声劇台本 「双子の月〜Dual Moon〜」

「双子の月〜Dual Moon〜」
作:九条顕彰

△はじめに…
こちらは声劇台本となっております。
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この物語はフィクションです。
実在の人物・地名は一切関係ありません。

七海あお様企画・星と奏でる物語より

※作中、キャラクターは男性言葉で書かれておりますが、女性として演じる場合、口調を変えても構いません。
※()内と、──、の部分はト書です。セリフでは無いので読まないでください。


────これは、前世の絆で結ばれた、かつて双子だった者達の話。


上演時間:50分〜60分

比率
不問:2人

登場人物

アステア(不問)
現代では25歳
前世の記憶の時は14歳ほど

イーダ(不問)
現代では25歳
前世の記憶の時は14歳ほど


役表
アステア:
イーダ:




○本編セリフ○




イーダ(前世):なあ、しってるか?俺たちみたいな双子って、心中した恋人同士の生まれ変わりなんだって…絆の糸で繋がって、生まれ変わるんだってさ!死してもなお、そばで繋がってるって本当に運命だよな、そう思わないか?

アステア(M):夢を見た、酷く懐かしい、しかし、どの記憶にも思い当たらない、思い出の夢…

アステア(前世):恋人同士の生まれ変わり、って…ふふ、お前はロマンチックだな…けど、確かに、運命、感じるね…僕たちの前世がもし、そうなら…来世はどんな風になってるかな…またこういう風に、仲良く過ごせてたらいいな!

イーダ(M):夢を見た…まるで、今まで、忘れていたかのような、宝物のような、そんな夢を……

アステア(M):しかし、夢というものは持続性がなく…すぐに記憶から消えてしまう

イーダ(M):それは儚くて…掴めない煙のように……けど、確かにそこにあったもの

アステア(M):この戦時中、夢を見るのは、愚かだ

イーダ(M):夢に囚われるのは、浅はかだ

アステア(M):しかし…人は、気付かぬうちに夢に希望を抱く…理想を描く…そうしてまた、夢を見るためにまぶたを閉じ、

イーダ(M):そして、昇る朝日と共に、また、すぐに、忘れてしまうのだ…


───現代、朝、うなされて起きるイーダ


イーダ:...っ!…...はぁ...また、同じ夢...俺には兄弟はいないはずなのに...なぜ、あの夢の中のぼやけた顔が、懐かしく思えるのだろうか......もう朝か、そろそろ起きないとな…


───ノック音


アステア:隊長!イーダ隊長!おはようございます!

イーダ:ん、誰だ?

アステア:ガドル騎士団、1番隊副隊長、アステアです!

イーダ:アステアか、おはよう、入っていいぞ

アステア:はい!失礼します!

イーダ:どうした?急ぎの用か?

アステア:いえ、隊長が本日の朝礼の時間になっても、お姿が見えなかったので、お部屋を覗いたら、気持ちよさそうに寝ていらしたので、起こすのがしのびないと思い、今起こしに参りました!

イーダ:......ん?

アステア:もうすぐ、朝稽古の時間です!今日も、御指導・御指南よろしくお願いします!

イーダ:や、まてまてまて!い、今なんて!?朝礼を、寝過ごした、だと!?

アステア:はい!それはもうぐっすりと眠っていらしたので...

イーダ:馬鹿野郎!なぜすぐに起こさない!そういう時は叩き起こせ!しかも今回ので.....もう三回目、だぞ...……俺...隊長失格だ...1番隊の恥さらしだ...騎士団長に殺される...

アステア:そんな心配しなくても大丈夫です!隊長!騎士団長には俺が上手くいっておきました!

イーダ:...なんだか嫌な予感がする...一応聞くが、騎士団長にはなんと答えたんだ?

アステア:はっ!我がルフテンブルク帝国・最高騎士団、ガドル騎士団の1番隊、隊長であるイーダ・ファウスト隊長は、ただいまぬくぬくベッドで眠って夢の中であります!と!

イーダ:ぬおおおお!やっぱりなぁぁ!こんの、とんま!馬鹿野郎!もっとほかに言い方があるだろうが!

アステア:しかし!自分は事実だけを述べました!

イーダ:...っ...はぁ...もういい…お前は昔から嘘が下手だもんな...少しでも副隊長であるお前に期待したのが馬鹿だった...

アステア:......もしかして、俺、まずいこと言いました?

