帰りたいんだけど

松原:あ、すみません…じ、実は、あなたに話したいことがありまして…

片山:はぁ…何よ?もしかして私のサイン目当て?

松原:え!?サインくださるんですか!!

片山:えっ…まあ…それで君から開放されるなら、いくらでも書くわよ

松原:え、えっと、じゃあ、この本に!お願いします!!

片山:はいはい、どれ?……え?「走馬燈楼(そうま とうろう)」?

松原:はい!俺、この本を読んで、片山さんのファンになったんです!他の作品も、もちろんデビュー作も、全部持ってます!!

片山:…ねぇ、まって…なんで君が、この本持ってるの?

松原:え?

片山:だってこれ…1週間後に発表するはずの新作小説じゃないの…

松原:え?それが?

片山:っ!つまり!この本は!まだ世に出てない本ってこと!!

松原:…あっ…

片山:そう、まだ書店にも出てない、古本屋にも売ってない、発売前のものよ…なんでそれを君が持ってるの…?しかも、この本の日焼け具合…一日やそこらで出来た日焼けじゃない…それに年季も入っててかなり読み込まれてる……あなた、一体何者?

松原:…あー…えっと、あの……はぁ、こうなったら仕方ないか……片山さん…今から俺が言うこと、信じますか?

片山:…は?

松原:だから!…今から俺が言うこと、信じてくれますか?たとえそれがぶっ飛んでて、訳が分からないものだとしても…

片山:…まあ…あなたのことは信用してないけど…私は本は信じてるから…内容によるかな

松原:うーん…なんか腑に落ちない言い方だけど…じゃあ、言います……俺は、あなたを助けるために、未来から来ました

片山:…は?

松原:だから!俺は!あんたの命を救うために、ここに!この時代に!未来から来たんだ!!

片山:ちょまちょまちょま、声でかいよ君

松原:あっ…すみません…

片山:えっと…その、つまり、君は私を助けるために、未来からタイムスリップしてきたってこと?

松原:そうです

片山:…うーん、まって、色々追いつかない

松原:なっ!?さっき信じてくれるって言ったじゃないですか!

片山:君じゃなくて、本をね!?

松原:俺も信じてくださいよ!

片山:あーもー、わかったわよ!!…まだ完全に信用してる訳じゃないけど…でも、この本の年季からしたら…信じるしか、ないのか…

松原:煮え切らないなぁ…

片山:うるっさいわね

松原:とにかく、俺はあなたを助けに来たんです!あなたの書く小説、まだまだ沢山読みたくて!…今、書いてるやつも…製作途中で…亡くなられたので

片山:え…?

松原:…今から1週間後の新作発表の日に、あなたは死ぬんです

片山:…は?なに言ってるの?いきなりすぎて訳が分からない…私が、死ぬ?

松原:はい…死因もはっきりとは分からず…過去のニュースでは、自殺なのか、事故なのか、はたまた他殺なのか…その辺がしっかり報道されてないんです…まるで、どこかの有名ミュージシャンのように、曖昧な報道で終わらせられてて…

片山:ちょ、ちょっと待って!

松原:なんですか?

片山:…本当に、私が死ぬの?

松原:そうです、さっき言ったじゃないですか

片山:…そうなんだ…

松原:?どうしたんですか?

片山:…いや、なんでも…

松原:…?

片山:それで…えっと…君さ、今日、どうすんの?

松原:え?

片山:にぶいなぁ…帰る家、泊まるとこ!…あるのかって聞いてるの

松原:そんな、家出してきた高校生みたいな言い方しなくても

片山:いいからサクッと答えんかい!

松原:うっ…そりゃ…未来から来たばっかりなので…その…

片山:つまり、泊まるとこ、ないわけね?

松原:…はい

片山:…じゃ、うち、来る?

松原:…え?

片山:私、こんな性格だし…正直、人間なんか絶滅してしまえって思うくらい関わることも存在も大っ嫌いだけど…君の話がどうしても気になってさ…続きは、うちに来てからしないかなって、思って…ここだと何かと目立つし…

松原:た、確かに…じゃあ、お言葉に甘えて…お邪魔します






────片山の住むマンションに着く






片山:…どーぞ、入って…ちょっと…いや、かなり汚いけど…適当に座って…コーヒーでいい?

松原:あ、大丈夫です…失礼します

片山:…なんか、緊張してる?

