声劇台本 ろくでなしマイヒーロー 章ノ弐 隠の王-なばりのおう-

ろくでなしマイヒーロー 章ノ弐 隠の王-なばりのおう-

作:九条顕彰


△はじめに…

こちらは声劇台本となっております。

この作品は著作権を放棄しておりません。

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ネット上での上演の際、台本の使用報告はなしでも構いませんが、なにか一言あるととても励みになります。飛んで喜びます。

物語の内容にそっていれば、セリフアレンジ・アドリブは自由です。

ただし、大幅なセリフ改変・余計なアドリブを多く入れることはおやめ下さい。



───これが「終わり」じゃない…「始まり」だ。



〇あらすじ

―――石塚が亡くなってから三か月が経った。石塚から未解決課を任された瀬名と皆森は、相変わらずの日常を送っており、瀬名も、石塚を目の前で失った時の心の傷がようやく癒えようとしていた頃、未解決課に『藤原和彦』という人物が、石塚のあとがま兼瀬名たちの新しい上司という名目で、捜査一課から新たに移動してきた。移動の理由は詳しくは話さなかったが、聞くところによると、若かりし頃の石塚の元上司らしい。

そこへ捜査一課から未解決課へ新たな事件再捜査の依頼が舞い込む。

今回の事件は1年前に起きたアシンメトリー殺人事件。20代後半~30代前半の男性のみを狙った狂気的な殺人事件だ。再捜査の理由は、1年前まで音沙汰のなかったこの狂気的事件と似たような殺人事件が起こったためであった。

上層部からの命令で、元々この事件の担当刑事であった捜査一課の鈴木美緒が加わり、捜査一課と未解決課による合同捜査が開始する。

瀬名は、皆森や藤原、鈴木、そして悪友である川石の協力の下、この猟奇的殺人犯に立ち向かっていくのだが…彼が目にした光景とは、一体…。

ようこそ、ろくでなしの世界へ…。



〇上演時間:約1時間



〇比率:♂2:♀2 4人



〇登場人物


瀬名京介 ♂28歳

(せな きょうすけ)

※瀬名役の人が橘 竜胆と兼ね役


皆森梓 ♀ 25歳

(みなもり あずさ)


鈴木美緒 ♀ 29歳

(すずき みお)

※鈴木美緒役の方は兼役で川石ユウも演じていただきます。


※川石ユウ ♀ 年齢不詳

(かわいし ゆう)


藤原和彦 ♂ 40歳

(ふじわら かずひこ)

今回から初登場。瀬名たちの新しい上司。どこか石塚真琴と雰囲気が似ている。煙草は大嫌い。



〇役表

瀬名京介/橘竜胆:

皆森梓:

鈴木美緒/川石ユウ:

藤原和彦:




〇本編



瀬名(M):あんな悲劇は、もう二度と起こらないと思っていた…だが、間違いだった…。あれはまだ、物語の序章に過ぎなかったんだ…。



――――数ヶ月前、警視庁未解決課



瀬名(M):石塚さんが亡くなった…俺が殺したあの日から、三ヶ月が過ぎた。未解決課は相変わらず、膨大な量の資料整理に追われていた。解決された事件、未解決になってしまった事件…。俺は色んな事件ファイルを整理していく日々の中で、あの日の、石塚さんとの会話を忘れようとしていた…。けど、忘れられない…毎日、夢に見るたびに思い出す…。あの日の、石塚さんの顔を…石塚さんの、悲痛な叫びを……。



皆森:…なさん…瀬名さん…起きてください、瀬名さんってば!


瀬名:…んぁ?


皆森:はあ、まったくもう…。仕事中に昼寝なんて、いい度胸してますよね、ほんと。


瀬名:ああ…わりぃ。ここ最近、寝れなくてな…。


皆森:え、そうなんですか?…大丈夫ですか?


瀬名:まあ、こうやって、こっそり昼寝してるから何とかなってはいるがな。


皆森:う、うぅ…そういう風に言われると、これから昼寝という名のサボりを注意できなくなるじゃないですかぁ!そういうとこずるいですよ、瀬名さんはっ!


瀬名:なんなんだよ、お前はよ!


皆森:あ、それはそうと、あの噂、聞きました?


瀬名:…噂?何の話だ?


皆森:あ、瀬名さん、やっぱり知らなかったんですね。なんでも捜査一課からこの未解決課に、新しい人が入ってくるそうですよ。


瀬名:は?こんな中途半端な時期に、人事異動?…上は一体何を考えてるんだ、ったく…。


皆森:んで、これも噂なんですけど、その人…どうやら石塚さんの「あとがま」で異動になったらしいです。


瀬名:っ!…あとがま…そう、なのか…。


皆森:…どんな人なんでしょうね、その人。


瀬名:さぁな。


皆森:え、興味ないんですか!?新しい上司ですよ!?


瀬名:別に、そうじゃないが…ただ、どうでもいいだけだよ。


皆森:それを世間では興味がないっていうんですよ!


瀬名:うるせえな…はいはい、悪かったな、興味なくて。


皆森:瀬名さんは、もう少し人に興味持ったほうがいいと思います!


瀬名:だから悪かったって…もうこの話はやめだ、ほら、仕事するぞ仕事。


皆森:えぇ~。


瀬名:みーなーもーりー?


皆森:わかりました、仕事しますよお。も~、折角盛り上がってきたとこだったのにぃ…。


瀬名:……。



瀬名(M):本当に興味がない、というわけではなかった。ただ、気になったのだ…。こんな珍しい時期の人事異動、そして、石塚さんの「あとがま」、というワードが…。それから、二日経った日のことだ。…あの人がこの未解決課にやってきたのは…。



―――二日後、藤原、未解決課に異動の日…



藤原:…さて、まずは自己紹介だな。どうも、初めまして。本日付で未解決課に異動になった、藤原和彦です。捜査一課では、まあ、それなりにキャリアやらせてもらってました。今回の異動については、俺も詳しいことは知らんが…、あの石塚の「あとがま」、なんて言われてるらしいな…。ということで、これから俺が、お前らの上司になる。とはいえ、まだ右も左もわからない新米同然だ、お手柔らかに頼む。…てなわけで、よろしくなっ


皆森:よ、よろしくお願いします!


瀬名:…うす。


藤原:えーと、皆森ちゃんと、瀬名ちゃん、だっけか?…石塚の件に関しては…本当に大変だったな…。ま、俺のことは、口うるさいおっさんとでも思って、気軽に接してくれ。


皆森:ええ!お、おっさんだなんて呼べませんよ、それに全然そんな年には見えないですよ?


藤原:あら、皆森ちゃん、嬉しいこと言ってくれるじゃないの~。…けど、実はこう見えても俺、40歳なんだわ(笑)


皆森:…え、え!?そうなんですか!?し、失礼しました!