イーダ:もしかしなくてもまずいことだ!!あぁ、くそ!こうしちゃいられない、支度して騎士団長に謝罪してくる!お前も着いてこい、アステア!

アステア:は、はい!



イーダ(M):我が国、ルフテンブルク帝国は現在、隣国の「グランベルク王国」と長い間、戦争を繰り広げている…長きに渡る戦いで、人々は疲弊し、かつて豊かであった資源や自然も失われつつあった……そして、ついに、両国は次の戦いで、この戦争に終止符を打つと、そう互いに宣告した…ついに最終決戦が始まろうとしていた



アステア:…というか、そもそもこの戦争自体が、滑稽で無意味な争いなんですけどね

イーダ:おい、アステア、言葉がすぎるぞ、誰が聞いてるか分からないというのに…

アステア:俺は…自分は事実を述べただけです

イーダ:…なぁ、アステア、その……俺と2人でいる時くらい、昔のように…話してくれないか?そんなかしこまらないで、さ…俺たち、士官学校の同期じゃないか

アステア:…それは、ダメですよ……いくら同期とはいえ、今の自分は副隊長で、イーダ隊長の部下です

イーダ:…ほんと、真面目なやつだな、まあ、それもお前のいい所だが……士官学校時代が懐かしいな…

アステア:真面目だけが取り柄なので!それに、隊長は、貴族で現騎士団長のご子息さま、俺は、貧乏な平民あがりの一般庶民…もとより階級の差があります、下手な言葉は、使えませんよ

イーダ:ふーん、階級の差な?その割にはお前、今朝のような時は起こしてくれないじゃないか

アステア:だって、俺は隊長の目覚まし係じゃありませんので!

イーダ:っ!んなっ!(恥)

アステア:それと、良かったですね!今朝の件、騎士団長のゲンコツ1発で済んで、お咎めなしになって!♪
(ニコニコしているアステア)

イーダ:〜っ、んの、ヤロー!てめ、毎回わざとやってるだろ!なんだ!俺に恨みでもあんのか!

アステア:えー?なんのことでしょーかー?

イーダ:すっとぼけてんじゃねえ!なんだ、なんの恨みがあってこんな事っ…… 

アステア:隊長に恨みなんてありませんよっ、ただ、寝坊は隊長の自業自得じゃないですかっ

イーダ:うぐっ…

アステア:……まあ、士官学校同期としての言葉を借りるなら…「てめえの始末はてめえでつけろ、他人任せにするな」

イーダ:っ……アステア…

アステア:…俺だって、こんな事したいわけじゃないぞ…けど俺が起こしたらお前、俺に毎回甘えるだろうが

イーダ:そ、それは…

アステア:ないと言えるのか?

イーダ:…いや…確かにそうだな…俺はお前に甘えてしまうな

アステア:ほらな?俺はお前に隊長としての自覚をもっと持って欲しい、甘ったれになってほしくないんだよ

イーダ:……おう…すまん……そうだな…自分が今、何者であるかは、自分が決めるんだ…俺は今、1番隊隊長を任されている、その責任や自覚をしっかり持たなければな

アステア:そう、そのいきだ!さすがはガドル騎士団1番隊隊長!俺の同期!♡

イーダ:き、急になんだよ…もう、お前に甘えない、隊長として自分の行動に責任を持つよ

アステア:……まあ、完全に甘えるな、というわけじゃない
(イーダの頭をポンッとして)

イーダ:…!

アステア:お前が困った時や辛い時は、いつでも俺に頼れ、いつでも助ける…そのための副隊長でもあるからなっ?
(頭をくしゃっと撫でて、ニカッと笑うアステア)

イーダ:…っ!ふふ…ああ!頼んだぞ、相棒!

アステア:副隊長ですってば(笑)

イーダ:ふん、似たようなもんだ

アステア:…お前はほんと、何一つ変わらないな…士官学校で出会ったあの時から、何一つ…

イーダ:そういうお前は、騎士団に入ってから変わったよな、俺が1番隊隊長に就任した途端、急に敬語を使い始めて

アステア:当たり前だろ、じゃなければ部下に示しがつかないからな

イーダ:俺に敬語を使うことが?

アステア:ただ偉いから、階級が上だから、敬語を使ってるんじゃない、1番隊に数多くいる部下に、隊長が何たる存在かを知らしめるのも、副隊長の役目だぞ?

