セピア色の雨で会いましょう
【声劇台本】セピア色の雨で会いましょう
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物語の内容にそっていれば、セリフアレンジ・アドリブは自由です。
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───偶然出会ったその人は、雨の日にしか会うことが出来なかった…これは、汚い大人たちの、綺麗な恋愛譚
演者:2人
比率:♂1:♀1
上演時間:約30分
登場人物
大原 直人(おおはら なおと) 25歳 ♂
大卒で社会人一年目、親に言われるがまま大学に入り、やりたくもない仕事をしている。どんな生活でも好きな事をして生きている琴恵に憧れる
雨宮 琴恵(あめみや ことえ) 31歳 ♀
雨の絵を描いて生計を立てている、絵描きになる事を親に反対されて家を出て、いろんな男の家を転々としてる、自分はドブネズミだと言っている
役表
大原直人:
雨宮琴恵:
〇セリフ〇
大原(M):あれは、ある夏の、大雨の日のことだった…
大原:嘘だろ…雨で全線運休とか…最悪だ…仕方ない、歩いて帰るか…
大原(M):その日は早めに仕事が終わり、いつも使っている電車が大雨で運休になってしまったので、歩いて帰ることにした…近道しようといつもは通らない公園へ足を踏み入れると…
大原:…あ…
琴恵:…
大原(M):そこには、大きなキャンパスを横に置いている女性が、公園の屋根のあるベンチに座っていた…こんな雨の日に、外で絵を描いているのか、この人は…
琴恵:…あら
大原:!
琴恵:キミも、雨宿り?
大原:…いや、俺は…その、仕事帰りです
琴恵:ふぅん
大原:…貴女は…何してるんですか?
琴恵:ふふ…何してるように見える?
大原:…雨宿り?
琴恵:ハズレ
大原:誰か待ってる?
琴恵:んー…ちょっと近い
大原:?
大原(M):その瞬間、はっと気づく、なんで俺はこの人と会話してるんだろう…いや、話しかけられたけど、無視すればいいじゃないか、こっちは仕事で疲れてるんだ…なのに、不思議とこの人から目が離せない…白のタンクトップ、短パン、少し乱れたセミロングの髪…そして、絵の具で汚れた腕…この人の何が、僕をそんなに惹きつけるのだろうか…
琴恵:…来る…
大原:え?
───その瞬間、ピカッと雷が光る
大原:っ!!
琴恵:これだ…!
大原(M):すると、その女性はすかさずキャンパスに向き直り、何かを描き始めた…
大原:…なにを書いてるんですか?
琴恵:んー?完成したらのお楽しみよ
大原:…あの、それ、楽しいですか?
琴恵:楽しくなかったらこんな雨の日にこんなとこにいないよ
大原:そうですか…
琴恵:私はね、雨しか描かないの
大原:雨しか、描かない?
琴恵:そう、晴れなんてつまらないわ、だってほら、よく見て
大原(M):そう言って、鉛筆で汚れた指で空を指さす、すると、またひとすじ、バリンという音とともに雷が走るのが見えた
琴恵:…空が、笑ってる…
大原:っ…!
大原(M):その人の顔を見た瞬間、ゾッとするものを感じた…笑ってる、そういった彼女の目は、全然笑っていなかった…むしろあれは…獲物を狩る獣のような…
琴恵:ところであなた、名前は?
大原:え?
琴恵:ここであったのも何かのご縁でしょ、一応、名前聞いとこうとかなと思って
大原:俺は…大原、直人です
琴恵:ふぅん、私は雨宮琴恵、じゃあ、大原くん、引き止めて悪かったね、また運が良ければ雨の日にでも会いましょう
大原(M):そう言って彼女はキャンパスをビニールで包むと、そのまま抱えて走っていった…傘もささずに…その姿は、みっともない、と言うよりは、かっこいい、の方に近かった…あめみや、ことえさん…また、会えるだろうか…
大原(M):次の日も、また雨だった…
琴恵:お!やぁ、青年、またあったね、今日も仕事帰りかい?
大原:は、はい…
琴恵:…なぁんか、暗いんだよなぁキミ…ノリが悪いというか…
大原:今ので何をどう乗れと…?
琴恵:ははん、さてはキミ、真面目だなぁ?
大原:…だったらなんですか
琴恵:わぁ、開き直り、可愛くない
大原:…今日も、描いてるんですか?
琴恵:当たり前よ、昨日言ったでしょ?私は雨しか描かないって
大原:そうでしたね…あの、あなたは画家さんか、何かですか?