松原:や、だって…憧れていた片山さんのお部屋に来れたなんて…めちゃくちゃ嬉しすぎて

片山:…ふーん……もしかして、君、未来から来たとか何とか言っといて、実は私のストーカー?

松原:は!?んなわけないじゃないですか!!

片山:はは、だよね…君、見た限り若いし、童貞っぽいし、そう言うことしそうには見えないし、ストーカーだったらもう既に襲われてるし

松原:なんか複雑な気持ち…

片山:…というか、きみ、歳いくつ?

松原:あ、19です…一応大学生です

片山:ふーん、大学生か…

松原:は、はい…





───片山、コーヒーを入れる、しばらく沈黙、気まずい間





片山:…はい、コーヒー…砂糖とミルクはご勝手に

松原:あ、ありがとうございます

片山:よいしょ…ふぅ…

松原:………あ、あの…

片山:なに?

松原:…俺の事、信用してもらえてるんでしょうか…?

片山:さっきの、私が死ぬって話?

松原:…はい

片山:んー、正直、唐突過ぎてまだ完全には信じてない

松原:で、ですよね…

片山:…でもさ…本を見ればわかるよ

松原:え?本?

片山:うん…まあ、私の大ファンなんだなって言うのは、さっきのでめちゃくちゃ伝わってきたけどさ…この本、年季入ってるし、日焼けもすごいけど…すごく大事にされてる、大事に読まれてるって感じがするからさ…こんなに大事にされてるなって感じた本に出会ったの、初めてかもしれない

松原:…あ、ありがとう、ございます…

片山:…まあ、信じるか信じないかは別として、さ…まずは君の話を聞いてみたくてね…君は本当に、未来から来たんだよね?

松原:はい

片山:どうやってきたの?ドラえもんのひみつ道具でも使ったとか?

松原:まさか…僕の時代ではまだドラえもんは出来てないですよ

片山:へえ、そうなんだ、じゃあ、どうやって?

松原:…これです






───松原、腕時計のようなものを見せる







片山:…なにこれ?腕時計?

松原:見た目は腕時計ですけど…実はこれが、俺の時代の、タイムマシン的な機械なんです

片山:…私をバカにしてる?

松原:え!?してないですよ!ほら、良く見てください!!腕時計と数字とか、なんか色々違うでしょ!?

片山:…ほんとだ…いやに数字がおおい…

松原:そう、この数字が、俺が今、この時代に滞在できる時間なんです、そして、この数字が全部ゼロになったら、俺は自動的に元の時代に戻される

片山:そうなの?

松原:はい…俺はいわば未来人、本当はこの時代には居ないはずの人間なんです、だから長い時間この時代に滞在し続けると、時間軸(じかんじく)が歪(ゆが)んで、その歪(ひず)みに耐えられず、身体ごと消滅してしまう

片山:へぇ…すごい、まるでSF映画見てるみたい

松原:まあ、あなたからしたらそうですよね…俺も、これの試運転時の時はドキドキしてましたもん

片山:…へ?試運転?

松原:はい

片山:君が、これを作ったの?

松原:いえ、これは俺の友人が作ったんです…俺はその、ていのいいモルモット、って言うか…なんて言うか

片山:…あー、なるほどね、君は人に何か頼まれたら断れない人間なんだ

松原:うっ…痛いところを…

片山:…まあ、私も昔そうだったからね…もうやめたけど

松原:やめた?

片山:そう、やめた…だって面倒臭いだけよ…人を信じることも、人の目を気にすることも…どうでもいい事だなって気づいちゃったんだ、私の時間なのに、なんで他人のことを気にしなくちゃいけないんだろうてさ…だから人間は嫌なのよ

松原:…

片山:…あ、ごめん、君に言うことではなかったね

松原:…いえ、片山さんのことは、エッセイとかで何となく知ってるので…

片山:ほほう?どんな風に?

松原:…気難しい人だと…さっきも、人間なんて絶滅してしまえって…

片山:ああ…まあ、あれは半分は冗談だけどね

松原:…

片山:それはいいとしてさ、君はどうやって私の事を助ける気なの?どんな死に方するかも分からない私をさ

松原:それは…分かりません…

片山:何それ、助けたいとか言っておいて、無責任だなぁ君は、無責任ヒーローだ

松原:む、無責任ヒーロー?なんですかそれ…というかその…本返していただけないですか?

片山:ダメ

松原:は!?