イーダ:と言うと?

アステア:例えば、副隊長が隊長に対して、生意気な態度を取っていたとする、そうすると、下のものもまた、真似をして生意気になる、それが隊全体に伝染して、隊の風紀や規律が乱れる、そしたらどうなると思う?

イーダ:…そうなれば、戦争で最前線に出た時に、統一がなくバラバラの隊になってしまう…なるほどな…俺は知らないうちに、お前に支えられてたんだな

アステア:当たり前だろ、相棒

イーダ:…ふふ、ありがとうな、アステア!

アステア:……お前は、ずっと、変わらずに、そのままでいてくれよ…(小声で)

イーダ:ん?なんか言ったか?

アステア:いーえ!なんでも!さぁ、稽古の時間です!部下をビシバシ鍛えてください、隊長!

イーダ:お、おう、任せろ!



イーダ(M):この頃から、何か、妙な胸騒ぎを感じていた…いや、胸騒ぎと言うよりは、違和感と言うのか…俺はその違和感に気付かないふりをして、日々を過ごしていた……そして、両国・最終決戦を迎えようとしていた前日…



────ノック音



イーダ:ん、こんな夜遅くに、誰だ?

アステア:…お疲れ様です、アステアです

イーダ:なんだ、アステアか、入っていいぞ

アステア:……失礼します

イーダ:どうした、こんな時間に…まさか、明日の決戦が怖くなったか?

アステア:いえ、そういう、わけじゃ……

イーダ:…立ち話もなんだ、隣に座れ
(ベッドをポンポンとするイーダ)

アステア:っ…はい、失礼します

イーダ:何かあったのか?

アステア:……いえ、ただ、眠れなくて

イーダ:意外だな、お前にもそんな弱いところがあったのか

アステア:なっ、別にこれはっ…

イーダ:違うのか?

アステア:……

イーダ:…なあ、アステア、今は上司と部下の関係じゃなく、親友として、俺の隣にいて、話してくれないか?

アステア:……あぁ…わかった

イーダ:…戦うことに、怖気付いたのか?

アステア:っ!違う、そうじゃない…!…そうじゃ、なくて…

イーダ:…アステア?

アステア:…なあ、イーダ…士官学校で初めてお前にあった日のこと、覚えてるか?

イーダ:!……ふふ、あぁ、覚えている…忘れるわけが無い

アステア:……俺が、訓練をサボって、先輩達に絡まれているところをお前に見つかって…

イーダ:あぁ、それで俺が、「4対1なんて下級生を囲むなんて卑怯です!先輩方は騎士道を知らないんですか!」と言って、2人で先輩達に食ってかかって行ったんだったなっ

アステア:あぁ、そうだ…あの時はほんと、馬鹿なことしたと思った…けど、楽しかった

イーダ:はは、そうだな!楽しかった!入学したての1年生に負けた先輩達のあの悔しげな顔、今でも覚えているよ!

アステア:俺も覚えている、あれは傑作だったな!

イーダ:あぁ!

アステア:………何故だろうな…お前と士官学校で出会った時、初めて会ったはずなのに、ずっと前から知ってるような気がしたんだ

イーダ:…え…お前も、か…

アステア:…ん?お前も、って…?

イーダ:…実は、俺もそうだった、お前とは、初めて会った気がしなかった…ははっ、なんでだろうな

アステア:…もしかしたら、過去の絆で、結ばれてるのかもな、俺たち

イーダ:過去の絆?

アステア:……前世の絆、っていうのか?そういう、過去の…見えない絆や縁で繋がってるのかなと、ふと思ってな

イーダ:ふふ、ロマンチックなことを言うやつだなぁ、お前は…けど確かに…前世の絆か……そうかもしれないな!じゃなければ、お前のこと、懐かしい存在だなんて思わないだろうから

アステア:……或いは、腐れ縁、とか?

