4月1日~嘘つきからの手紙~


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──ある日、私の元に届いた一通の手紙…それは、去年亡くなった、私の婚約者からでした…





演者 2人

比率
♂:1 ♀:1

上演時間:約30分




登場人物
アリッサ ♀
ベクター ♂


※今回泣きの演技が終盤にあります…が、好きなように演じてください…難しいことを要求してしまって大変申し訳ございません…



 

役表
アリッサ:
ベクター:






セリフ



アリッサ(M):これは、とある夫婦の、結婚記念日のお話…4月1日…エイプリルフールの日の、お話…





アリッサ:んー、今日は何だか少し寒いわね…えっと、今日届いた郵便は、っと……!…この、便箋(びんせん)は…




アリッサ(M):突然届いた、夫からの手紙…それは、「届くはずのないもの」だった





── 一人の女性が、暖炉の前の椅子に座っている。手にはひとつの便箋、差出人の名前は、ベクター・リオネル






アリッサ:…アリッサ・リオネル様…ベクター…なんで、今更手紙なんて…





──封筒を開けるアリッサ





アリッサ:…『アリッサ・リオネル様…君が今、この手紙を読んでるってことは、今日が4月1日の午後で、僕はもう、この世にいないってことだ……』






───ベクターの手紙のM






ベクター(M):───アリッサ・リオネル様、君が今、この手紙を読んでるってことは、今日が4月1日の午後で、僕はもう、この世にいないってことだ…そういえば、今日は結婚記念日だったね!…なんでエイプリルフールの日に、君に結婚を申し込んだりしたんだろうか(笑)…あの日、君を大学で見かけてから、ずっと好きだった…一目惚れだったんだ…勇気出して思い切って告白したのに、嘘つき、なんて思われるとはな(笑)…あの時のことは、今でもよく覚えてるよ…

 






──回想シーン、大学時代の2人…2、3秒間を開けて







ベクター:あ、アリッサ!あのさ…君に話があるんだけど…

アリッサ:ん?なに?

ベクター:あの…その…

アリッサ:?…ふふ、なぁに、じれったいわね〜、ベクターらしくない、一体どうしたの?

ベクター:……っ…ぼ! 

アリッサ:ぼ?

ベクター:…(深呼吸)…僕と、結婚を前提に、付き合って欲しいんだ!

アリッサ:…え……?

ベクター:だ、だからっ…そのっ…僕のお嫁さんになってください!!

アリッサ:…ぷっ…あはは! 

ベクター:な、なんで笑うんだよ…

アリッサ:だって、まるで子供みたいに言うんだもの!あはは!

ベクター:おまっ…こっちは真剣なんだぞ!

アリッサ:…え?

ベクター:えっ?て…だから、本気なんだ…君を、僕のお嫁さんに欲しい

アリッサ:…本気……え、本当に…?

ベクター:こんな時に嘘ついてどうするんだよ!ああ、もう…今までの人生の中で1番勇気を使ったのに、なんだか言って損した気分だ…

アリッサ:ご、ごめんなさい!あの、私てっきり、今日がエイプリルフールだから…冗談なのかと…

ベクター:…え?……あ!うそ…今日ってまさか…4月1日!?…うわあ…最悪だ…あっ!いや!本当に本気なんだ!だからその…うああもう…やり直してえ…

アリッサ:…いいわよ…

ベクター:…へ?

アリッサ:っ…だから!…あなたのお嫁さん…なっても、いい…

ベクター:…本当に…?

アリッサ:確かに、今日はエイプリルフールだけど、だけど!…私も嘘はついてない…本当に、本気よ、ベクター

ベクター:………

アリッサ:ベクター?返事くらいしなさいよ?

ベクター:…ぃっ……やったぁぁぁぁ!!!

アリッサ:ふぇ!?なに!?

ベクター:アリッサ!君を必ず幸せにするよ!!




──喜びのあまり大声を上げ、アリッサの両手を握りしめるベクター





アリッサ:っ!はっ!?ちょ、ベクター声大きい、はずかしい…

ベクター:あはは、ごめんごめん、アリッサ、改めて、これからよろしくお願いします

アリッサ:…うん、こちらこそ…よろしくお願いします






──回想終わり






アリッサ:…ふふ、確かに、そんなことあったわね…あの時のことは私もまだ覚えてるわ…本当は、ちょっとだけ、冗談だと思ってたけど…あれだけ熱のある告白だったもの…冗談なわけ、ないのにね…






───ベクター、手紙のM、アリッサと手紙で会話するような感じ







ベクター(M):そんなこんなで、まぁ、色々あったけど、君と過ごした時間は、すごく眩しくて、楽しい日々だった…けど、もう結婚記念日、かぁ…1年が経つってのは、早いもんだなぁ…今日は…ご馳走(ちそう)、だったのかな?(笑)例えば、ハンバーグとか?