琴恵:んー、まあ、しがない絵描きって所かな?そんな大層なもん描いてないけどね、普通に働いてる人と違って月々ちゃんとお給料が貰えるわけじゃないし、3ヶ月に1つ、絵が売れればいいかなってとこ
大原:え…じゃあどうやって生活して…
琴恵:そりゃあね?こんなオンナがすることなんて…分かってるでしょ?
大原:…?
琴恵:…鈍いわね若者、要するにね、男に色目使って、その日の宿を借りてるのよ、これで分かるかしら?
大原:…それって、いけないことじゃ…
琴恵:こうでもしないと私みたいなのは生きていけないのよ、若者のキミには分からないでしょうけど
大原:…さっきから若者若者って…あなただってまだ若いでしょ
琴恵:わたし、今年で32よ?
大原:…へ?
琴恵:ま、確かによく言われるわね、20代前半くらいに見えるって
大原:…なんか、すみません…
琴恵:別に謝んなくても…てか、キミは何しにここに来てるの?
大原:…なんとなくです…
琴恵:…ふぅん…ま、邪魔はしないでね?
大原:はい…
大原(M):そう言って、彼女はまたさらさらと絵筆を滑らせる、その真剣な眼差しが、すごく怖くて、すごく、綺麗だった
琴恵:…大原くんはさ、今何歳?
大原:…25です
琴恵:わぁ…若いなぁ…
大原:って言っても、たった5、6歳でしょ
琴恵:それでも、若いもんは若いの
大原:そうなんですかね…
琴恵:そうよ…でも、25ってことは、もう社会人だ、仕事は何してんの?
大原:…大手IT会社で働いてます…
琴恵:ふぇー、すご!将来はお金持ちかなぁ?羨ましい
大原:…別に、あんな仕事…羨ましくもなんともない…
琴恵:え?
大原:好きで働いてる訳じゃないですから
琴恵:…どういうこと?
大原:…俺だって、他にやりたいことがあったって、言いたいだけです…あなたみたいに好きな事して能天気に生きてみたかったですよ
琴恵:…キミには、私が能天気に生きてるように見えてるんだ
大原:あっ…別に、悪気があったわけじゃ…
琴恵:いいよ、別に、よく言われてるからさ…さて、雨も上がりそうだし、帰るわ
大原:え、帰るって…
琴恵:もちろん、男のとこに決まってるでしょ?…それとも、キミの家に泊めてくれるの?
大原:っ…
琴恵:…ふん…じゃあね、若者…「運が良ければ」、またいつか会いましょう
大原(M):それからしばらく、晴れの日が続いた…
────1週間後、かなりの大雨、大原は残業で終電を逃してしまい、徒歩で帰ることに
大原:ったく…なんでこんな大雨の日に残業なんだ…本当あのひと、人遣い荒いんだから…おかげで終電逃しちゃったじゃんかよ……あ…
大原(M):ふと、あの公園を見る、真っ暗で静まり返っている公園に、ちょっとした寒気を感じる…だが、今日は雨……さすがにこんな夜中に居ないだろう…そう思った…けど…気がつけば、俺は公園を歩いていた
大原:はぁ、何やってんだろ、俺…いる、かな…
大原(M):もし、琴恵さんがいるのなら…謝りたい、あの時のこと…日頃の鬱憤が溜まって、つい八つ当たりのような口調になってしまった…でも
大原:…いるわけないか、こんな夜中に……あれ…?
───大原、ふっと前を見る、屋根のないベンチに傘もささず、体育座りしてうずくまっている人を見つける
大原:…琴恵、さん?
琴恵:…え?
大原:っ!な、何してるんですか!傘もささないで!びしょ濡れじゃないですか……
───大原、ぎょっとする、琴恵の顔には殴られたような後がある
大原:琴恵さん…その顔、どうしたんですか?
琴恵:…あぁ…ちょっと、ね
大原:ちょっとじゃないでしょ!誰にやられたんですか!もしかして、前に言ってた男が…
琴恵:違う!!私が悪いの!!
大原:っ!
琴恵:…大きな声出してごめん…でも本当に、私が悪いの…だから、気にしないで…
大原:…琴恵さんの、キャンパスは?
琴恵:…
大原:…一体、何があったんですか…
琴恵:…ドブネズミだから…
大原:え?
琴恵:私はドブネズミだから、嫌われ者だから……居ちゃいけない存在だから…だから、こういうのは慣れてる…大丈夫…
大原:大丈夫って…そんなわけないじゃないですか…そんなの説明にも理由にもなってないですよ!殴られてそれでも平気なんて…そんなのおかしいです!!
琴恵:…ごめん…ごめんなさい…
大原:…うち、来ます?