片山:これは、君が私を本当に助けられた時に返してあげるよ

松原:え!?そ、そんな…

片山:私、口だけの人はもっと嫌いだから、そこんとこも含めて、よろしく

松原:っ…!…分かりました…じゃあ、その時は必ず返してくださいね!!

片山:もちろん、何なら、倍にして返してあげるよ

松原:倍?

片山:この本と、私の他の小説の新品、プラス、私のサイン付きでね

松原:え!?ま、マジですか!?

片山:何よ、足りない?それじゃ、チェキでも撮る?言っとくけど高いわよ?

松原:い、いえ!そんな…!サインだけでも嬉しいです!!

片山:…きみ、本当にお人好しだね…(ぼそっと)

松原:え?なんか言いました?

片山:ん?いや、なんでもないよ

松原:?

片山:んー、じゃあそうだなぁ…もしさっきの話が本当だと仮定して、その死因が自殺だったとしたら、すぐに私の事止めて貰えるように、君を住み込み家政婦として雇おうかな

松原:え!?お、俺が家政婦ですか!?

片山:うん、けど、変な真似したらその腕時計ごと君を燃やすから

松原:怖っ!!

片山:ふふふ、まあ、半分冗談だけどね

松原:半分は本気なんですね!?

片山:でもどう?悪くない条件だとは思うけど?

松原:まあ、確かに…

片山:じゃあ、決まりだ、今日からよろしくね…えっと…そういえば君、名前なんだっけ?

松原:出会った時に言いました!松原カズヤです!

片山:おお、そうだったそうだった、よろしく、松原くん

松原:もう…あはは、よろしくお願いします、片山さん




片山(M):こうして、ひねくれ者の私と、未来から来た青年との、1週間の生活が始まったのだ…私にとってみれば、新作小説のネタにちょうど良かったし、野良猫を拾ってきたみたいな感覚でもあった…人嫌いの私が、なぜ彼の事が気になってしまったのか、未だに分からないが…きっと自分でも気付かぬうちに、彼の声に、仕草に、紡(つむ)ぐ言葉に、真っ直ぐな瞳に、惹かれてしまっていたのだろう…それから、2日が過ぎたある日のこと…



 





────片山の書斎、パソコンで次の新作を書いている片山…ノック音、手を止める片山









片山:はいはい

松原:失礼します、カナさん、掃除終わりましたよ

片山:うむ、ご苦労だった、下僕(しもべ)

松原:いつから俺はあんたの下僕になったんすか!

片山:ん?出会った時から

松原:ひど!!

片山:冗談だよ、半分ね

松原:その言い方、好きですね

片山:それよりさ、こっちに来てもうすぐで3日経とうとしてるけど、どう?

松原:どうって?

片山:私を助ける手立て、見つかった?

松原:…まだです…その時になってから考えます

片山:ふーん…やっぱり君は無責任ヒーローだ

松原:だからなんなんですかそれ

片山:無責任だから無責任ヒーローなんだよ、少しは察したまえ、にぶちん…ところで君はさ、私の本、全部読んだんだよね?

松原:え?ええ読みました

片山:どうだった?

松原:え?

片山:感想だよ、感想

松原:あ、ああ…なんというか、言葉の表現が綺麗で…一つ一つの文面から音とか香りとか、風景とかが…こう…読んでて分かりやすく伝わってきて…その、すごく好きです

片山:…そうか…今回の新作はどうだった?

松原:「走馬燈楼(そうま とうろう)」ですか…あれは本当に衝撃的でした、今までのジャンルは全部、現代系の恋愛小説だったのに、まさか時代物ファンタジーが来るなんて…読んでいてすごく引き込まれて、主人公の青年が、影鬼(えいき)と呼ばれる妖たちを次々と退治して、愛する人を助けるシーンとか、守るもののために成長していく姿とか、すごくかっこよくて好きです

片山:……

松原:…?カナさん?

片山:…君はさながら、未来から来た「朔(さく)」だね

松原:…は?!

片山:なんだ、私の小説を読んだんなら、分かるでしょ、「走馬燈楼」の主人公、妖退治屋(あやかしたいじや)、「影鬼狩り(えいきがり)の朔」

松原:いや、分かってますけど!お、俺、あんなにかっこよくないです!

片山:まあ確かに

松原:ぐっ…なんなんですか…もう

片山:…けど…私の小説でも、そうやって評価されるのは、なんか嬉しいな

松原:え?いや、そんな…あんな素晴らしい物語、他にありませんって

片山:…「朔」の名前の由来、知ってる?