藤原:あはは、いいのいいの。気にしないでな。あ、あと瀬名ちゃんも、よろしくな。


瀬名:…よろしくっす。


藤原:…なんだなんだぁ?暗いなぁ瀬名ちゃんは~。そんなに愛想悪いと、おじちゃん泣いちゃうぞぉ?


瀬名:…どうぞご勝手に。


皆森:ちょ、瀬名さん!これから上司になる人に向かって、そんな失礼な言い方…!


藤原:ははは、まぁまぁ落ち着いてよ、皆森ちゃん。俺は気にしてないからさ。…けど、石塚から聞いた通りだな。こりゃ、懐くのに時間がかかりそうだ。


皆森:え…?藤原さんは、石塚さんのこと、知ってらっしゃるんですか?


藤原:ああ、まあね…。俺ね、あいつが…石塚が新米で捜査一課にいた時の元・上司なんだわ。


瀬名:…!?


皆森:へぇ!そうなんですね!…石塚さん、自分のことあんまり話さない人だったから。


藤原:そうだったのか?俺は、石塚がペーペーの新米刑事の頃からの付き合いでなぁ、あいつがこっちに異動になった後も、色々相談に乗ってたんだ。…そういや、お前らの話もよく聞いてたよ。可愛くて面白い部下たちに囲まれて、毎日楽しい、ってな。


皆森:あはは、かわいいって…石塚さん、そんな風に言ってたんですか?…懐かしいなぁ…。


瀬名:…やめろ…その名前を出すな。


皆森:え、瀬名さん?


瀬名:俺の前で、石塚さんの話はするな。


皆森:っ!!


藤原:…瀬名ちゃん…?


瀬名:…っ…。すんません、気分悪いんで…ちょっと外の空気吸ってきます。



―――瀬名、出ていく。



皆森:あ、ちょ、瀬名さん!!……行っちゃった…もう…ほんとにすみません…。


藤原:あぁ、いいよ、ほんとに。気にしてないから。


皆森:…けど…。


藤原:…はは、ちょっといじめすぎちゃったかな?


皆森:え?


藤原:…今回の石塚の件、さ…。ホントは上の人間から聞いてんだ、ぜーんぶ。…石塚が何をしたのかも…瀬名ちゃんが、石塚を射殺したってことも。


皆森:!!


藤原:…ん?…あぁ、別に、瀬名ちゃんのことを責めるとか、咎めるとか、そんなんじゃないよ?…そろそろ、乗り越えてもらいたいんだ。…もう、許してあげてほしいんだ、石塚のこと…自分のこと。…そのために、俺がここに居る。


皆森:え…それって…。


藤原:さ、皆森ちゃん、仕事するぞ、し・ご・と!


皆森:!?で、でも瀬名さんが…。


藤原:あー…あいつのことは俺に任せて?な?皆森ちゃんは、仕事!…頼んだよ?


皆森:…はい、お願いしますっ



―――瀬名を追いかける藤原



藤原:…お、いたいた。


瀬名:…。


藤原:よう、瀬名ちゃん、なーにしてんの?


瀬名:…別に。


藤原:あ、そ……。おっ、ちょうど自販機あるじゃん!…ねえ瀬名ちゃん、コーヒー飲む?


瀬名:…いいっす。


藤原:そうかあ、いらないかあ。それじゃ、俺だけ買おうかな。うーん、どれ飲もうかな?


瀬名:…。


藤原:…。


瀬名:…あの、さっき、は…。


藤原:さっきはごめんな、瀬名ちゃん。


瀬名:…!


藤原:…嫌な事、思い出させちゃったよな。


瀬名:…いえ…俺の方こそ、すみませんでした。上司に対して…。


藤原:はは、なんで瀬名ちゃんが謝るのよ。君は何も悪くない、悪いのは俺だ。


瀬名:…でも、


藤原:石塚の件、ほんとは知ってたんだ、全部。


瀬名:!!


藤原:…知ってて、名前、出したんだ…。あんな風に言って…黙っていて、すまない。


瀬名:……。


藤原:なあ瀬名、もう、いいんじゃないか?


瀬名:…何がですか?


藤原:自分のこと、許してやっても。


瀬名:っ!


藤原:石塚のこと、許してやっても…。


瀬名:…なんで…そんな事…。


藤原:わかるかって?…わかるさ…俺は石塚の元・上司で…これからお前の上司になるんだぞ?


瀬名:っ!


藤原:…確かに、あいつの、石塚のしたことは大罪だ。そんで、お前のしたことは…間違いだったかもしれない…。けどな、いつまでも過去にとらわれるな、引きずるな。過去の時間の中に、自分を置いたままにするな。…いいか、いくら過去にすがろうとも、囚われていようとも、時間というのは残酷にも止まらずにどんどん進んでいくんだ。このままじゃお前、現在にも、未来にも置いて行かれるぞ。…過去のことを絶対に考えるな、とは言わないが…何のために石塚は、お前に未解決課を託したのか考えろ…。少しは、あいつの気持ちも、意志も汲んでやれ。


瀬名:…石塚さんの、気持ち…意志…。


藤原:…って、新参者の俺が偉そうなこと、言えた義理じゃないけどね。


瀬名:…いえ…そんなこと、ないっす…。


藤原:…まあ、あれだ。…大切な人を失う気持ちは俺も知ってるから…お前の気持ちもよくわかる。


瀬名:大切な、人?


藤原:…俺も…恋人を亡くしてるんだ、もうずいぶん昔の話だが。


瀬名:っ!!


藤原:…あの時の犯人は、未だに捕まってない…だから、俺の目の黒いうちに、必ず捕まえてやるんだ…必ずな。


瀬名:藤原さん…。


藤原:…おっと、変な話しちまったな。すまん、忘れてくれ。…とにかく、だ。瀬名ちゃん、今は自分がやるべきことを優先しろ…石塚も、それを望んでるはずだ。


瀬名:…そうですね…すみませんでした。


藤原:いいんだよ、謝らなくても。…さて、じゃ、そろそろ仕事に戻るぞ。


瀬名:…はい。



瀬名(M):ふと見えた、藤原さんの悲しげな横顔…。その顔に何故か、石塚さんの面影を感じてしまった。こうして、俺たちは、この新しい上司を未解決課に迎え入れた。それから数日たった、ある日のこと…。



藤原:よ、みんな、おーはよ♪


皆森:藤原さん、おはようございます!


瀬名:…はよっす。


藤原:こーら瀬名ちゃん、挨拶くらいちゃんとしなさい。


瀬名:…てめぇは俺の母親かよ(←ボソッと)


藤原:聞こえてんぞぉ瀬名ぁ?


瀬名:…スイマセンデシタ。


皆森:ん?藤原さん、その資料の箱なんですか?


藤原:おー、そうだったそうだった。実はな、うちに未解決事件の再捜査の依頼が来た。


皆森:え!?そうなんですか!!