琴恵:…え…
大原:こんな時間に、理由はよくわからないけど酷い目にあった女性を放ったらかしになんて出来ません、嫌ならいいですけど、俺は貴女が暴れても、抱えて連れて帰りますから
琴恵:……ふふ…優しすぎだよ、キミは…抱えてじゃなくて、ちゃんとエスコートしてくれる?
大原:…はい、行きましょ
───大原のマンションの部屋
琴恵:わああ…すごい広い
大原:とりあえず、そこで身体拭いてください、今タオル渡すので
琴恵:…ありがとう…ねえ、キミはこんな広い部屋に1人で暮らしてるの?
大原:えぇ、まあ…
琴恵:…大原くんは、彼女さんとか、いないわけ?
大原:今は仕事が恋人みたいなもんです
琴恵:ははん、な〜るほど、過去にいたけど仕事仕事で彼女さんが怒って出ていってしまった、と
大原:っ!そ、そんなこと
琴恵:図星ね
大原:……これ、元カノのですけど…良かったら着てください
琴恵:あら、元カノの服まで持っていると
大原:片付ける暇がないんです!!
琴恵:あはは、ごめんて、色々ありがとね
大原:…あと、その傷の手当もしますから、先にシャワー浴びてあったまってきて下さい
琴恵:…うん、ありがと
大原(M):そう言った彼女の瞳は、どこか悲しげだった…セピア色の瞳の向こう側には、一体、何が映っているんだろうか…
琴恵:シャワー、お借りしました、お陰様であったかくなりました
大原:…それはよかったです…少しは落ち着きました?
琴恵:…うん…
大原:傷、手当するんでこっち来てください
琴恵:…何があったか、聞かないの?
大原:それは手当しながらでも遅くないと思いますけど?
琴恵:そう、だね…
───大原、琴恵の頬の傷を消毒する
琴恵:…っ…
大原:すみません…少し我慢してください
琴恵:大丈夫、これくらい…さっきのに比べたら…
大原:…あの、今聞いても、大丈夫ですか、何があったのか…
琴恵:…父親に、見つかったの…
大原:お父さん?
琴恵:…私の家はさ、みんな医者の家系なんだ…だから私も、医療の道に進むために、有名な大学に入れさせられた
大原:…
琴恵:でもさ、私はどうしても、絵描きになりたかった…その夢を、諦めきれなかった…だから、大学をやめて、家を出たの
大原:…なんで、そこまでして…
琴恵:…縛られたくなかった、鳥籠の中にずっと居たくなかった…親が決めた道に、将来に縛られて生きて…そこには私じゃない私がいて、ただロボットのように言われるがまま働いていて…そんなの、人生損してるって思った…羽があるのに自由に飛べないなんて、そんなの辛すぎたの…
大原:…それで、なんでお父さんに見つかったんですか?
琴恵:私が身を置いていた家の男が、父親の部下だったの…それで、私がいるって知って、家に連れ戻そうとして…抵抗した私を殴って…怖くなって必死に逃げたわ…
大原:…そうなんですね…
琴恵:…あの人、ずっと私の事「家族の恥」とか「ドブネズミ」とか言ってたわ…でも否定出来ない…確かにそう、私はドブネズミ…居ちゃいけない存在なの
大原:…そんなこと、ないです、琴恵さんは素晴らしい人ですよ……俺なんて…あなたみたいに鳥籠の中から出ようとしなかったんですから
琴恵:…え?
大原:…俺も、似たようなもんですよ…親に決められた大学行って、親が希望した仕事について…でも、俺は鳥かごから逃げ出すことを「諦めた」…本当は俺、役者になりたかったんです…けど、それを親に言ったらやれ向いてないだの、将来がどうだのと……それでも、あなたみたいに突っぱねていければよかったんですけどね…疲れちゃいました、反発することに……自業自得なんですけどね…それで自分のやりたい道を自分で潰して…今こうして好きな事やってるあなたを見てると…羨ましいし、自分が腹立たしいです…
琴恵:…そんな羨ましがられるほど、綺麗な人生送ってないよ、私…
大原:綺麗か綺麗じゃないかなんて、関係ないですよ…どんなに汚くても、絵を描いている時のあなたの目は、本当に輝いていて、綺麗で…俺は、そんなあなたの目に、引き寄せられたんだと思います
琴恵:…なにそれ、誘ってるの?
大原:違います、本音です
琴恵:それを誘ってるって言うのよ、若者、こんなドブネズミに憧れたら、元も子もないわよ
大原:俺から見たらあなたはハムスターですよ(笑)
琴恵:…なら、いっそ、私が他の男としてきたのと同じようなこと、してみる?