イーダ:く、腐れ縁!?それはそれでなんだかなぁ…

アステア:はははっ、冗談だよ!…まあ…正直、士官学校でお前に出会って、お前のような優しいやつが、まだこの世に居たんだなと、心底驚いたよ…俺は平民あがりの貧乏人…貴族のボンボンしかいないような士官学校では、差別されて当然だったからな

イーダ:前にも言っただろう…騎士に、階級や位(くらい)など関係ない、平民あがりだろうが、貴族だろうが、剣を取り、同じ騎士団の勲章を胸に掲げれば、皆、平等に騎士だ

アステア:…そう…その言葉…それが凄く嬉しかった…お前がそう言って励ましてくれたから、俺も、騎士団に入るという夢を諦めずに、ここまで来れた……お前のおかげだ、ありがとう、イーダ

イーダ:なっ、なんだよ急に…俺は礼を言われるようなことは何もしてないぞ、2人で努力してきた結果だ、何より、騎士団に入れたのはお前の力じゃないか

アステア:確かに、自分の力もあるかもしれないが…ライバルとしても親友としても、そばに居てくれたお前のおかげでもあるんだ、だから、ありがとう

イーダ:…おう…(照)

アステア:…明日は、いよいよ最終決戦、か

イーダ:…あぁ…そう、だな…

アステア:……なぁ、イーダ…なにか、嫌な予感がするんだ…この戦い…我が国は…きっと負ける…

イーダ:っ!な、何を言ってるんだ、アステア!いつからそんな弱腰になった!?

アステア:弱腰になったわけじゃない!…ただ、何か変な感じがするんだ…イーダも何か感じてるんじゃないのか!?

イーダ:……っ…

アステア:繰り返される戦いで、我が国の兵力も戦力も半分以下に減った…もちろん向こうの兵力も同じはず、なのに…噂によれば、向こうの戦力は何故かこちらを上回る数だそうじゃないか!……明らかにおかしいだろ…あの国は独立国、他国と同盟を結ぶようなことは絶対にしない……それに、前回の戦いで、こちらの勢力が向こうの勢力の半分も削ったというのに、だ

イーダ:…そんなの…ただの噂…そう、悪い噂だっ…!我々の戦意を喪失させ、恐怖に陥れるために、そんなデマを流したに決まってる!そんなものに惑わされるな!

アステア:…ああ、そうだな…そうで、あって欲しいよ…ただの悪い噂であってほしい …

イーダ:…アステア…

アステア:…憎しみは憎しみしか生まない…争いもそうだ…こんな無意味な争い…早く終わらせたい…

イーダ:…ああ、終わりにしよう…終わらせるんだ、俺たちの手で…この無意味な戦争を…我が国の民の平穏な暮らしを、守るんだ

アステア:…イーダ…すまない…やっぱり俺は、弱いな…弱い人間だ…怖くないといいながら、死への恐怖に飲み込まれそうになってる…俺は騎士失格だ…

イーダ:そんなことはない!死への恐怖を感じるのは、生きたいと願う証拠だ…!それが人間なんだ…!…それに…俺も、正直に言えば、怖いさ…けど、まだ負けたと決まったわけじゃない、死ぬと、決まったわけじゃない…!安心しろ、お前が闇に飲まれそうになったら、俺が必ず救い出してやる!俺の背中を預けられるのはお前だけだ、アステア!

アステア:…っ!…イーダ…

イーダ:…なあ、アステア…この戦いが終幕を迎えたら、一緒に酒でも飲もう!

アステア:え…けど…

イーダ:もちろん、我が国が勝利を収める事が前提だ!その時はお前の奢りだぞ?約束だ!

アステア:そ、それは構わないが…お前、酒弱いだろ?

イーダ:…う、うるさい!いいから約束しろ!この戦争が終わったら一緒に酒を飲み交わす!わかったか!?

アステア:わ、わかったよ

イーダ:…俺たちは、この戦いに勝って、生きて帰るんだ…だから絶対に、約束を守れよ

アステア:…っ!…ははっ、お前ってやつは…

イーダ:なんだよ…

アステア:なんでもない…ただ、共に戦場へ向かい、背中を預けられるのが…こうして、そばにいてくれるのがお前で、本当に良かったと思っただけだ

イーダ:…お前、時々、恥ずかしいこと言うよな?

アステア:ん?そうか?

イーダ:そうだよっ

アステア:そういうお前も人のこと言えないと思うけどな?

イーダ:な、なんっ…!?

アステア:ふふ…さて、俺は明日に備えて、そろそろ部屋に戻るよ

イーダ:…そうか………怖いなら、朝まで一緒に寝てやってもいいんだぞ?

アステア:バカ、子供扱いするなっ、1人で寝れる!

イーダ:はははっ……覚悟は決まったか?