アリッサ:ふふ…ええ…そう…ご馳走…に、するはずだった…あなたの大好きなハンバーグよ…

ベクター(M):あはは、そうだろうな…君は僕のことはなんでもお見通しなんだなぁ…でも、君こそ、ハンバーグ以外まともに作れないじゃないか(笑)

アリッサ:まあ、ほんと、意地悪(いじわる)な言い方ね…これでも、最近はなんでも作れるようになったのよ?

ベクター(M):そうか、でも…もっともっと、君の手料理を食べたかったな…何故、こんなことになってしまったのか…事の発端(ほったん)はあの日…僕らが結婚して間もない頃だったね…

アリッサ:…そう…あの日…あなたの誕生日の日に……あなたは私の目の前で倒れたのよね…慌てて救急車を呼んで、それで…ほんと、飛んだサプライズだったわ…






──回想シーン、病院にて…2、3秒間を開けて








ベクター:……ここは…?

アリッサ:!!ベクター!気がついたのね!? 

ベクター:…あぁ、おはよう、アリッサ…

アリッサ:っ…おはようじゃないわよ!…すごく心配、したんだから…

ベクター:あはは、すまない…それで、ここは? 

アリッサ:病院よ…あなた、急に倒れたから……慌てて救急車を呼んだの…

ベクター:そうだったのか…

アリッサ:身体の調子はどう?

ベクター:…うーん…頭が少しぼーっとしてる感じ…でも、もう大丈夫だ、ごめんな、アリッサ

アリッサ:謝らないでベクター、きっと、仕事の疲れが溜まってたんだわ…私のことは気にしないでゆっくり休んで

ベクター:あぁ、そうするよ……ごめん…






──回想終わり






ベクター(M):……実は、あの時、君にひとつだけ、嘘をついていたことがあるんだ……僕が倒れた理由、そして、僕の病の事…本当は、僕自身すでに分かっていたんだ…


アリッサ:えっ…どういう事…?


ベクター(M):ある時、身体に違和感を感じて、病院へ行って…余命わずか、もう治る見込みはない…そう医者に言われた時は、すごく辛かった…


アリッサ:そんな…あなたは知っていたのに…何故それをすぐに私に言わなかったの…?


ベクター(M):君に心配をかけたくなかった…泣かせたくなかったんだ……君の前では平然としていたけど……本当は、君を1人にしてしまうと言う恐怖と、病の痛みで苦しかった…辛かった…怖かった…本当、もっと早く言うべきだったね…遅くなって、ごめん


アリッサ:…本当に…今更、遅いわ、ベクター…


ベクター(M):…ねぇ、去年のエイプリルフールの時のこと、覚えてるかい?


アリッサ:ああ…あの日ね…あれは、ひどい嘘だったわ…






───回想シーン、病院にて…2、3秒間を開けて






ベクター:…ゲボっ…





──ドアのノック音、アリッサが入ってくる





アリッサ:こんにちは、ベクター、お見舞いに来たわよ

ベクター:…あぁ、アリッサ、いらっしゃい

アリッサ:ふふ、今日はリンゴを持ってきたの、好きでしょ?

ベクター:はは、君は本当に、僕のことはなんでもお見通しなんだな(笑)

アリッサ:ふふふ、自慢の奥さんでしょ?

ベクター:自分で言うのか(笑)

アリッサ:いいじゃない、別に、今、皮を向くわね

ベクター:…なぁ、仕事、大変じゃないか?

アリッサ:あぁ、ちょっとね、でも、平気よ、あなたのためですもの、こんなの全然苦じゃないわ

ベクター:…ごめん、君に、僕の代わりに働かせてしまって…僕がこんな体じゃなければ…

アリッサ:なぁに、どうしたの急に?大丈夫よ、お医者様も根気よく付き合って行きましょって言ってたじゃない!めげずに頑張りましょう?ね?………ベクター?

ベクター:……もう、頑張れないんだよ、アリッサ…僕はもう、ダメなんだ…

アリッサ:…なに、それ……どういう意味…?