瀬名:声がでけぇぞ皆森…。


皆森:うっ…すみません、久しぶりでつい、嬉しくて…。


瀬名:ったく…で、事件の内容は?


藤原:あぁ、今回の事件は一年前に起きた「アシンメトリー殺人事件」だ。


皆森:アシンメトリー殺人事件?


瀬名:なんだお前、知らねえのか?結構有名になった事件だぞ?


皆森:えぇ?そんな大きな事件なら、忘れるはずないんですけど…一年前ですよね?


藤原:そう。皆森ちゃんは覚えてないか?『アシンメトリー殺人事件』。20代後半~30代前半の男性のみを狙った、連続殺人事件だ。通りかかった男性を人気(ひとけ)のない建物に連れ込み、鋭利な刃物で腹部をめった刺しにし、その後、身体の右半分だけの皮を綺麗に剥いで、死体をロープで逆さづりにし、めった刺しにした腹部に造花を挿して飾り付ける、っていう狂気的な犯行だった。


皆森:うげぇ…なんですかそれ…。本物のサイコパスじゃないですか…。


瀬名:ああ、確かに、この犯人は紛れもないサイコパスだな…。しかも殺された被害者全員の仕事や、特徴、色々調べたが、特に何か関連性があるようなものは何もなかったし、犯人の活動サイクルも現場も、ばらばらだったって話だ。


藤原:まさに「計画性なしと見せかけた、計画のある通り魔殺人」ってやつだな…。そいつは一年間で25人の男性を殺し、その後、霧のように行方をくらました…。捜査一課の方でも全力で捜査にあたったが、事件は迷宮入り。資料はそのまま、未解決課に送られた。


皆森:へえぇ…。え、でも、その一年前の事件が、なんで今になってまた再捜査なんですか?


藤原:…まだマスコミには気づかれてないから、ニュースにはなってないみたいだが…。先日、一年前と同じ手口の事件がまた都内で起こったんだ。


皆森:え!?


瀬名:!


藤原:被害者(ガイシャ)は一年前と同様、20代後半の男性で、ナイフで腹部をめった刺しにされていた。しかも、右半分の皮膚を剥がされ、ロープで逆さづり…腹の刺し傷には、同じように造花が飾られていたそうだ…。


皆森:そ、そんな…。


瀬名:…被害者の身元は?


藤原:今、捜査一課が全力で調査してる最中だ…。なんでも、被害者の身元がわかるようなものは、丸ごと全部なくなってるんだそうだ…。ま、なんにせよ俺たちの仕事は、今回の犯人と、一年前の犯人が同一人物かどうかを調査することだ!


皆森:り、了解です!


藤原:…それでだ、これがまた厄介な事なんだが…。


瀬名:?


藤原:上からの命令で、今回は捜査一課との合同再捜査になる。


皆森:へ…えぇぇ!?


瀬名:うわ、マジか…。


皆森:で、でも!過去の、未解決事件に関しては、うちの管轄じゃないですか!


藤原:まあ、上からの命令だからな、仕方ないでしょ。俺もさ、下手にキャリア側の奴らとは、無駄な争いしたくないのよ…。わかってくれるよね?


皆森:うっ…まだ納得できませんが…藤原さんがそういうのであれば…。


藤原:ありがとね、皆森ちゃん。瀬名ちゃんも、わかってくれな?


瀬名:…うす。


藤原:さてと、早速だけど今回の合同再捜査、うちの課に一人、捜査一課のヤツが来ることになってる。たぶんそろそろ来る頃だと思うんだが。


皆森:捜査一課の人が?その人って、どんな人ですか?


藤原:あぁ、俺が捜査一課にいた時の元・部下なんだが、元々この事件を担当していたやつで…。



——その時、ドアをノックする音。



鈴木:失礼します。



―――美緒、入ってくる



鈴木:本日より、アシンメトリー殺人事件の合同再捜査のため、捜査一課から未解決課に派遣されました、鈴木美緒です。よろしくお願いします。


藤原:おぉ!美緒!久しぶりだな、元気にしてたか?


鈴木:はい、お久しぶりです、藤原さん。


皆森:…この人が、あの事件の担当刑事?


瀬名:鈴木美緒刑事…噂は聞いていたが、まだ若いんだな。


皆森:瀬名さん、あの人知ってるんですか?


瀬名:あぁ、噂でだけどな。いろいろな難事件やサイコパス事件の犯人を次々と捕まえている、エリート刑事がいるって。


皆森:そ、そんなにすごい人なんだ…。


瀬名:ま、人は見た目に寄らねえな。


鈴木:…?そこの二人、何の話をしているのかしら?


皆森:い、いえ!なんでもありません!よろしくお願いします、鈴木刑事!


鈴木:ふふ、そんなにかしこまらなくても大丈夫よ…。ええと、皆森さんと、瀬名さんね。藤原さんから色々話は伺ってるわ。…まずは謝らせて。あなた達の管轄に入ってしまってごめんなさい…。でも、事件解決のためには、あなた達の力が必要なの。ご協力よろしくお願いします。


皆森:わああ!あ、ああ、頭をあげてください!大丈夫です!犯人逮捕のためなら私たちも全力で協力します!!


瀬名:うるせえな…お前はまず、声のボリュームを何とかしろ皆森。毎回毎回、隣の部屋にも聞こえるような声で喋りやがって。


皆森:んな?!失礼な!そんなことないです!瀬名さんが静かすぎるせいですよ!!


瀬名:俺が悪いのかよっ


鈴木:…ふふふ、あなたたち良いコンビね。見ていて飽きないわ。


皆森:わああ!そ、そんなことないですよ?!…ほら、鈴木さんになんかいろいろ勘違いされるじゃないですか!どうしてくれるんですか瀬名さん!!


瀬名:だからなんで俺なんだよ、俺に振るなよっ


鈴木:あはは…。本当に、面白い部下ですね、藤原さん。


藤原:そうだろ?…こうして見てると、昔のお前と「あいつ」を見てるようだな…。


鈴木:…そうですね…私たちも、あんなふうに見えてたんですかね…。


藤原:あぁ、そうだな…。お前らは、すごく良いバディだったよ。…さ!雑談はこの辺にして、さっそく会議だ。皆森ちゃん、捜査資料出すの手伝ってくれる?


皆森:あ、はい!わかりました!



―――皆森、捜査資料や写真をデスクに広げる。



藤原:…ふーん…改めてこうして見ると、本当におぞましい光景だよな。


皆森:ええ…そうですね…。


鈴木:…けど…美しくもある。


瀬名:は?