松原:え?

片山:朔って言うのは、新月の事を表しているの…新月の夜は月のあかりもない真っ暗な世界…彼は「影」なんだ…光があたらないから、どこにも映らない影…誰にも必要とされなくて、誰にも見つからない…私と同じだ

松原:…カナさん…?

片山:…ごめん、変な話をしてしまったね

松原:い、いや…

片山:…今回の新作、実は編集にも、世間にも、不評なんだ

松原:えっ?

片山:私の作風じゃないとか、期待してたのと全然違うとか…まだちゃんとした発表もしてないのに…ファンってすごいよね、どこからそんな情報手に入れてるんだろ

松原:…

片山:自分の書くものなのに、ファンの期待にも応えなきゃいけない、ってさ、考えなきゃ行けなくなって…私の作品なのに…結局また他人の目を気にしないといけなくなって……もうほっとけって思っちゃう

松原:カナさん…

片山:自分の人生、自分のものなんだ…他人に指図されたくない、決められたくない…だから今こうして、自分のしたいことしてるはずなのに、好きなことやってるはずなのに…なんで人は、人の事にちゃちゃを入れるのが好きなんだろうね

松原:…

片山:…あぁ、ごめん、別に君に言ったわけじゃないから

松原:いえ……あの、カナさん

片山:なに?

松原:…余計なお世話かもしれませんが…カナさんはもう少しだけ、人に興味持った方がいいと思います

片山:…ふん、ほんと、余計なお世話

松原:すみません…でももう少しだけカナさんが人に歩み寄れば、もっと凄いもの書けるんじゃないかなって、思ったんです…俺は、カナさんの書く小説、好きです…あなたの言葉はまっすぐで、真に迫っていて…とても綺麗です…どんなに評価が酷いものだとしても、俺はあなたの書く言葉に、あなたの小説に、たくさん救われてきました…だから、好きです

片山:…そう…

松原:…「私にとって言葉は素材…材料だ、その材料をどう混ぜ合わせ、組み合わせるのかは、キャラクター達に任せています…だって、言葉を喋るのはそのキャラクター達本人だから、私はただ、そのキャラクター達と共に、物語の流れを作って、紡いでいくだけです」

片山:…え?

松原:あなたが乗っていた雑誌の記事に、そう書いてありました…「言葉は材料」…その文字が今でも頭に残っていて…カナさんは文字で人の心を動かせるすごい人なんだなって…それと、カナさんは気難しい人なんだなって、その時思いました

片山:…きみ、大学生より役者の方が向いてるんじゃないの

松原:あはは…あ!でもそうなったら、カナさんの作品、俺が映画にしますね!もちろん俺が主演で!

片山:うーん、それはそれで先が思いやられる

松原:うっ…ひどい…

片山:まあでも…ありがとう

松原:…え

片山:…なんだいその顔は

松原:は、はじめてちゃんとお礼を言われた…

片山:まあ…これでも、いつも感謝はしてるんだけどな

松原:ほんと…分かりにくいんですよ、カナさんは

片山:人間、分かりにくいくらいがちょうどいい

松原:それはそれでちょっと困ります!

片山:あはは、冗談だよ、半分ね

松原:…ちょっと、休憩にします?

片山:んー…そうしようかな

松原:じゃ、コーヒーいれてきます

片山:うむ、頼んだぞ、下僕(しもべ)

松原:いやだから、他の呼び方にしてください!




松原(M):「半分冗談」それは一体、どこからが冗談で、どこまでが本気なのだろうか…もし俺が「カナさんのことが好きです…なんて、半分冗談です」と言ったら…彼女はどんな顔をするんだろうか…そんな事を考えながら、コーヒーをいれる…コーヒーに入れるミルクのように螺旋(らせん)を描(えが)いて、しかし交(まじ)わることなく、また時が過ぎていく…俺は、カナさんを救うことが出来るのだろうか…残り時間は、あと1日…







───新作発表後…







片山:…ただいま

松原:あ、おかえりなさい、お疲れ様です

片山:…うん…

松原:?どうしまし……!?

片山:…ごめん、先に風呂はいってもいいかな

松原:え…カナさん…なんですかそれ

片山:いや、ここに帰るまでにさ…多分ファンの子だったんだろうね…あんな新作出すなって…その、石投げられてさ…頭に当たっちゃったんだ、それでちょっと遅くなって…

松原:そんなことはどうでもいいですよ!それより、血が出てるじゃないですか!もしかして切れてるんじゃ…ふらついたりしませんか?!とりあえず、病院行きましょう!