ベクター:今日、医者が言ってた…僕はもう、あと3ヶ月も持たないだろうって… 

アリッサ:!?…そんな……そんなの嘘!!なんでそんな事言うの!!あなたは大丈夫よ!まだ若いんだし、体力があるから、治る可能性も充分にあるってお医者様が言ってたじゃない!……そんな…そんなのって…

ベクター:……なぁんてね♪

アリッサ:…え…?

ベクター:あはは、嘘だよ、うーそ!ほら、アリッサ、今日は何月何日?

アリッサ:え…今日?…4月1日……ああ!!もう!ベクター!心臓に悪い嘘は止めてよ!!

ベクター:あはは!ごめんって!

アリッサ:はぁ、もうほんとに…なんでそんなひどい嘘つくの…本気で心配したじゃない…

ベクター:…ごめんな、アリッサ……でも、この嘘は、エイプリルフールのジンクスを信じて言ってみたんだ!

アリッサ:…エイプリルフールの、ジンクス?

ベクター:うん、エイプリルフールについた嘘は、1年間、本当にならないんだってさ!ということは、僕はあと1年間、絶対に死ぬことは無い、いや、下手したら病気が治って退院するかもしれない、ってこと!

アリッサ:…それ、私を慰(なぐさ)めてるつもり?

ベクター:うぅ…本当にごめん…確かに、これはひどい嘘だった

アリッサ:…ふふ、そのジンクス、本当だったら最高ね!

ベクター:!…あぁ、そうだな、あはは!

アリッサ:…ねぇ、ベクター

ベクター:ん?

アリッサ:このジンクスが本当になって、あなたの病気が治ったら、一緒に、旅行に行きましょう、長い旅行!

ベクター:…あぁ、いいね!行こう!

アリッサ:後、水族館にも行きたいわ!

ベクター:はは、君は行きたいところが沢山あるんだな

アリッサ:そりゃそうよ!…あなたとの思い出、まだまだこれからなんだもの…行きたいところも、見たい場所も、たくさんあるわ

ベクター:…そうだね、たくさん出かけよう、アリッサ

アリッサ:…あ、そろそろ時間になるから、今日は帰るね、また明日、ベクター

ベクター:あぁ…またね、アリッサ






───回想終わり…(…ここからだんだん感情がたかぶって泣きの演技でお願い致します…)






アリッサ:「またね、アリッサ」…それが、あなたの最期の言葉だったわね……結局、ジンクスの魔法は効(き)かなかった……あの嘘の日からすぐに容態が急変して…あなたは本当に、私の目の前からいなくなったわ……綺麗な顔で、目の前で、息を引き取った………何が…何がエイプリルフールのジンクスよ……何が嘘は本当にならない、よ……あなたを失って1年、私がどれだけ悲しんできたと思ってるの…?それなのに、死んだ後に手紙を届けるなんて……すごい嬉しいサプライズだわ…さすが、私の旦那様ね…


ベクター(M):…本当に君には、嘘をつきっぱなしにして悪かったと思ってる…君を1人にする訳にはいかない…そう思って頑張ったんだけど……運命ってやつは時に残酷で…身体は悪くなる一方だった…だから、今までの嘘を、守れなかった約束を、この手紙に詰めこむことにしたんだ…ごめんな…本当にごめん、一緒にいることが出来なくて…水族館にも…旅行にも、連れて行けなくて…もっともっと、君と、たくさん思い出を作りたかった…もっともっと、君に言いたい言葉がたくさんあった……はは、ほんと、汚い字でごめんな…痛みで手が震えて、上手く書けないんだ…


アリッサ:…っ…いいのよ…ベクター…あなたは本当に、よく頑張ったわ…あなたのついた嘘は、最期まで、本当に綺麗な嘘だった……私は、あなたの妻で本当に良かったわ……あのね、私、あなたに、言いたいことがあるの


ベクター(M):…もっと書きたいことが!伝えたいことがたくさんあるんだけど…ごめん…もう、限界みたいだ……けど、最期に、これだけは言わせて…



(できれば同時に言ってください)
ベクター:君に出会えて良かった…
アリッサ:あなたに出会えて良かった…





アリッサ(M):これは、とても優しい、嘘つきの夫と、とても優しい妻の、幸せな結婚記念日のお話…4月1日…エイプリルフールの日の、お話…







-終わり-


九条 顕彰・台本置き場

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