鈴木:そう思わない?まるで美術展に展示されてる造形物のようで…とても美しい。


瀬名:…何言ってるんだ、あんた。


皆森:ふ、不謹慎ですよ、鈴木さん…。


鈴木:…そうね、確かに不謹慎だったわ…ごめんなさい。


藤原:はいはい、その辺にしとけよ~、お前ら。合同捜査初日から、面倒ごと起こすのはごめんだからな?んじゃ、手分けして捜査にあたるぞ、俺と皆森ちゃんは被害者の身辺や共通するものを調べる。美緒ちゃんと瀬名ちゃんは、犯人の手掛かりになるものを探してくれ。


皆森:了解です!


鈴木:わかりました。


瀬名:…うす。



――――皆森、藤原、今回の被害者とこれまでの被害者との共通点を捜査している



皆森:う~ん…やっぱり、今回の被害者も、これまでの被害者も。仕事も、住所に家族構成、特徴もバラバラ…これと言ってターゲットとしての共通点は見つかりませんね…。


藤原:そうだなぁ…別の視点からまた洗い直すか。


皆森:了解ですっ。…あの、聞いてもいいですか?


藤原:ん?何?俺のスリーサイズが知りたいって?


皆森:いや違いますよ!?てか、そんなこと一言も言ってませんけど!?


藤原:あはは、ごめんごめん。冗談だよ皆森ちゃん、そんなおっかない顔すんなってぇ!


皆森:まったくもう…。


藤原:んで、聞きたいことって何?


皆森:あ、はい…その…鈴木さんのことです。


藤原:美緒のこと?


皆森:はい


藤原:…ほーん…あいつの何を知りたいの?


皆森:その、どういう人なのか、とか…。


藤原:ああ、そういうことね…。うーん、そうだなぁ…。まあ、俺が捜査一課で初めて会ったころから、あんな感じだったな…クールというか、なんというか…。


皆森:そ、そうなんですね。


藤原:…まあ、あいつもあいつで、いろいろあったからな…。


皆森:いろいろ、ですか?


藤原:…三年前の話なんだけどね…当時、美緒とバディを組んでたやつがいたんだが…そいつが犯罪に手を染めてしまってな…。


皆森:…え…?


藤原:そいつは「警官」に銃を発砲しようとして、撃たれて死んじまったんだが…。美緒からしたら、大切な相棒だったからな…。…あれ以来、あいつはどんな捜査でも、バディを組まず、一人で行動することが多くなった。


皆森:そ、そんなことが…。


藤原:ま、今は元気になったみたいだから安心だけどね?…けど、あの頃のことは、美緒には触れないであげてくれ。ああみえて、結構ガラスのハートだからさ、あの子も。


皆森:…わかりました。


藤原:…皆森ちゃんも、大事にするんだぞ?


皆森:へ?


藤原:瀬名ちゃんのこと。


皆森:…はっ?!え!?べ、別に、私たちはそんな関係じゃっ…。


藤原:へえぇ?じゃ、どういう関係なのぉ?


皆森:えっ!?それは、その…せ、先輩と後輩です…そう、ただの先輩と後輩っ…。


藤原:ふーん、そうなんだぁ~?


皆森:な、何が言いたいんですかぁ!


藤原:いやあ、別に~?(にやにや)


皆森:もっ、もう~っ!からかうのもいい加減にしてください!!ほら、さっさと捜査の続きはじめますよ!!


藤原:はいはーい、もう~、可愛いんだから皆森ちゃんはぁ♪


皆森:っ…う、ううう、うるさいですう!!



――― 一方、瀬名と鈴木、過去の殺人現場に向かう。



鈴木:…ここが、1年前の第一被害者の殺害現場よ。


瀬名:本当に何もないところだな…街灯の明かりもほとんどないし、ちょうど、ビルの死角になってる。


鈴木:そうね、しかも人通りも少ない…。犯人はよくこんな場所みつけたわよね。


瀬名:確かにな…。


鈴木:…犯人は何を思って、あんなことをしたのかしら…。


瀬名:あんなこと?


鈴木:わざわざ死体の皮膚を半分剥いで、アシンメトリーにして、吊るし上げて…、ってこと。


瀬名:…あぁ…おまけに腹の刺し傷に花まで飾ってな。


鈴木:…ほんと、サイコパスの考えてることはわからないわ。


瀬名:そもそも考えたくもねぇけどな。


鈴木:まぁね…けど、ちょっとだけ、気にならない?犯人の思考、気持ち。


瀬名:いや…別に気にならねえな。


鈴木:そう…。


瀬名:…。


鈴木:今、こいつの考えてることわかんねえな、って思ったでしょ?


瀬名:っ…!?


鈴木:ふふ、図星?


瀬名:…あんたはエスパーかよ。


鈴木:どちらかといったら、透視能力かしら?


瀬名:どっちでもいいよ、めんどくせえ。


鈴木:あら、一応でもキャリア側の私に、その言葉遣いはどうかと思うけど?


瀬名:……スイマセンデシタ。


鈴木:ふふ、冗談よ。私のほうがキャリアは上でも、歳的には同期だし、ラフに接して頂戴。


瀬名:…ほんと、調子狂うんだよな、なんか。それに嫌味っぽいし…(ボソッ)


鈴木:何か言ったかしら?


瀬名:いーえ、なんでも。


鈴木:そう。じゃあまずは、この周辺の調査から始めましょう。


瀬名:はいはい、了解しました。「美緒捜査官どの」。


鈴木:…っ!



―――美緒、竜胆との会話がフラッシュバックする



※回想


竜胆:安心してください、美緒捜査官どの!おばちゃんのとこの猫ちゃんは、無事に確保しましたァ!


鈴木:猫の確保もいいけど、こっちの仕事もしなさいよね、ダメ捜査官様。


竜胆:うう…ひでえ…(泣)


※回想終わり



鈴木:……。


瀬名:…?どうした?


鈴木:…いえ…何でもないわ…行きましょ。



瀬名(М):俺たちは夕方になるまで、被害者の周辺や当時の事件について聞き込みをしたが、結局、新しい情報は何も得られなかった。



―――警視庁、未解決課にて、



藤原:そっか、そっちも、目ぼしい収穫はなしか…。


瀬名:…うす。


藤原:まあ、仕方ない。次があるさ、今日のところは二人とも、外回りお疲れさん。


鈴木:ありがとうございます。


藤原:とりあえず、今日はもう解散だな。また明日、みんなで頑張りますかぁ。


皆森:そうですね、もう日も遅いですし…。


鈴木:…私はまだ残って、資料整理してみるわ…。藤原さん、いいですよね?


藤原:ああ、別に構わないけど…相変わらずだな、美緒。まあ、ほどほどにな?


鈴木:はい、わかってます。


瀬名:…。


鈴木:…どうかした?


瀬名:いや、なんでもねっす…。


皆森:あー、瀬名さん、さては、またここに泊まろうとしてましたね?


瀬名:…うるせえな…。


鈴木:あら、そうだったの?なら、私も素直に帰ろうかしら。


瀬名:いや、大丈夫ですよ。今日は帰ります。


皆森:え!?うっわ!珍しいこともあるものですねえ…瀬名さんが引くなんて。


瀬名:皆森、いい加減だまれ。


皆森:な!なんですかその言い方はあ!