アステア:覚悟なら、とっくに決まってる…もう大丈夫だ、ありがとう、イーダ

イーダ:…ん…じゃあ、明日…

アステア:あぁ、明日、戦場でな…



イーダ(M):この時はまだ、アステアの言う、嫌な違和感が現実になるとは、思っていなかった…決戦当日、その日は朝から戦場は濃い霧に覆われていた…地の利はこちらにあるものの、視界は一面真っ白で、少しの光も通さないほどだった…



イーダ:……嫌な霧だな…一面、真っ白だ…

アステア:イーダっ!

イーダ:アステア、どうした?

アステア:敵軍が、動き出したらしい!

イーダ:なに?!

アステア:こちらに向かって進軍中だそうだ!

イーダ:まさか、この霧の中、進んでいるというのか…前すら見えないこの状況下で…

アステア:どうする!?今どの辺まで進軍しているか分からないが、こちらも動かなければ、囲まれるぞ!

イーダ:…奴らは…なぜ……この濃霧の中を、進めるんだ…

アステア:分からない…別の情報によれば、奴ら、怪しい魔術師を雇って戦力に加えているらしい…この濃霧の中を進めるのも、もしかすると、その魔術師の力かもしれない

イーダ:魔術師…そうか、だから、我が軍よりも戦力が……

アステア:それよりも、どうするイーダ!このままでは……

イーダ:…国民を守るためだ、俺たちも前進する…俺に続け、アステア!

アステア:わかった!

イーダ:ガドル騎士団1番隊、剣を構えろ!前に出るぞ!

アステア:敵を返り討ちにするぞ!止まるな!隊長に続け!

 

イーダ(M):俺たちの掛け声を合図に、1番隊全体の士気が上がる…後ろから微かに、後方支援である魔法騎士軍の詠唱が聞こえた…これなら、勝機はある、そう思っていた…だが…



イーダ:少しだが霧が晴れてきた…これなら……っ!?

アステア:イーダ、どうし……っ!?

イーダ:あれ、は…俺たちの国の、旗…?

アステア:どういうことだ…!?旗も、鎧も、我が軍のものだぞ…あいつら、まさか、寝返ったのか!?

イーダ:…!…いや、違う……あれは……もう既に、「死んだものたち」だ…

アステア:な、にっ…!?ま、さか…じゃあ、奴らの雇った魔術師というのは……

イーダ:あぁ、あいつら…ただの魔術師じゃない…死霊使い(ネクロマンサー)を雇いやがった…っ!!

アステア:くっ…死者に対して…なんて奴らだ…許せないっ…!敵国の人間なら、なんでもしていいと思っているのか!!

イーダ:しかも自国の兵ではなく、わざわざ敵国である我が軍の兵を甦らせるとは…っ…国が違うだけで、おなじ心を持つ人間だと言うのに…外道どもがっ!!

アステア:おそらく、同情で敵を翻弄させる作戦だ…皆、惑わされるな!!奴らはもう死んでいる!!見た目は我が軍の仲間だが、中身はもう人ではない!!あれは悪魔だ…全て斬り倒せ!!

イーダ:っ…奴ら…本当に、人の心を揺さぶるのが得意だな…反吐が出る!全員、アステアに続け!元は味方と言えど容赦はするな!国を守るんだ!……アステア、俺から離れるな!!

アステア:あぁ、分かってるさ……隊長の背中は俺が守る!!死ねばネクロマンサーどもに甦らせられて敵国の犬にされるぞ、いいか、絶対に死ぬなよ!!

イーダ:分かってる!いくぞ!!



イーダ(M):濃い霧の中、俺たちは元・同朋に刃を向けた…亡くなった者へ敬意を払う間もなく、戦いが始まった……しかし、いくら倒しても、倒しても、奴らは起き上がり、また襲ってくる…そのうちに、味方が1人、また1人と奴らによって殺され、そして操り人形のように起き上がり、下卑た笑い声を上げながら、生き残り戦っているもの達に襲いかかってきた……精神も体力も削られ…生き残り、戦っているもの達に、限界が訪れてきた…



イーダ:…っ……はぁ、はあっ……くそっ、キリがない……この濃い霧の中じゃ、あと何人生き残ってるのか分からないっ…アステアともはぐれてしまった………無事でいてくれよ…

アステア:……おい…

イーダ:っ!アステア……



───イーダに向かい剣を振るアステア



イーダ:っ!?アステア!お前なんのつもりっ……!!