大原:…え?
───大原、押し倒される、琴恵、上にまたがる
大原:わっ…ちょっと!?
琴恵:…こんな風に、娼婦(しょうふ)みたいに色んな男を誘惑して、手を出して、手玉にとって、お金もらって…これでもまだ、私がハムスターだって言えるの?…なんなら今すぐここでしてやってもいいのよ?
大原:…あなたは俺に、そんなこと出来ない
琴恵:っ…何言って…
大原:あなたの目を見ればわかります…あなたには、そんなこと出来ない
琴恵:……完敗よ…ごめんなさい、変なことして…
───琴恵、大原の上からどく
大原:…琴恵さん、俺はあなたのお父さんじゃないし、こんな言い方はしたくない…けど……あなたにはしっかりとした生活を送って欲しいです…好きな事やりながら、ちゃんと、生きて欲しい
琴恵:…ほんと、お父さんみたいな言い方…でも、キミに言われるのは、悪い気はしないわね…
大原:…琴恵さん…
琴恵:…ごめんなさい…色々あって疲れちゃった…休ませてもらってもいいかな?
大原:あぁ…俺の寝室使ってください…俺はここで寝ますから
琴恵:え、でも…
大原:俺のことは気にしないでいいから、ゆっくり、休んでください
琴恵:…ありがとう…おやすみなさい…
大原(M):彼女の瞳の悲しげな色は、未だ消えないままだった…琴恵さんの抱えているものが、少しでも軽くなれば…俺はそんなことを考えていた…
──次の日
大原:…あれ…琴恵さん…?
大原(M):次の日、琴恵さんは、部屋からいなくなっていた…変わりに、一枚の絵が置いてあった
大原:…雨の、ヴィーナス…?
大原(M):俺には絵心なんて全くないからよく分からなかったが、その絵には、美しい出で立ちの女性が、雨の中に立っていた…力強くでも、綺麗な顔のその女性は、雨の中だと言うのに、満面の笑みを浮かべていた
───大原、絵の裏を見る、そこには綺麗な文字で「大原くん」へ、と書かれていた
大原:なんだ、これ…手紙?
琴恵(M):大原くんへ、今日は泊めてくれてありがとう、お礼に、1枚、絵を描かせて貰いました…本当はあのキャンパスで描くはずの絵だったんだけど…父親に壊されちゃって…大原くんの話を聞いて、今日1晩色々考えてみたんだ…私、家に帰ります…もちろん絵描きを辞めるわけじゃない…ちゃんと話し合おうって決めたの…もしその結果が望んでなかったものだとしても、私は満足です…今まで自由にさせてもらったぶん、しっかり生活しなきゃね…大原くんも、まだまだ若いんだから、めげずにやりたいこと、やるんだぞ!あ、そうそう、その絵のタイトルは「セピア色の雨で会いましょう」です、良かったらもらってやってください、お金はいりません…多分、キミとは二度と会うことはないと思うから…それじゃ、ありがとう、親愛なる大原直人くんへ、愛をこめて…雨宮琴恵より
大原:…「セピア色の雨で会いましょう」…か…すごい、綺麗ですね、琴恵さん…こんな綺麗な絵……ん?
琴恵(M):P.S.
大原:まだ続きが…
琴恵(M):私が雨が好きな理由、教えてあげるね…それは
大原:それは…
琴恵(M):雨はね、何もかも洗い流して隠してくれるから…それじゃ、運が良ければまたどこかで会いましょう…お元気で…さよなら
大原:…運が良ければ…か…琴恵さんに会うならきっと、雨の日なんだろうな……また、あなたに会いたいです、琴恵さん…
大原(M):その後、琴恵さんがどうなったのか、どこで暮らしているのか、やりたいことを続けられているのかは不明である…そんな俺はと言うと、親を説得し、今の会社を辞めて、役者としての第1歩を踏み出した。琴恵さんのお陰で、もう一度だけやってみようと、チャンスを掴もうと決めた…あの雨の日に、琴恵さんに出会わなければ…今の俺はないだろう…彼女は今どこで何をしているのか…僕はもう一度、あなたに会いたい、会って、伝えたい事がある…俺は雨の日になると、必ずあの公園に足を運ぶ…運が良ければ…また、あなたに会える気がするから…
琴恵(M):セピア色の雨で会いましょう
─────降りしきる雨の中、琴恵と出会った公園に、傘もささずに立っている大原…その後ろ姿を見ている人物が1人…近いとも遠いとも言えない距離の中、2人は雨の音の中に消えていく…
おわり
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