藤原:はーいはい!二人共そこまで!さて、じゃ、俺たちは先に帰るな。鈴木も遅くならないようにな。


鈴木:…了解です。


藤原:と、いうことだ。帰るぞ、二人共。


皆森:あの!提案なんですけど、せっかくだし藤原さんの歓迎会やりませんか?良い飲み屋さん知ってるんですよ!


藤原:お、皆森ちゃんうれしいこといってくれるねえ。けど、俺の歓迎会は、今回の件が片付いたらな!


皆森:あ…そうですね。わかりました!…あの!その時は鈴木さんもご一緒にどうですか?


鈴木:え、いや、私は…。


皆森:たとえ課が違くても、合同でも、今は一緒に捜査してる仲間です!…それに、私、警視庁内で女性と話すの、久しぶりで…捜査が無事に終わったら、色々話したくて…だめですか?


鈴木:…わかったわ。その時は、参加させてもらうわね。


皆森:!やったあ!ぜひ!いっぱい話しましょうね!


鈴木:ふふ、ハイハイ、わかったわ。


皆森:じゃ、お疲れさまです!


藤原:おう、お先な~。


鈴木:お疲れさまです。


瀬名:…うす。



———全員解散後、資料を広げる鈴木。



鈴木:…ほんと…あいつにそっくり…。まあ、あなたの方がお馬鹿さんだったけどね、竜胆…。



———その頃、飲み屋街の裏路地へ入る瀬名…今はもうやっていないBARの扉をガンガンと叩く。



瀬名:おい、いるか、川石。…いるのはわかってんだ、開けろ。


川石:…合言葉は?


瀬名:…は?


川石:合言葉を言いたまえ。


瀬名:おい、ふざけるのも大概にしろ。違法な情報収集で、この場で現行犯逮捕してもいいんだぞ?


川石:はあ~、ただのお遊びじゃないか、本気にするなよお瀬名氏ぃ。もうちょっと付き合いたまえよ。


瀬名:見つかるとやばいのはお互い様だろうが。前回の石塚さんの件での、警視庁データベースへの侵入犯、まだ捜査一課がおっかけてんだからな!


川石:わかったわかった、そんなに怒らなくても今開けるよ。



————ドアが開く。



川石:確かに、前回無茶したことについては謝るよ。つい楽しくなっちゃって。…でも、忘れないでくれよ、あの時、ボクに依頼したのは君だ、瀬名君。


瀬名:ああ、わかってるよ…。


川石:まあ、入りたまえよ。…で?今回はどうしたんだい?


瀬名:…今回もある事件の情報が欲しい。…それと、今日はここに泊めさせてくれ。


川石:ほう?めずらしいな、泊めてほしいなんて。いつもの「寝場所」は誰かにとられたのかい?


瀬名:…まあ、そんな感じだ。深く聞くな。


川石:ふ~ん?ま、なんだかんだ言って、瀬名君は真摯(しんし)でやさしいからねえ、大体察しはつk…っ痛った!!なんだよ叩くことないじゃないかああッ


瀬名:余計なこと言うからだ。


川石:はいはい、もう聞かないよ…はあ、痛い…。そんで、さっき言った、ほしい情報っていうのは?


瀬名:アシンメトリー殺人事件のことだ。


川石:…ああ、アレか。一年前は結構騒がれたそうだね。…最近になってまた、同じ手口の事件が起きたそうじゃないか。


瀬名:…さすが、情報屋。早いな。


川石:ふふん、ボクの情報網を甘く見てもらっちゃ困るよ?


瀬名:ああ、お前はそういうやつだったな。なんでもいい。犯人について、手掛かりになる情報が欲しい。


川石:いいだろう、親友の瀬名君からの頼みだからね。言っとくけど、今回も高いよ?


瀬名:ああ、わかってる。構わない。


川石:ふふ、相変わらずだね。君のその正義感は、いつか己の身を滅ぼすよ?


瀬名:それが、俺の仕事だからな…。たとえ俺の正義が間違っていようとも、それでこの身が滅んだとしても、解決したい事件がある…。許せない悪が蔓延ってる。俺は、全部終わらせたいんだ。犯人が死んだとしても…自分自身が死んだとしても、な。


川石:ふふ、ほんと、ろくでなしのヒーローだね、君は。


瀬名:なんとでも言えよ。


川石:はいはい、それじゃ、ろくでなしのヒーローさん?今ある情報をすべて教えるよ。…こちらに来てくれ。



———その頃、海の見える橋の上、一人、海を眺めている藤原



藤原:…なあ、石塚…お前はどんな想いで…あんなことをしてきたんだ?…この海に眠ってる、もう一人の「ろくでなし」に言われたことで、そこまでしたのか?自分の殺された家族のためか?…それとも、あいつのためか?…ははは…ほんと、どいつもこいつも、この世には、ろくな奴がいないな。なぁ、石塚…。



———その頃、瀬名と川石。川石、パソコンを操作している。



川石:さて、これだ。


瀬名:…これは。


川石:個人で外に防犯カメラを付けている物件の映像だ。こっそり頂戴させてもらった。ちなみに、この映像は一年前の犯行のものだ。


瀬名:一年前の?だが、この映像の提供は、当時の記録にはなかったな…。


川石:まあ、下手に関わりたくなかったんだろうね。関わったら、殺されるかもしれないと思ったんだろう。特に、守るものがある人は、そういう気持ちのほうが、正義感よりも勝ってしまう。


瀬名:守るもの?


川石:ん~、まあ自分可愛さもあるかもだけど?…たとえば、家族や…恋人とか、ね?


瀬名:…!


川石:君にも、経験のあることだろう?


瀬名:…ああ。そうだな。


川石:余計なこと言ったかな?


瀬名:…いや…。それよりも、この映像から見ると…犯人はかなり細身だな。


川石:ああ、まあ防犯カメラ除けに、フードとキャップを被っていて顔は見えないし、骨格こそしっかりしてるようにも見えるが、こいつは、女だ。


瀬名:…女。一般の女性が、男性を押さえ込むような力があるとは思えないが…。


川石:おそらくは、身体的にも、なにかしらの訓練を受けている人物だね。たとえば、軍人、SP、もしくは、警察。


瀬名:…警察…。


川石:ボクもその線は避けたいな、とは思ってるけど…。


瀬名:…また、警察関係者ってこともあるってことか…。


川石:だね…。それと、被害者についても調べてみたよ。


瀬名:被害者?