アステア:…ヒヒッ……

イーダ:……アステア……お前、まさか……

アステア:ひゃははははっ!人間の絶望した顔はいつ見ても最高だなぁ!あー、あと、お前の知ってるアステアってやつはもう死んだよ、ばーか!

イーダ:っ!!

アステア:この身体、ガタイもいいし、動きやすくていい身体だなぁ?あんたとこいつがどんな関係か知らねえけど、この身体、このままもらっていくぜぇ!

イーダ:……貴様……悪魔か…っ!

アステア:あぁ、そうだ、主であるネクロマンサー様により、冥界から召喚された、悪魔だよ♪

イーダ:っ…よくもアステアを……許さないっ!!

アステア:おおっと、物騒な剣持ってるなあ……俺を斬っていいのかぁ?

イーダ:どういう、意味だ!
(怒りの感情のままに、剣を振るうイーダ)

アステア:実は、アステアはまだ、ここに生きてるって言ったら?
(自分の胸を指さすアステア)

イーダ:っ!?

アステア:…ひひひっ…ほら、どうする?

イーダ:…そう言って、油断させて俺を殺す気だろう……その手には乗らないぞ…

アステア:嘘じゃねえって!俺がこいつの身体を乗っ取る時、まだ微かに魂が生きているのを感じた…こいつはな、瀕死の状態で俺に身体を奪われたんだよ…!だから、まだ俺の中で、虫の息だが、こいつの魂は生きてる…ようは人質だ♪お前が俺を怒らせて、俺がこいつの魂を食っちまったら…完全に死んじまうぜぇ?

イーダ:っ…ほざけ!!俺は、悪魔の口車には乗らないぞ!!

アステア:ほーん、じゃあ、そんなに言うなら、確認してみるかあ?
(目を閉じるアステア)

イーダ:何を………、…!

アステア:…っ…た…たい、ちょう……
(目の色が、悪魔の目からアステアの目の色に変わる)

イーダ:…っ!!アステアぁ!!

アステア:ごふっ……イーダ、隊長……たす、け、て……

イーダ:アステア!まってろ、今俺が助ける…っ!!

アステア:…ひひっ、隙あり!

イーダ:…っ!しまっ…



──イーダに剣を突き刺すアステア、イーダ、咄嗟に避けるも、肩に剣が刺さる



イーダ:……っ、ぐあっ!!

アステア:あーあ、避けるなよなぁ、あんたがあんまりにも哀れだから、一思いに殺してやろうと思ったのに

イーダ:はぁっ…っ…俺はまだ、死ぬわけにはいかないっ!!

アステア:…面白くねえ…そうやっていきがるのも今のうちだ…生意気な目しやがって…やっぱ、一思いに殺すのはやめだ……心も体もズタズタになるまでいたぶって、その目から光が失われていくのを見届けてやる…



──剣を持ち、じわじわ間合いを詰めるアステア



イーダ:っ……何してる…いつまで寝てんだ、この寝坊助……戻ってこい、アステアぁぁぁ!!!

アステア:ひゃはははははっ!!ばーか!!そんなに叫んだところで、こいつは戻って……こ、ね…ぇ……あぁ?なんだ、これ……体が、うごか…………っ、……寝坊助、は、お前だろ……

イーダ:!!

アステア:……、るせぇ…な……イーダ……

イーダ:ア…アス、テア……お前っ…

アステア:イーダ…はや、く……俺を、ころ、せ……

イーダ:な、なにいって…!お前はまだ生きてる!何とかして助け出す!!

アステア:むり、だ……魂の、ほとんど、を……この悪魔に、食われてしまった……もう、戻ることは出来ない……今こうして、この身体を……抑えるので、手一杯だ……っ…いまの、うちに、はやく、殺せ!

イーダ:…っ……むり、だ……お前を殺すことなんて…… だって、まだお前はっ!

アステア:はぁっ…イーダ…俺は…おま、え…の…腕の中、で…死ねる、なら……本望、だ……

イーダ:っ!!

アステア:…時間が、ないっ……これ、以上、は、もたない…やつが、魂を食い始め、た…完全に、俺を乗っ取る、気だ…

イーダ:そんなっ…!!

アステア:ぅぐっ……っ…頼む、イーダ……俺が、まだ、俺であるうちに…お前、との、記憶があるうちに………殺し、て……くれ、ぇっ…!!
(振りかざす手を精一杯止めながら涙を流すアステア)

イーダ:……っ…許せ………アステアァァァ!!!