片山:大丈夫だよ

松原:大丈夫なわけないでしょ!何かあったらどうするんです!?早く、病院に…

片山:だからほっといてっていってるでしょ!!!!

松原:!?

片山:…もう、疲れたんだよ、色々…新作発表も散々だったし…まあそもそも、そういうの苦手だから、ほんとは出たくないんだけど…で、帰り道でこのザマ…きっとみんな笑ってるよ…ざまあみろって…でも、これでいいんだ、私は私のやりたいことをやり切った…それで十分

松原:…カナさん、何言って…

片山:…こうなる事は、なんとなく分かってたんだ…でもまあ、石が飛んでくるとは、思ってなかったんだけどね…新作発表の日に私が死ぬ…そう君から聞かされた時、ああ、私はきっと今日、何もかもを無くすんだなって…

松原:カナさん

片山:…書かなきゃ良かった…小説なんて…どこまで行っても、人との関わりを断ち切れないなら、なんにもしなきゃ良かった…そうすれば君だって、私なんかのために、ここまで命をかけてこなかった

松原:っ…!!

片山:君も、もう、帰っていいんだよ…帰りなよ、自分の時代に…テセウスの船に乗ってさ…私のことはもう、ほっといていいから…

松原:…いやです、帰りません、あなたを助けるんです

片山:…また、そんなこと言って…

松原:あなたは何も分かってない!!俺のことも分かろうともしない!!他人を理解しようとしないから、壁を作るから孤立するんです!!本当は一人でいたくないくせに!!

片山:っ!

松原:俺、前にも言いましたよね?あなたの小説に救われたって…ほんとですよ、本当に救われたんです……小学生の頃…俺、いじめられっ子だったんです…毎日人に会うのが怖くて怖くてたまりませんでした…そんな時、じいちゃんから、「走馬燈楼」を貰ったんです…その本に出てくる、朔ってキャラクターに憧れて…それで頑張って俺の方からいじめっ子達に立ち向かったんです…そしたら、パタッといじめはなくなった…朔の…あの本のおかげだって、何度も思いました…それで、あなたに会いたいって、会ってお礼を言いたいって思って…けどその頃にはもう、あなたはいなかった

片山:…それで…私のところに…

松原:…分かってますよ…これは俺のエゴだって…でも…それでも…俺はあなたを助けたかった…俺は…カナさんが、好きだから…

片山:…え…

松原:…冗談です、半分

片山:…ははは…言うようになったじゃない、君も……半分、冗談かぁ…じゃ、半分は本気にしても、いいんだよね?

松原:…へ…?

片山:なんだいその顔は…

松原:いや…あの…

片山:半分だけだよ

松原:そ、そう…ですよね

片山:…ありがとう

松原:え?

片山:君のおかげで、人間と関わることも、少しはマシかなって思えてきたよ…ほんとに、ありが、と…



──片山、倒れる




松原:っ!!か、カナさん!?しっかりしてください、カナさん!!カナさん!!!



片山(M):それから何日がすぎたのだろうか…気がつくと私は、病院のベッドの上にいた…医者が言うには、あと少し打ちどころが悪ければ、あと少し病院に来るのが遅ければ、私は死んでいたらしい…本当に私は、彼に救われたのだ…医者に、私を運んでくれた若者はどうしたのかと聞くと、私がオペを受けている最中に、いつの間にかどこかに消えてしまったらしい…ただ消える前に、看護師に手紙をあずけて、それを私に渡して欲しいと頼んでいったと…





───手紙を広げる片山





片山:…カナさんへ…

松原(M):こんにちは、お元気ですか…?本当は面と向かって話したかったんですが、時間が無くて…手紙、という形になってしまう事を許してください…今頃、どうしていますか?まだ、小説は書いていますか?…あなたを救うことが出来て、俺は満足です。あなたに伝えたかったこととか、色々あったんですけど、そろそろ時間になってしまいました。俺は元の時代に戻ります。あなたの新作が出てから…多分、20年後の世界です。どんな世界か、なんて、ここで言っても分からないとは思いますが…まあ、まだそんなに、あなたの時代とは何も変わらないです。機械も、街も、人も…もし、あなたが生きていたら…また、会いたいです…1週間という短い間でしたが、お世話になりました。ありがとうございました。未来で待ってます。それじゃ、さよなら。 松原カズヤより