川石:ああ…。こういう連続殺人犯っていうのは、ランダムに殺しているように見えて、実は意外なところに共通点を持ってたりするものなんだ…ほら、これ見て。


瀬名:…!!これは…。


川石:そう、全員が少年院上がり。そしてみんな、女児に性的暴行を加えてるやつら。…当時、未成年の犯罪はまだ保護法によって守られてるからね。ニュースにはなっても、名前は隠されるんだよ…。遊びのつもりだったのか、未成年特有の好奇心というやつなのか…。とにかく、小学生の女の子をどこかに連れ込んで、女児ポルノを撮影して販売したり、レイプしてそのまま殺したり、ね?ほんと、クソガキだったんだよ、この被害者ども。死んで当然だ。


瀬名:おい、やめろ。不謹慎だぞ。


川石:本当のこと言ったまでだよ。それに「死人に口なし」ってね。ま、今はちゃんと更生して、働いてたようだけど?


瀬名:…まあけど、本当にどこにでもいるもんだな、ろくでもねえ奴ってのは…。


川石:本当にね。それで、本題に戻るけど、殺された被害者全員が、そういう経歴を持ってたんだ。


瀬名:…無差別に男性を狙ってるように見えて、実は裏に理由があったんだな…。けど犯人は、ニュースでも報道されなかった被害者たちの名前を…どうやって知ったんだ…。


川石:本当だよね、ボクもそれを考えてた。…で、考えた末、ボクの結論は、三つに絞られた。一つ、警察の上層部、二つ、殺された女児の母親、そして三つ、当時、警察の少年課に勤めていたもの。


瀬名:だな…。よし、その線でもう一度、洗い直してみる。ありがとな、川石。


川石:別にぃ?これは大親友の瀬名君の頼みだから、ね?(ニコッ)


瀬名:ふん…さて、そろそろ寝るか。


川石:ふぁあ、そうだねぇ…もう夜も遅いし…。あ、一緒に寝る?


瀬名:だ、誰が一緒に寝るかよ!俺はソファーでいい!


川石:ふふ、瀬名氏ったら、相変わらず照屋さんなんだからぁ。冗談だよ、好きなところで寝たまえ~。


瀬名:ったく…。じゃ、お休み。


川石:ああ、おやすみ、瀬名君。



———間。次の日、警視庁未解決課。



皆森:おはようございます!


鈴木:おはよう、皆森さん。


皆森:あ!鈴木さん!早いですね!


鈴木:まあね、早めに来てもう一度、資料の確認をしたかったから。…何か見落としてるような気がして。


皆森:ふえぇ…す、すごいなあ…。私も見習わなきゃ!


鈴木:ふふ、いいのよ、皆森さんは、皆森さんらしく、自分の捜査をして。


皆森:自分の捜査…ですか?


鈴木:そう。周りがたとえ、どんなに凄腕でも、貴女にしかできないことがきっとある。あなたはもうすでに、立派な刑事よ。誇りをもって、どんなことがあっても腐らずに、自分の正義を、自分を絶対に曲げないでいて。


皆森:!!は、はい!!


鈴木:ふふ、今日も元気いっぱいね。いいことよ。皆森さんが元気だと、私も元気になれるわ。


皆森:ほ、ほんとですか!?へへへ、嬉しいです!!


瀬名:…はよっす。


鈴木:おはよう、瀬名君。


皆森:瀬名さん!おはようございます!!


瀬名:~っ、朝からキャンキャン犬みたいに吠えるな、うるせえ。


皆森:な!ひどいいぃ!!ほんと、デリカシーないですよね、瀬名さんって!


瀬名:はあ?


藤原:おーう、おはようみんな。皆森ちゃん今日も元気でいいねえ。


皆森:はい!元気が取り柄なので!!


藤原:うんうん、いいことだね♪


瀬名:そいつ、あんま甘やかすと調子乗るんで、あまやかさないでください。


皆森:せーなーさあああああんん!?


瀬名:あー、はいはい、スンマセンデシタ。


藤原:ははは!お前らは見ててほんと飽きないなあ。…っと早速だが、悪い知らせだ。…昨夜、一人、新たに被害者が出た。


瀬名、皆森、鈴木:!!


藤原:被害者は同じく、20代後半。殺しの手口も…すべて同じだ。身元が分かるようなものは今回も、犯人の手によって持ち去られていた。


瀬名:…。


鈴木:現場は?


藤原:それが…大胆なことに、今回は警視庁前の路地でやりやがった。


皆森:え!?


鈴木:なんですって…。


藤原:とにかく、まずは鈴木と瀬名で現場に向かってくれ。俺と皆森はここで、最新の情報整理をする。


皆森:は、はい!


鈴木:わかりました。


瀬名:うす。


藤原:瀬名、鈴木、気を付けてな。よし、それじゃあ資料整理始めるか、皆森ちゃん。


皆森:はい!


鈴木:行きましょう、瀬名君。


瀬名:…ああ。



———間。鈴木、瀬名、現場である廃ビルの屋上に向かう。その頃、資料整理中の皆森、藤原のところに電話がかかってくる。



皆森:ん?こんな時間に、うちの課に電話?


藤原:誰だろうな…。ごめん、皆森ちゃん、対応してくれる?


皆森:わかりました。…はい、こちら未解決課。


川石:「ああ、申し訳ない、ええと、瀬名君はいるかな?」


皆森:(じ、女性の声!?)え、ええと、瀬名さんは今、外出中で…瀬名さんに何か御用ですか?


川石:「いや、彼ったらさぁ、昨日の夜、ボクの家に急に押しかけてきて、泊めてくれっていうから仕方なく泊めたんだけど、あろうことか携帯を忘れて行ってしまってねえ。」


皆森:おしかけ…!?泊り!?!?


藤原:?皆森ちゃん?どした?


川石:「で、仕方ないから、ここに電話したんだけど…。そうか、瀬名君はいないのか。残念、せっかく犯人について新しい情報が…。」


皆森:え…!?情報って…あなた、犯人について、何か知ってるんですか!?


藤原:…なに?


川石:「…あ、しまった。つい口が滑った…。」


藤原:ちょ、電話、絶対切らせないで、ほんでこっちにも聞こえるようにして、皆森ちゃん。


皆森:あ、はいっ。



———回線をつなぐ皆森。



藤原:…おい、君は何者だ?


川石:「え?あー…その…。ボクはただの女子高生だよ?てへぺろ?」


皆森:ぜったい嘘だ!!!


川石:「くそっ…。まだこの手、行けると思ったんだけどなぁ。」


藤原:はああ~、その声、やっぱりお前か、「川石ユウ」!


川石:「おや…その声は、藤原のとっつぁんじゃないか!久しぶりだね。」


藤原:ったく、瀬名の奴、よりによってこいつと接点があるとは…。


皆森:だ、誰なんですか?その、川石ユウって。


藤原:川石ユウ。別名「情報屋、デラシネ」。その天才的な頭脳と知識で、どんな情報も、金さえ払えばどんな奴にもピンからキリまで売り捌いている、伝説のハッカーだ。…まあ、俺も何度か世話にはなってるが。


皆森:す、すごい人なんですね。


藤原:んで、川石、さっき情報が何とかって言ってたな?