アステア:ぐはっ…ば、かなっ……この人間の、魂は……食いつくし、た、のに……



───剣をアステアの心臓に突き刺すイーダ、倒れるアステア



イーダ:…あ…ぁあ……俺、が……殺した、のか……この、周りに横たわっている仲間の、死体も…アステアも…全部、全部、俺が……

アステア:…っ……イー……ダ……

イーダ:っ!アステア…!

アステア:……ど、した……そんな、かお、して……おま、え……らしくない、ぞ……いつもの、強気なお前は……どこいった?

イーダ:っ…俺……俺はっ……隊長失格、だ……部下の命も……お前のことも守れない…悪魔の言葉にも…惑わされそうになった……こんな俺じゃ……

アステア:…っ…ばか……やろ……しっかり、しろ、隊長…っ!
(力ない手でイーダの胸ぐらを掴む)

イーダ:っ…!

アステア:おまえ、が……そんなんで、どうするっ!誰が国民を守る?!誰が…国を守るんだ!…お前を、信頼して、背中を預けたのにっ……見損なったぞ、イーダっ!

イーダ:……アステアっ……俺は…っ

アステア:……この、戦いで、勝って……帰って……一緒に、酒を飲むんだろ?

イーダ:……あ……

アステア:その時、は……俺の奢り、なんだよな?

イーダ:…っ、あぁ、そうだ!お前があの夜、弱気になってたから、その罰だ!

アステア:……はは…なんだそれ……とんだ罰だな……わかった、いくらでも……おごっ、て、やる……から……勝って、こい……

イーダ:……っ……約束、だぞ!生きて帰って、一緒に朝まで飲もうっ……!必ずだ!

アステア:あぁ、わかった……約束……だ……ほら、いけ……俺は…もう、やくに……たちそうにない…ここで……まってる、から…

イーダ:…わかった…必ず勝つ!!……だから、眠るなよ…アステア……

アステア:…あぁ…いけ

イーダ:……っ……「夢の中で、必ず、また会おう」…

アステア:……あぁ…そう、か……

イーダ:?

アステア:……「お前が、夢の中でまた『僕』と出会ってくれるのならば、『僕』は星になって、お前を見守ろう」……

イーダ:っ!その、言葉…どこかで……

アステア:……お、やすみ……兄弟……
(ゆっくり目を瞑るアステア)

イーダ:……アステア…?…っ……おい、寝るな…おい!…約束だろ!待っててくれるんだろ!?なぁ!!……っ…だめ、だ……今泣いたらアステアに、泣き虫とバカにされる……絶対、勝ってみせる…まってろ、アステア…!!



イーダ(M):俺たちは…我が軍は、絶体絶命の危機に陥ったものの、辛くも勝利を収め、この無意味な戦いに終止符を打った…敵国は我が国の1部になり、戦力として雇ったネクロマンサーは、軍と死者を冒涜したということで、むごい拷問を受けた後(のち)、全員死罪となり、操られていた遺体達は、1人ずつ墓地へ埋葬された……それから、半年後……




──アステアの墓へ座るイーダ、手には酒を持っている




イーダ:……アステア、元気か?遅くなったけど、約束通り、酒を飲もう!……ただ、約束と違うのは、この酒はお前の奢りじゃないし……店ではなく、お前の墓の前だけど、な…なんで待っててくれなかったんだよ………なぁ、まだ俺の夢の中に出てきてくれないのか?……相変わらず俺は…毎晩同じ夢を見るよ…顔が瓜二つの、双子の兄弟の夢……なぁ、アステア、お前も…俺と同じ夢を見ていたんだろ?俺、思い出したんだ……お前の最期に言っていた言葉…あれを、どこで聞いたのか、を……



──夢の中、回想シーン



イーダ(前世):なぁ、俺たち、どっちが先に死ぬと思う

アステア(前世):何いきなり物騒なこと言ってんの?

イーダ(前世):だって、俺たち、双子でいくら一緒にいるとはいえ、さすがに死ぬ時も一緒、なんてことは無いだろ?

アステア(前世):まあ、たしかにそれはそうだけど…

イーダ(前世):だからさ、俺たちのどっちかが先に死んだら…また、死んだ後に……会うことはできるのかなって

アステア(前世):……お前は時々、妙なこと考えるよな

イーダ(前世):そうか?