片山:…ふふ…未来で待ってる、かあ…君に似合わない、くさいセリフだね……そうだね…また会おう…約束だよ






─────20年後、公園のベンチに座っている松原






松原:…はぁ


松原(M):カナさんの元を去って…というか、俺が元の時代に戻ってきて1週間が過ぎた…あの後、カナさんが死んだ、というニュースや記事などは全て消えており、カナさん自身も、新作発表の後、無期限の休業、という形で、創作活動を辞め、今はどこで何をしているのかさえも分からなかった…ただひとつ言えるのは、カナさんは今もどこかで、元気で過ごしている…それだけでも嬉しかった…けど



松原:…会いたいです…カナさん……今、あなたはどこにいるんですか…なんて、冗談ですよ、半分…




──その時、背後から女性の声




?(片山←40代):…それは、半分本気にしてもいいってこと、だよね?

松原:っ…えっ…?

片山:よぉ、待たせたな、無責任ヒーロー、会いに来たよ

松原:は…?えっ!?ま、まさか…

片山:なんだいその顔は…私のこと、忘れたなんて言うんじゃないよね?

松原:そ、そんなわけないじゃないですか!むしろその…なんというか…20年経ったのに、なんか…変わらないなと思って

片山:そうかな?あの頃よりはだいぶ老けたよ…それにだいぶ落ち着いたしね

松原:でも、変わってないです…カナさん

片山:それは褒め言葉として受け取っておこう

松原:ふふ、相変わらずですね

片山:そんな事より…随分探したんだよ

松原:えっ、俺をですか?

片山:そうだよ、もうほんと、苦労したんだから…おかげで時間かかっちゃったよ

松原:す、すみません…でもなんで…

片山:あの時のお礼を、返しに来たんだよ

松原:…お礼って…

片山:…はい、これ

松原:あ、これ…本…

片山:忘れ物だよ、ちゃんと、サインも書いといた

松原:…ありがとうございます

片山:まあ、これはお礼じゃないんだけどね

松原:…え?

片山:どうやら私は、君の前じゃなきゃ、素直になれないみたいでさ…

松原:?は、はい…

片山:その…君さえ良ければ……私みたいな、もういい歳したおばさんでも良ければ……付き合ってくれませんか?

松原:…!?

片山:ダメ、かな

松原:…お、俺…

片山:…まあ君も若いし、随分待たせちゃったからね…お相手がいるなら諦めるよ…

松原:あ、相手なんかいません!!

片山:わ!?びっくりした…君は相変わらず声がデカイな…

松原:あっ…すみません……あの、カナさん

片山:…なに?

松原:…ずるいです

片山:はあ?

松原:それは!男の俺が先に言いたかったです!!

片山:……っぷ…あははは!!

松原:笑わないでくださいよ!

片山:はははっ…いや、ごめんごめん…可愛くてつい…

松原:なんなんですかもう…

片山:ごめんって、もう笑わない!……それで、君の答えがまだなんだけど?

松原:……そんなの、「はい」に決まってるじゃないですか

片山:っ…じゃあ…

松原:よろしくお願いします、カナさん

片山:……

松原:?カナさん?おーい

片山:……んで…

松原:え?

片山:っ!だから!「カナ」って呼んで!呼び捨て!

松原:へ!?

片山:…私も…「カズヤ」って呼ぶから…

松原:……ふふっ…あははは!!

片山:な、なんで笑うのよ!

松原:いや、可愛いなと思って…あははっ!

片山:〜っ…もう…からかうのは無しだから

松原:…うん、ごめん…カナ…改めて、よろしくお願いします

片山:…こちらこそ、よろしくお願いします


片山:あっ!そうだよ、忘れてた!

松原:え?

片山:実はね、カズヤに読んで欲しいものがあって…今年出そうと思ってる新作なんだけどね、発表する前に、どうしてもカズヤに読んで欲しかったの

松原:……え?ええ?!新作!?書いてたの!?

片山:うん…実はひっそりとね…まだオフレコだよ、これ

松原:そっか…そうなんだ!またカナの新作が読めるのか…嬉しいな…今回はどんな感じなんだ?

片山:ふふ、きっと読めばわかると思う、だって私たちの物語だから…タイトルはね、




片山:『 言ノ葉マテリアル』










終わり。

九条 顕彰・台本置き場

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