川石:「え?そんなこといったかな?」


藤原:ちゃんと聞こえてたぞ?なにせうちの皆森ちゃんは声がでかいからね?


皆森:ちょ!?藤原さんまでそんなこと?!


藤原:とにかく、今回の事件について何か情報があるなら教えてくれ。金は瀬名の代わりに俺が払う。


川石:「…ふ~ん?別にいいけど、ボクの情報は」


藤原:高い、だろ?わかってるよ。


皆森:…か、川石さん、私からもお願いします!私たち、絶対にその犯人を逮捕したいんです!


藤原:皆森…。


川石:「…わかったよ。ボクは可愛い女の子の味方だからね。皆森ちゃんのためなら仕方ない。」


皆森:あ、ありがとうございます!


藤原:…で、情報っていうのは?


川石:「…防犯カメラに映った犯人の顔写真を入手したんだよ。」


藤原・皆森:!!


川石:「今、そっちのパソコンに送るから、待って。」



——数秒ほどでパソコンにデータが送られる。



藤原:えっと、このファイルだな…。



——藤原、ファイルをクリック。



皆森:…え…これって…。


藤原:まさか、こいつが?…おい!本当に間違いないのか!?


川石:「電話の向こうで怒鳴らないでくれよ、怖いなあ。…それに、ボクの情報を疑うのかい?とっつぁんなら知ってるはずだ、ボクの情報に間違いはないってこと。」


皆森:…ふ、藤原さん…。


藤原:…そうだな。川石の情報に間違いはない。…ただこれだけは…間違いであってほしかったよ…。


川石:「…だろうね、気持ちはわかるよ。…で、その情報を伝えようとした瀬名君は、今どこにいるんだい?」


皆森:あ!!


藤原:皆森、出るぞ!川石、すまん、俺たちはこれからでなきゃならん。情報ありがとうな!


川石:「わかったよ。気を付けてね~。あと、報酬、忘れずにね?」


藤原:ああ、わかってる。じゃあな。



———電話を切る藤原。川石、自分のデスクの前でコーヒーをすする。



川石:ふうう…コーヒーあっつい…。…死ぬんじゃないよ、瀬名君。



———間。その頃、鈴木、瀬名、現場である廃ビルの屋上にて。



瀬名:…ここが、今回の殺人現場か。


鈴木:…そうみたいね。


瀬名:…どうかしたのか?


鈴木:ここは、私のバディが死んだ場所でもあるの…。


瀬名:!…そうなのか…。


鈴木:…そう…つらい思い出の場所…そして、始まりの場所。


瀬名:どういう意味だ?


鈴木:…一年前のアシンメトリー殺人事件。始まりはこの場所だったのよ。


瀬名:なに?


鈴木:…綺麗だった。色とりどりの造花に覆われた赤い傷口が…まるで、ひとつの芸術品のようで…。


瀬名:あんた、何言ってるんだ?


鈴木:…あの、紅い月から始まったの。


瀬名:…何の話だ?


鈴木:あなた、大切な人はいる?


瀬名:は?


鈴木:大切な人よ。いるの?


瀬名:…まあ…。


鈴木:そう…。例えば、その大切な人が、レイプされたりしたら、どう思う?


瀬名:…!?


鈴木:例えば、よ。


瀬名:…許せねえと思う。


鈴木:…そう、よかった、安心した。


瀬名:?


鈴木:あなたも、十分、こちら側だってことが分かって。



———鈴木、拳銃を瀬名に向ける。



瀬名:!?


鈴木:やっぱり、罪を背負ったら、それ相応の罰は受けるべきよね?


瀬名:お、おい!なにやってるんだ!銃をしまえ!


鈴木:遅いわ。もう出してしまったもの。ひっこめるわけにはいかない。


瀬名:…どういうことなんだ、何が何だかさっぱりわからん!!理由を説明しろ!!


鈴木:この機会をずぅーっと待っていたの。私の罪をあなたに着せて…石塚さんを殺したあなたを殺す機会を。


瀬名:!?


鈴木:…一年前のアシンメトリー殺人事件、そして、今回の同様の手口の殺人事件の犯人。私なの。


瀬名:なっ!?


鈴木:私には…大切な双子の妹がいたの…。ある日…高校の帰り道よ…。彼女は、同級生の男子グループに目を付けられ、人気のない路地裏に連れていかれレイプされ、殺された。…ズタボロになった彼女の死体を見て、私たち家族は憎しみと、悲しみでいっぱいだった。母は精神的に壊れてしまって、精神病院に入院。父は…そんな母を見ていられずに、自殺したわ。残されたのは私だけ…。母のお見舞いに行くと、いつもこう言われるの…「あら、『美菜ちゃん』、おはよう」って…私を妹と勘違いしてるのよ…。


瀬名:鈴木、さん…。


鈴木:だから私、復讐しようって決めたの。私の大切な家族を崩壊させ、妹を苦しめたやつら全員を…殺してやるって。


瀬名:…そんなことしたら、あんたもそいつらと同類になる!なんでちゃんと、誰かに相談しなかったんだ!!


鈴木:相談したら、妹は、父は帰ってくるの!?母は元に戻るの!?


瀬名:っ!!


鈴木:私の大好きな家族は、もう二度と戻ってこない。だから…世に蔓延るすべての悪を、この手で消してやろうと思った。…石塚さんと同じように…。


瀬名:!!?


鈴木:石塚さんも、私も、大切なもののために、法で裁けない悪を裁いてきたの。…ねえ、あなたは?瀬名君、あなたは何のために刑事をやってるの?…法で裁けない悪党、あなたならどうする?


瀬名:っ!!お…俺、は…。


鈴木:…すぐに答えられないのは、あなたが迷っている証拠。…私は、迷いなんてとっくに捨てたわ…。この世に蔓延る悪は、たとえどんな罪であろうが法で裁かれていようがいまいが、許しちゃいけない、生かしておいてはいけないの!


瀬名:あんたは、あんたは間違ってる!…確かに悪は許しちゃいけねえ、けど、やり直すチャンスはみんな平等にあるはずだ!なあ、本当のあんたに、鈴木美緒に戻ってくれ!


鈴木:…何言ってるの?やり直すチャンス?そんなの、罪を犯した奴にあるわけなんてないじゃない!それに…今の私が本当の私、刑事としての本当の自分なの!…ふふ、きっと竜胆も、こんな気持ちだったのね…。


瀬名:…竜胆って…。


鈴木:さ、私の話はこれでおしまい。…本当の自分に気づけない迷子の殺人者さん?今ここで、死んで頂戴。石塚さんを殺した罪、今ここで終わらせてあげる!!


瀬名:!!