アステア(前世):そうだよ

イーダ(前世):お前だって人のこと言えないけどな

アステア(前世):な!なんっ!!

イーダ(前世):まあ、俺たち双子だし♪

アステア(前世):そ、そうだけど……じゃあお前は、先に死んだらどうやって僕に会いに来るの?

イーダ(前世):ん?うーん…そうだな……そうだ!夢だ!

アステア(前世):夢?

イーダ(前世):そう!誰だって、眠れば夢は見るものだろ?

アステア(前世):まあ、そうだね

イーダ(前世):だから、俺が先に死んだら、夢の中で会おう!

アステア(前世):…ふふ、いいね、それ

イーダ(前世):だろ!我ながらいいアイディア思いついちゃった♪

アステア(前世):さすが僕の片割れ

イーダ(前世):ふふーん♪お前は?

アステア(前世):ん?

イーダ(前世):お前が先に死んだら、どうやって会う?

アステア(前世):…んー、そうだな…じゃあ僕は、星になろうかな

イーダ(前世):星?

アステア(前世): お前が死んだ時、夢の中で僕と出会ってくれるのなら、僕は代わりに星になって、お前のことを見守るよ

イーダ(前世):……やっぱりお前ってロマンチスト

アステア(前世):ええっ!?そんなことないと思う…てゆうか、そっちだってロマンチストだろ、夢の中で会おうなんて

イーダ(前世):うるさいなっ、同じ血が通ってるんだから似て当然だろ!

アステア(前世):ふふ、そうだねっ……あ、みて!今日は「双子月(ふたごづき)」の日だ

イーダ(前世):……本当だ…たしか、50年に1回か2回、見れる現象だよね、裏の世界の月と、俺たちの世界の月が隣り合わせになるっていう

アステア(前世):そう、まさか今日だったなんて…すごい偶然だね……となりに並んで…… 綺麗だな

イーダ(前世):……なあ、お願い事しよう!

アステア(前世):お願いごと?

イーダ(前世):双子月に願いを言うと、叶うって言い伝えがあるらしいよ

アステア(前世):へえ、そうなんだ

イーダ(前世):せっかくだし!ね!

アステア(前世):うん!そうだね…これもきっとなにかの縁だとおもって…


───2人、月に何かを祈る


イーダ(前世):……お前は、何お願いした?

アステア(前世):んー、内緒!

イーダ(前世):なんだよ、教えろよ!

アステア(前世):そっちが教えてくれたら教えるよ

イーダ(前世):……恥ずかしいから教えないっ!

アステア(前世):じゃあ僕も教えなーい!

イーダ(前世):なんだよ!ケチ!

アステア(前世):そっちが教えてくれないんだからおあいこだろー

イーダ(前世):…ふっ、あははっ、そうだな!…月が高い…そろそろ帰ろうか

アステア(前世):うん、そうだね……帰ろ



───2人手を繋いで帰路に着く、回想シーン終わり



イーダ:……あれは、俺たちの前世の夢だったんだ…アステアの言う通り、俺たち本当に、前世の絆で結ばれてたんだな…ふふ、まさか、お前と双子の兄弟だったなんてな…お前も、気づいていたんだろ…だからあの時…あの言葉を言ったんだよな…?……なぁ、答えてくれよ…アステア…っ…夢の中でも、なんでもいい……お前に会いたい…声が聞きたい…またお前と、剣の稽古をして……くだらないことを言って…っ……笑い、あって………っ……なんで…なんで死んだんだよ…2人で生きて帰るって約束したじゃないか!!…俺より、先に逝くなよ…ばかアステア…


アステア(心の声):お前がそんな死にたそうじゃ、俺だって安心して夢に出てこれないだろうが、ばかイーダ


イーダ:っ!!



───イーダ、声のした方に振り返るが、誰もいない…



イーダ:……あぁ、そうだな…あれからもう、半年経ったのに、情けないな、俺は…1番隊隊長としても、おまえの一番の親友としても……お前の分までしっかり、生きなければな…お前が安心して、俺の夢の中に出てこれるように…それまでは、星を眺めて、お前のことを想っていよう……会いに来てくれるのを待ってるよ…兄弟…



イーダ(M):夢を見た…酷く懐かしく、残酷で……しかし、幸せな夢…優しくて、暖かい眼差しの、彼の夢を…



アステア:よう!…ふふ、あんまり寂しそうだったから会いに来たぞ、寝坊助




-終わり-







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