———瀬名、銃を構える。



鈴木:あら、今度は私を殺すつもりかしら?


瀬名:違う!!これは警告だ!!鈴木美緒!!今すぐに銃を置け!!アシンメトリー殺人事件の容疑者で逮捕する!!


鈴木:…ふふふ…あははははははは!!!誰が置くものですか!!!これは、どちらかが死ぬまで終わらないゲームよ!!さあ、私とあなた、生き残るのはどっちかしら?!


瀬名:…っ…あんたが捕まったら、残された母親はどうなるんだっ!!


鈴木:…。お母さんはもう私を見てない。私にうつる、妹の残像だけを見てるわ…。もう、一緒にいても仕方がない。


瀬名:それで、いいのかよ…。あんたが望んでいたのは、本当にこんなことだったのかよ!!


鈴木:少なくとも、後悔はしてないわ。それは石塚さんも、竜胆も同じはず。


瀬名:…妹さんは?


鈴木:は?


瀬名:あんたの妹さんはあんたが人殺しになることを望んでたのか!?


鈴木:っ!!


瀬名:少なくともそうじゃないはずだ、きっと妹さんもそんなことしてほしくないはず…


鈴木:黙れ!!!!!


瀬名:っ!!


鈴木:っ…黙りなさい…。あんたが妹の何を知ってるっていうの!?私の何が分かるっていうのよ!!!


瀬名:…俺も、大切な人を亡くしてる。…恋人を、友人だった警官にレイプされ、殺された…。


鈴木:…え…?


瀬名:だから…同じなんて言わないが、あんたの気持ちは痛いほどわかる。


鈴木:その、警官は…?


瀬名:数か月前に、殺された…石塚さんの手で…。


鈴木:!!


瀬名:…本当は、俺がこの手で殺してやりたかった…。でも、できなかった。石塚さんが殺したからじゃない、「刑事としての自分」がそれを許さなかった。…今の俺には、守るべき場所と、仲間ができたから。


鈴木:な、に、それ…。


瀬名:仲間のために、俺は「刑事としての自分」を貫く。これが、俺とあんたの違いだ。…あんたは一人だった。だから、自暴自棄になっても、自分を止められなかった。


鈴木:う、うるさい、うるさい!うるさい!!


瀬名:鈴木さん、いや、美緒。


鈴木:!!


瀬名:今は俺たちがいるじゃないか…。藤原さんに皆森、みんな、あんたの味方で、仲間だ。もう一人じゃない、一人でいなくていいんだ。


鈴木:…あぁ…竜胆、私…。


瀬名:…銃を置いて、自首して、何もかも話してくれないか?…俺にはあんたが、進んでこんなことしたなんて考えられないんだ…。ほかに何か理由があったんじゃないか?


鈴木:…っ…。ほんとはっ…私、実はっ、



———その時、発砲音。スナイパーライフルで、鈴木、心臓を貫かれる。



瀬名:っ!?


鈴木:かはっ!



———その時、ドアが開き藤原と皆森が入ってくる。



藤原:瀬名!美緒!!…っ!!


皆森:瀬名さんっ!!…あっ…。


瀬名:す、鈴木さん!!


鈴木:だ、めっ、…っ…来ちゃダメっ!


瀬名:!


鈴木:…あぁ。私も、用済みか…。


瀬名:用済み?なんの話だ!?


鈴木:…いい…瀬名君…上には、気をつけなさい…。あなたたちは、常に、見られているわ…。げふっ!


瀬名:な、何を言って…それよりも、救急車を…っ!



———止血しようと近づき、電話をかけようとする瀬名の手を必死でつかみ止める美緒。



鈴木:…いいのっ…これで…いい、の…。…ああ、美菜…すぐに…いくね…。



——目をつむり息絶える鈴木。



瀬名:…っ…鈴木さん…鈴木さんっ!!!…そんな……。くそおおおお!!!なんで、っ、こんなことってあるかよ!!!…おい!!!なあ、見てるんだろ!?絶対にお前の正体を暴いて、捕まえてやるからな!!!覚悟してろ、この、ろくでなしがああああああ!!!!!



川石(M):その後、藤原、皆森と合流した瀬名は、事の経緯を報告。鈴木美緒の自宅から、殺人で使った凶器、造花、そして、被害者の免許証などが発見された。捜査一課は事件の犯人を鈴木美緒と断定し、鈴木の死体は、そのまま拘置所の死体置き場へ輸送された。



———数日後。とある飲み屋で、瀬名と皆森が話している。



皆森:…鈴木さん…悪い人に見えなかったのに…。


瀬名:いつだったか、石塚さんが言ってたろ?サイコパスは普通を装ってるやつが多いって…。


皆森:けど!…鈴木さんは、私にとっては尊敬する刑事でした。


瀬名:…ああ。わかってる。


皆森:…藤原さんの歓迎会、結局伸びちゃいましたね。


瀬名:まあ、仕方ない、…今は、歓迎会って気分にはなれないしな。


皆森:…。そうですね。


瀬名:その代わり、石塚さんと、鈴木さんに、献杯しようぜ。


皆森:…ッ…は、はいっ…。(泣)


瀬名:…泣くなよ。


皆森:す、すみません…。


瀬名:…てか、あの人どこ行ったんだ?


皆森:あ、藤原さんですか?今日は予定があって帰るって言ってました。


瀬名:…そうか…。



————間。その頃、人気のない海岸で、小声で国家(君が代)を歌っている藤原。



藤原:…きーみーがーぁ、よーぉはぁー…ちーよーに、ぃぃ、やーちーよに…さぁざぁれぇ、いーしーのぉ…いーわーおーとなーりてぇ…。


川石:…随分とご機嫌だね、とっつぁん。


藤原:…おぉ、川石か…。


川石:約束通り、お金を受け取りに来たよ。


藤原:そうだったな。今回もご苦労さん。


川石:…はいよ、確かに受け取ったよ…。そんなにご機嫌ってことは、またなんか企んでるね?


藤原:ん?…ふふ、それは、秘密。


川石:ふっ、相変わらず、つかめないおっさんだこと…。瀬名君にも携帯返したし、事件も解決して、無事に終わってよかったけど。ま、せいぜい、気を付けるんだね。それじゃ、またね~。…「隠の王(なばりのおう)・藤原和彦さん」。



———川石、去る。藤原、不気味な笑顔を浮かべる。



藤原:…終わった?……違うよ…まだ、始まったばかりだ。





ー本編終了ー




あとがき

それぞれの正義の中で、限られた時間を生きる。

どんなにろくでなしでも、歪んだ正義でも、誰かの光になれるなら…。

きっと、彼らはそんな人間たちです。

九条 顕彰・台本置き場

こちらは九条顕彰の台本置き場です。 利用規約をよく読んで台本をお使いください 不明な点や質問等何かありましたらX(元・Twitter)にてお待ちしております アカウント→kujoakira_000

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